about
「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、大型ショッピングセンターなど全国39都道府県に約180の楽器店と音楽教室を展開し、さらに新規出店により規模拡大を続けている、島村楽器株式会社 代表取締役社長 廣瀬 利明さんです。
1962年、音楽教室として島村楽器を創業。楽器店と音楽教室を併設する総合楽器店としてショッピングモールを中心に拡大した店舗経営の課題や苦労、さらに、楽器店のビジネスモデルや「モノを売る前にコトを売る、コトを売る前に人を売る」という創業者の経営哲学と、音楽を通じて「コミュニティ」を作るという独自の経営戦略について、3回にわたりお伝えします。
第1回は、音楽教室からスタートした島村楽器、楽器店のビジネスモデルなどについてお送りします。
この記事の目次
音楽教室からスタートした島村楽器
島村楽器は、1962年に島村元紹が創業しました。当時、ヤマハさんが「ヤマハ音楽教室」を全国に広げていく過程で、書店や文房具店などの地域に根差した商売をしているオーナーや社長さんに音楽教室を開かないかと声を掛けていたそうです。
そんな中、楽器は演奏しませんがクラシック音楽を聴くのが好きで、当時文房具店を経営していた島村が手を挙げ、ヤマハ音楽教室を始めたのが創業のきっかけです。現在は、総合楽器店を全国に展開しています。
私は創業者の娘と結婚して経営を引き継いだ、2代目の経営者です。元々大学卒業後は銀行に勤めており、その時に結婚した相手がたまたま創業者である島村の娘でした。しかし、結婚する時には 会社を継ぐ話など一切ありませんでしたし、私自身も楽器を演奏しませんので、会社を継ぐつもりは全くありませんでした。
ところが、結婚から数年後に突然、会社を継がないかと言われました。これまでの経験や考えから一変して創業家の後を継ぐこととなり、島村楽器株式会社の経営を担うことになりました。
音楽教室から総合楽器店へ、そしてイオンへの出店
お子さんが「ヤマハ音楽教室」でレッスンを受けて楽器の演奏が上達すると、家での練習のために楽器を購入することが多くなります。そのため、島村はピアノとエレクトーンの販売を開始しました。
そして、1976年には東京・江戸川区平井の駅前に、ライトミュージックのギターやベース、ドラムなどを扱うお店を開店しました。これが総合楽器店としてのスタートで、初めは路面店を中心に展開していました。
1982年、イオン(当時のジャスコ)が東京に初めて出店する計画があり、江戸川区葛西への出店に合わせて、その中にお店を持つ機会を得ました。
しかしこの店舗では、楽器の販売スペースよりも、音楽教室や練習スタジオ、ミキシングルームのスペースが主でした。
そして、楽器のスペースよりも教室やスタジオのスペースの方が大きいというユニークな店舗に、当時のジャスコの社長であった岡田氏が興味を示し、ジャスコが全国展開する際には、私たちに出店のオファーをしてくれるようになりました。
現在、全国で展開している180店舗のうち、約3分の1はイオングループが運営するショッピングセンターに出店していて、他ではパルコやららぽーとなどの商業施設にも出店しています。
楽器店の多様なビジネスモデル
楽器と縁のない多くの方にとって、楽器店のビジネスモデルを具体的にイメージするのは難しいかもしれません。楽器店や音楽教室は、大きく3つのカテゴリーに分けられます。
1. 音楽教室専門:
主に音楽教室のみを提供する場所。生徒の自宅で教える個人教師も含まれるため、非常に多く存在します。
2. 専門店:
特定の楽器だけを取り扱う店。例えば、ピアノの専門店やギター・ベースの専門店などです。
3. 総合楽器店:
我々島村楽器のように、多種多様な楽器を揃えている店舗。
専門店は品揃えが限定されるため、スタッフもその特定の楽器について深い知識を持つようになります。そのため、顧客に対して専門的なアドバイスを提供することができます。
一方、総合楽器店の場合、さまざまな楽器の知識が求められるため、全ての楽器に精通しているわけではないスタッフの数も多くなります。そのため、スタッフの採用や教育がサービスの向上に向けて重要な要素になります。
総合楽器店に求められるのは「専門知識よりもコミュニケーション能力」
我々がショッピングセンターに出店し続けるのは、より多くのお客様に気軽に楽器店を訪れていただきたいと思っているからです。店の入り口に扉を設けず、多くのお客様に気軽に立ち寄っていただき、楽器店を体験していただきたいと思っています。
最近は、娘がピアノ、息子がギター、父親がドラムなど、家族の中で異なる楽器を選択するご家族も増えています。我々のような総合楽器店であれば、このような家族全員が一緒にそれぞれの楽器を選べるのが、大きな魅力と言えます。これは、総合楽器店ならではだと思います。
お客様に楽器の魅力を伝えるためには、スタッフの接客が大切です。しかし、総合楽器店でのスタッフの教育は、特に商品知識の習得という点においてハードルが高いのです。
スタッフは多くの楽器を扱うため、どうしても楽器の知識が「広く浅く」になります。我々も社内教育において専門知識を向上させる取り組みを続けていますが、楽器に詳しいお客様には「専門店を訪れる方がよい」と感じられてしまうかもしれません。
しかし、すべてのお客様が深い専門知識を持ったスタッフと対話したいと思っておられるわけではありません。知識が豊富でないスタッフであっても、高いコミュニケーション能力を持つ者は、顧客との心地よい会話を通じて信頼関係を築くことができます。知識が豊富でないスタッフに対して、ギターに詳しい常連のお客様がアドバイスをしてくださるというような場面も珍しくありません。
つまり、総合楽器店においては、コミュニケーション能力が重要であると言えます。そのため、我々の会社では、採用時は楽器の知識よりも、お客様とのコミュニケーション能力を重視しているのです。
店舗ごとの在庫管理の考え方
楽器店の経営において、スタッフの知識と経験を積むことももちろん重要ですが、同時に、楽器の在庫管理もとても重要です。私自身、会社に入社した際に在庫の回転効率を見て、楽器店経営が一筋縄ではいかないことを痛感しました。
楽器の種類によっては高い回転率のものもあるのですが、高い回転率の楽器だけを取り扱っていると、総合楽器店として魅力のない店になりかねません。
電子ピアノは高い回転率を持つ商品の一つですが、多くの人々に需要があるだけではありません。日本のメーカーが主要メーカーで廃盤モデルが100種類を超えることも稀で、20から30種類の電子ピアノを取り扱えば、ほとんどの顧客ニーズに応えることができます。
その一方で、ギターは数千から数万種類あります。競合する専門店の中には、時には1,000本以上のギターの在庫を抱える店舗もあります。その中で“どの商品”が“いつ”、“誰に”購入されるかを考えて、適切な商品を適切な量だけ仕入れて在庫管理をしていくことは、複雑で難度の高い課題です。
完璧で細かな管理は難しいため、我々は毎年の予算会議で店舗ごとに在庫の回転率、売上予算、利益予算、在庫回転予算など、店舗ごとの経営戦略を立てつつ、効果的な在庫管理を目指しています。
また、回転率の低い商品を扱う店舗と、比較的高い回転率が期待できる店舗を分け、各店舗に対して異なる予算を設定しています。最も予算が多い店舗と最も予算が少ない店舗では、回転率に約2倍の幅を持たせるアプローチを取っています。
これは、お店で取り扱う主力商品の違いによるもので、例えば、我々が「生ピアノ」と呼ぶ一般的な黒いピアノは回転率が低くなります。逆に、電子ピアノの売り上げが比較的高い店舗については、業界全体の平均回転率よりも高い目標を設定するなどしています。
第1回は、音楽教室からスタートした島村楽器、楽器店のビジネスモデルなどについてお送りしました。
第2回は、オンラインストア戦略やコミュニティづくりなどの独自の経営戦略についてお送りします。