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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、“低価格で高品質な商品を提供する”鎌倉シャツの取締役副社長 貞末さんです。「鎌倉発のオリジナルなブランド戦略」についてお送りします。
第1回は、低価格で高品質な鎌倉シャツを届けられる秘密についてでした。
第2回は、鎌倉シャツの伝統と革新を支える技術と戦略についてでした。
第3回は、鎌倉シャツの海外展開と広告としての出店戦略についてお聞きします。
この記事の目次
鎌倉発「作務衣」が大ヒット商品に!?
現在は、鎌倉で新しい商品を開発しています。鎌倉といえばお寺が有名ですが、お寺の方と協力して、新しい商品「作務衣」というお坊さんが着る仕事着を開発しました。
2021年に発売し、素材やパターンにはシャツに関する情報を取り入れました。この商品は大ヒットとなり、お坊さんだけでなく、最近では在宅勤務やリモートワークの増加により、ワンマイルウェアとしても人気で、多くの方に購入していただいています。
私自身も鎌倉で作務衣を着ていますが、街中では作務衣を着て普通に歩いている人もいらっしゃいます。珍しくて振り返られることはないですが、レストランなどに行くと大事にされます。
海外への進出 ニューヨーク第1号店での成功体験
前回、海外進出のことをお話ししましたが、海外1店舗目はニューヨークでした。場所は5番街の横、メイン通りであるマディソン・アベニューは、紳士服の聖地として知られています。ブルックスブラザーズ、ポールスチュアート、Jプレスなど、有名なブランドがこのマディソン・アベニューに店を構えています。2012年、その並びにポツンと小さなお店を出しました。
当然、ニューヨーカーに好評を得ることを望んではいたのですが、彼らが本当に日本のシャツを買ってくれるかどうかは疑問でした。そのため、現地の駐在員などに買っていただけることを期待していたのですが、思いがけず多くのニューヨーカーが店を訪れてくれました。実際に、ほとんどの顧客はアメリカ人でした。このお店は2012年から2019年まで営業しており、顧客数は約4万人に上りました。
そこで好評だったのが、スリムフィットのシャツでした。東京フィットとニューヨークフィットの2つのシャツを用意しましたが、売れたのは東京のフィットの方でした。
東京のスリムフィットのサイズが合うのかと心配しましたが、朝からトレーニングをしているようなムキムキの方が東京フィットをムチムチに着ていましたね。これがニューヨークスタイルだと言わんばかりでした。また、いらっしゃるお客様は皆さんオシャレな方ばかりで、特にブルックスブラザーズなどのプロの方が気に入ってくださいました。シャツは自分のところで買うよりも鎌倉で買った方が良いと言ってくださるなど、業界からの支持が高かったです。
そして、2店舗目を出しましたが、こちらは集客がかなり厳しい場所への出店でした。家賃も高くて、こちらは2年ぐらいで閉めることになりました。
しかし、全体としてはかなりいけるだろうというイメージは持っていますので、ニューヨークではコロナの影響を受けて一時的に撤退していますが、数年以内には再度法人を設立して事業を再開することを目指しています。ただ、ニューヨークは家賃が非常に高いため、2階や3階をブティックにし、出張オーダーサロンの形式での展開を検討しています。
アジアへの進出 台湾と中国での試み
その後、アジアへの展開を図りました。最初に進出したのは台湾でした。台湾でやりたがっていた熱心な方がいて、フランチャイズでの展開を試みましたが、結局はうまくいかずに終わってしまいました。
原因は、原価率が高いことでした。当社の商品は原価率が高いため、家賃を支払ってさらに利益を出すのは極めて困難です。販売価格もグローバルオンラインサイトの価格に合わせるように設定しているため、セールも実施できず、フランチャイズ展開ではなかなか継続的な収益を得られなかったのです。
その後、中国にも進出しましたが、こちらは自社で店舗を運営しています。現在は上海に1店舗ありますが、新型コロナウイルスの影響もあり、苦戦しています。しかし、中国ではまだ人件費や家賃が比較的安く、売上も好調なため、今後も進出を続ける予定です。
国内での出店戦略「広告としての店舗」
現在、国内には22店舗展開しています。コロナ前は、出店戦略は考えていなかったため、良いオファーがあれば調査して出店していました。まずは、自社のオンラインショップで調査エリアのカスタマー数を調べ、そのエリアに実際に足を運び、街の雰囲気を見てブランドと合うかどうか判断しています。そして、合うと判断したエリアに出店する感じです。
オンラインで一定数のお客様がいる場合でも、オンラインだけではブランド認知が広がりにくくブランドの浸透に繋がらないため、オンライン展開に加えて実店舗展開も重要だと考えています。
たとえば、神戸には多くのお客様がいらっしゃいますが、鎌倉シャツはなかなか認知が広がらず、増えていきませんでした。また、神戸には神戸シャツというお店があったようですが今は無くなってしまっており、「シャツを買うお店が無くて困っているから出店して欲しい」と多くのオファーがありました。そこで調査をしたところ、オンラインのお客様も一定数いらっしゃることや、今後も伸びしろがあると判断したことから、2022年10月に神戸北野坂店をオープンしました。
店舗は広告の役割もあると考えています。特に品川駅周辺は良い場所です。多くの方が駅を降りてタクシーに乗る間に、店舗を広告的に認知してくれていますので、「お店があそこにあるんですよね」と言っていただくことがよくあります。お店は広くありませんが、狭い店でも、目立つ場所に出店することで広告効果を狙っています。
シャツはオンライン販売向きのビジネスモデル?
オンラインでも販売をしていますが、売上を占める割合がコロナ前とコロナ後では大きく変化しています。コロナ前は約20%だったオンラインの売上が、現在は30%以上にまで伸びています。
鎌倉シャツの場合はオンラインで買いやすい商品が多いので、オンライン向きのビジネスモデルかもしれないと考えています。生地とサイズを選択するだけで、すぐに商品が届くので、ある意味消耗品のような感覚です。
お店で自分の好きなサイズ感を店員と話しながら決めて、1度購入してサイズがわかれば、2回目以降はネットで購入できますし、その導線がもう既にできあがっています。
ただ、生地の感じというのはなかなか伝わりづらいです。生地は糸の細さを表す番手というのがあり、それを写真などで表現する形になります。当然、触れられませんので、鎌倉シャツへの信頼感、安心感で購入いただいているのではないかと思います。
鎌倉シャツの場合はサイズで商品を売るという性質上、1商品で異なるサイズが多くなり、在庫管理が重要になるため、在庫管理は効率的に行っています。まだまだ完成しているとは言い難いですが、売れる量と作る量のバランスを取ることが重要で、いろいろな分析ツールを細かく使いながら在庫管理を行なっています。
また、商品について言うと、たとえばネックサイズ39cmや40cmの人は多く、全体の30%くらいはそこで売れます。ですから、最終的にそのサイズが残っていたとしても売りやすいので、在庫管理については、真ん中のサイズが残るようにしなさいと言っています。
私にとってのお店とは
私にとってのお店とは、やはり新しい体験ができる、体感もできる場所です。オンラインじゃない本当の提案で新しい喜びが見つけられる場所だと思います。