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お店ラジオ 2023/09/06 2024/03/14

モノを売る前にコトを売る、コトを売る前に人を売る

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、大型ショッピングセンターなど全国39都道府県に約180の楽器店と音楽教室を展開し、さらに新規出店により規模拡大を続けている、島村楽器株式会社 代表取締役社長 廣瀬 利明さんです。

1962年、音楽教室として島村楽器を創業。楽器店と音楽教室を併設する総合楽器店としてショッピングモールを中心に拡大した店舗経営の課題や苦労、さらに、楽器店のビジネスモデルや「モノを売る前にコトを売る、コトを売る前に人を売る」という創業者の経営哲学と、音楽を通じて「コミュニティ」を作るという独自の経営戦略について、3回にわたりお伝えします。

第1回は、音楽教室からスタートした島村楽器、楽器店のビジネスモデルなどについてお送りします。

第2回は、オンラインストア戦略やコミュニティづくりなど、独自の経営戦略についてお送りします。

 

この記事の目次

 

多店舗展開のメリットを活かした効果的な在庫管理

効率的な在庫管理を行う取り組みの一つとして、店舗でのギターの品揃えについては、自社ブランドやメーカーとのコラボ商品など、各店舗の在庫の50%は会社が指定する商品を置き、残りの50%は店舗の選択に任せるという方法を取っています。

店舗ごとの特性を理解し、店長が顧客層を観察して売れる商品を選定、陳列や仕入れを行います。競合店が強力な品揃えを持つ場合には、店長などの判断により、他の種類の楽器を増やすなどしています。

その他にも、例えば高額なピアノ3つを仕入れた際には、催事やフェアの際に特別な商材として店舗で展示した後、購買需要のある他のエリアに移動させることも検討されます。これは多店舗展開の強みを活かす方法の一つだと思います。

また、今はインターネットでの購買が増えていますので、店舗に展示している在庫が遠方の顧客に売れることもあります。そのため、インターネットでの注文に対応する体制も整えています。

 

島村楽器オンラインストアの戦略

島村楽器ではインターネットでの楽器販売も行っていますが、購入後のメンテナンスが必要な場合があります。例えば、インターネットで楽器を購入した際、お客様が「どこでメンテナンスすればいいんだろう」という不安を感じることがあるかもしれません。

一方、島村楽器は全国に店舗を持っていますので、購入後のメンテナンスを全国の店舗で行うことができます。同じ島村楽器で購入した楽器であれば、お住まいの地域にある店舗に持ち込むことでメンテナンスや対応が可能ですので、この点が全国展開のメリットの一つです。

また、オンラインストアでも、店頭と同様に丁寧な説明やおすすめポイントの文言、写真などを掲載することを心がけています。単なる商品スペックだけではなく、我々が取り扱っている楽器に対する愛情や情熱をお客様に感じていただくことが、購買意欲を高める要因になると考えているからです。

将来的には、オンラインストアで購入されたお客様に実店舗までお越しいただき、練習スタジオを使っていただいたり、ワンポイント講座に参加していただいたり、できれば演奏などもしていただきたいと思っていて、そういったお客様をどのように増やしていくかを考えています。

 

ビジネス成長において不可欠なコミュニティづくり

初心者の中には、独学で練習しているものの上達が難しく感じて挫折する方も多いと思います。しかし、そのような方々が音楽を続けていけるよう我々がケアしていかないと、入門コースから次の段階への移行が難しくなりますので、島村楽器では月に3回レッスンを行う月謝制の教室の他に、初心者の方を対象とした「ビギナーズクラブ」という取り組みを行っています。

「ビギナーズクラブ」では、ギターの得意なお店のスタッフが1回あたり500円の参加料をいただいて指導していて、教室などよりも気軽に参加していただけます。

他にも、日本は吹奏楽が盛んですが、中学高校でやって引退すると、その後はやらないという方が多いのです。社会人の楽団についても、コミット量が多すぎて「そこまではやりたくない」という方もいらっしゃいます。そこで、イオンレイクタウンの島村楽器では、大学のサークルと一緒にゆるく繋がりながら吹奏楽の活動を行っています。

こうしたソフト面の運営は、売上に直接結びつくわけではないかもしれませんが、長期的な視点で考えると非常に重要であると考えています。

お客様が楽器を購入し、我々がその後の演奏までを支援するなどで付加価値を提供することにより、お客様と店舗との間に継続的な関係を築いています。そしてそれは、他の人々も引き込む役割を果たすこともあります。このようなコミュニティづくりは、短期的な楽器販売だけでなく、長期的なビジネス成長においても不可欠な要素なのです。

 

モノを売る前にコトを売る、コトを売る前に人を売る

創業者の島村は、常に「モノを売る前にコトを売る、コトを売る前に人を売る」と語っていました。ここで言う「モノ」とは我々にとっては、商品である楽器を指します。例えば、お客様がギターを買っても、初心者の方はすぐに諦めてしまったり、上手くなれず、1ヶ月後には押し入れの隅にしまい込んでしまったりすることがあります。

それでは、なぜお客様はギターを購入したいのでしょうか。そこには学園祭で注目を集めたいという思いや、同僚の結婚式で演奏する予定があるなど、お客様一人一人に様々な理由や背景があります。

接客を担当するスタッフは、お客様の真の目的を理解することが重要です。ですから、接客する場合にはお客様が実際に何を求めているのか、入念なコミュニケーションを通じてしっかりと把握し、最適な楽器を提案できるよう心がけています。

そして、その提案を成功させるためには、「コト」や「モノ」よりも、スタッフ自身、つまり「人」としてお客様に気に入られることが最も大切だと考えています。その創業者の教えは今でも社内で繰り返し伝えられています。

 

音楽教室運営の課題は、質の高い講師の確保

我々が運営する音楽教室は、基本的にマンツーマンの指導形式をとっています。例えば、ピアノやサックスなどは全て個人レッスンで、総数で約60コースを設けています。ただし、ギター、ドラム、ベースのレッスンでは、最大5人までのグループレッスンも行っています。

音楽教室を運営する中で一番の課題となるのは、「質の高い講師を探すこと」です。当然、音楽大学の卒業生をピアノ、サックス、フルートなどの講師として採用することが多いのですが、音楽の学歴だけが教師の適性を示すものではありません。

演奏レベルが期待以下の講師は生徒からの信頼を得るのが難しくなりますし、コミュニケーション力が低い講師はレッスン時に質の高い指導ができません。そのため、非常に手間はかかりますが、筆記試験、実技試験、そして面接を実施し、総合的な能力を確認したうえで講師として採用するという形を取っています。

 

フレキシブルな「サロン」の魅力

特殊な楽器の講師は、見つけるのが特に難しくなります。現在、我々の教室には1,900名ほどの講師が在籍していますが、それでも常に新しい講師を採用する必要があります。

また、講師たちの雇用形態は様々で、パートタイマーや専属の正社員などで、1,900名中、8割以上の講師は業務委託として週に1〜5回のレッスンを担当しています。一方で、15%程度は正社員として週5日のレッスンを行っています。

我々は、正社員のレッスン方式を「サロン」と名付けています。一般的な音楽教室では「ピアノのレッスンは毎週水曜日の5時半から6時」といった固定の日時が設定されることが多いのですが、サロン方式では講師の出勤日に合わせ、講師の空き時間にレッスンを予約することができます。これは歯医者の予約方式と同様で、非常にフレキシブルにレッスンの日時を選択することができるため、多くの生徒さんに喜ばれています。

料金は選択する楽器やレッスンの形態に応じて異なり、月謝は1万円から1万3、4千円程度を設定しています。また、発表会に参加する際には、ホールの利用料などの追加費用が発生するシステムになっています。

 

第2回は、オンラインストア戦略やコミュニティづくりなどの独自の経営戦略についてお送りしました。
第3回は、店舗の施設や講師確保の課題、総合楽器店の役割などについてお送りします。

執筆 横山 聡

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