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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、“低価格で高品質な商品を提供する”鎌倉シャツの取締役副社長 貞末さんです。「鎌倉発のオリジナルなブランド戦略」についてお送りします。
第1回は、低価格で高品質な鎌倉シャツを届けられる秘密についてお聞きします。
この記事の目次
「1万円出せば2枚買える」サイズビジネスブランドの誕生
私はメーカーズシャツ鎌倉株式会社の取締役副社長、貞末哲兵です。
当社は1993年に私の父親が創業したアパレル会社で、当時、父親は大手アパレル会社のVANジャケットに勤めていましたが、業界に問題を感じ、53歳で一念発起して起業しました。
アパレル製品の一般的な原価率は20%から25%程度で、セールを行っても利益が見込める仕組みですが、大量生産による在庫処分の苦慮を避けるため、父は大量生産に頼らず、適正価格で勝負することを決めました。
当社のコンセプトは、「1万円出せば2枚買える」というもので、最初の価格は4,900円でした。セールを行わず適正価格で勝負することにより、長期的な経営を目指したのです。
そのため当社は小ロットで商品を作り、シャツを棚に並べて販売しています。例えば、ネックサイズ39cmサイズ、40cmサイズと並んでおり、サイズで売るビジネススタイルを採用しています。シャツはロットで作りますが、最後の1枚も棚に並べることで、売れ残り感を出さず最後まで消化しています。
例えば、300枚のシャツを一度に生産するとします。普通のアパレルでは、290枚になると在庫処分のためにセールを行うことが多いと思われますが、私たちは残りの10枚を在庫棚に保管できるため、そのサイズを求めるお客様に販売することができます。つまり、30年間にわたって、在庫処分の必要性を回避するためにサイズに基づいた販売戦略を展開してきました。
お客様がシャツを購入する際には、デザインよりもサイズが重要な要素となります。そのため、首回りが40cm、袖丈が82cmのサイズのシャツが棚にあれば、必ずそのサイズを求めるお客様がいると考えられます。
つまり、需要があるサイズに基づいて生産調整を行うことで、在庫処分の必要性を回避することができます。このように、私たちはこれまでサイズをベースにしたロットの生産調整を行っています。
低価格で高品質な商品を提供できるワケ
では、アパレルでもなぜシャツが定番商品だったのかということですが、まず、季節に関係なく着用できるという点があります。一般的にアパレル業界では、春夏には春夏向けの商品を、秋冬には秋冬向けの商品を大量に生産し、最終的にセールで在庫を処分するというビジネスモデルが一般的です。
ですが、弊社が扱う白いシャツは1年中需要があるため、セールで在庫処分する必要がないと考えました。また、シャツは元々下着の一種であり、汎用性が高く、様々なシーンで着用されるというメリットもあります。
ただし、定番商品であるということは、競合他社も多く存在しているということを意味します。また、既存の大手メーカーが供給している状態で市場に参入することは、容易ではありません。しかし、弊社は、当時ラルフローレンやブルックスブラザーズが15,000円程度で販売しているようなシャツを、4,900円で提供することで新規参入しました。
鎌倉シャツが他社よりも低価格で高品質の商品を提供できた理由についてですが、通常のアパレルメーカーは商品作りや工場の手配などを問屋さんや商社さんに丸投げしていることが多いなか、鎌倉シャツは工場と直接取引することによって中間のマージンを排除しています。
また、一般的なアパレルメーカーが原価率20%から25%程度であるのに対し、鎌倉シャツはコスト削減に努めながら50%程度となっており、それでもお客様にお求めやすい価格で提供していますので、喜んでいただけているのだと思います。
ただ、商社を通さないことで必要な工夫があります。例えば、鎌倉シャツでは社内に商社の機能を持つ部隊を設置し、生産部隊などと協力してお店に適切な商品を供給しています。
しかし、最初は商社を通してお願いしますといわれる工場もありました。信用や在庫などは商社がカバーする仕事だと思います。そこは、大量の生地を仕入れたことや鎌倉シャツが業界内で有名になったことなどにより、工場を説得して直接取引をすることができるようになりました。
他社との違いは熟練職人によるパターンメイキング
同じような品質や価格でやっているところはあまり見かけないように思われますが、実際には増えてきているようです。実際、似たようなホームページや価格帯を持つところが多くなっていると感じています。
しかし、我々と競合他社との違いは、パターンメイキングにあります。今でもパターンメイキングは非常に重要です。シャツを作るために型紙を生地に当ててパーツをカットし、それらを組み合わせる作業は非常に難しいです。
人の体は丸くて立体的なのに、平面の型紙を繋ぎ合わせて曲線を作っていくのです。普通は、これが全くできません。海外でも、例えば中国やベトナムでもシャツを大量に作っていますが、平面の型紙で作られたシャツが多く、着用するとぺらっとして膨らみがありません。このようなものが現在は非常に多く見られるように感じます。
鎌倉シャツのパターンを全て紐解いていって、パターンを全て分けていけば真似ができると思われるかもしれませんが、実際にはそう簡単ではありません。私たちが依頼している工場には、パターンを理解している熟練の職人がいます。ただ単にパーツを組み合わせるだけではなく、それぞれのパーツがどのような曲線を出すべきかを頭にイメージしながら縫うことが必要で、イメージしながら縫うと本当に曲線になっていきます。
たとえ1ミリの違いでも、襟のカーブなど細かい部分が影響を受けます。外注の工場には全てこのような作業を依頼していますが、メインの協力工場は4社ほどで、共有しながらやり方を微調整しています。また、ファッションのトレンドも変わっていくため、毎年微調整を重ねながら、工場と共にアップグレードを図っています。
「Made in Japan」のブランド価値を維持したい
現在のところ、海外で生産コストを抑えることは考えていません。しかしながら、少子高齢化により人口が減少し、製造者が集まりにくい現状があります。将来的に海外で作らなければならなるかもしれない、という状況になりつつありますが、やはり鎌倉シャツは「Made in Japan」というものが、ブランドにとって重要なコンテンツになっています。
そのため、現時点では海外で良い品質の商品を作ることができても、これからも日本で製造して工場を盛り上げていきたいという気持ちを強く持っています。
しかしながら、製造する方が減ってしまうと当然商品を作ることができなくなるため、海外生産も視野に入れながら対応していく予定です。
鎌倉シャツはデザインが頻繁に変更されると言われています。これは、製造ロットが少ないため商品の回転率が速いからだと思われますが、実際は逆に製造ロットは非常に大きいです。
人気が高く回転率が速いため、セールをしなくても売れていくことが多く、商品がどんどん入れ替わっていくのです。
第1回は、低価格で高品質な鎌倉シャツを届けられる秘密についてお聞きしました。
次回は、鎌倉シャツの伝統と革新を支える技術と戦略についてお聞きします。