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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、創業明治42年で110年以上の歴史を誇る書店の老舗「有隣堂」を運営し、コラボカフェなど新しい業態へもチャレンジする株式会社有隣堂 代表取締役松信健太郎さんです。
あまり知られていない書店のビジネスと本を軸にした新しい経営戦略について、3回に分けてお送りします。
第1回は、有隣堂のビジネスモデルについてお送りしました。
第2回は、共感を生む有隣堂の挑戦についてお送りしました。
第3回は、コラボカフェ、YouTubeへの挑戦と、書店の課題についてお送りします。
この記事の目次
本を軸とした新たな業態への挑戦
お店とは、“お客様に安らぎ、感動を感じていただく場”だと考えていて、その場を守るために、飲食店などをはじめとして、本を軸とした新しい業態への挑戦も行っています。
飲食店の経営については、もちろん私たちが中心となってやってきましたが、最初の段階からプロのコンサルの方にも入っていただきました。
売上はともかく、経営自体に大きなトラブルはなかったのは、コンサルの方と社員とで「カフェにはこれが必要だよね」というようなことをしっかりと話し合いながらやってこれたからだと思います。飲食を本業とする会社と比べると出店に時間は掛かったかもしれませんが、話し合いをしっかりと重ねてきたからこそ、失敗なく続けられているのだと思います。
本とカフェは親和性が高く、今は本を軸とした新しい形態のお店を考えています。
その1つが、コラボカフェです。
最近では、ディズニーの「くまのプーさん」をモチーフにした「はちみつカフェ」を展開し、多くのお客様にお越しいただいています。ディズニーさんにも協力していただいてプーさんの世界観を体感していただくイベントとして大々的に実施し、インスタなどのSNSでもかなりバズって、 最大6時間待ちの状態になりました。
これは、単なるコラボカフェではなく、本を軸に空間を作っていくというイメージを持っていたことが、ディズニーさんに協力をいただけた大きなファクターになったことは間違い無いと思います。
そして、さらに新しい挑戦として、デジタル領域の取り組みを進めています。
3年前に、本に対する想いや知見などをアウトプットすると喜んでくださる方もいるのではないかと思い、YouTubeを始めました。広報の手段としてオウンドメディアを持ちたいとも思っていましたので、本当に軽い気持ちで始めてみました。
YouTube再チャレンジで魅力あるコンテンツに
Youtubeでは、最初は本の紹介をしていたのですが、ネタバレがダメだったり、表紙の写真が思うように使えなかったりといた制約があり、最初は自分で見ても驚くほどつまらないコンテンツで、社員数の半分にも満たない再生数にとどまっていました。
Youtubeをお手伝いしていただいた方との契約更新にあたって、YouTubeを継続するかどうか悩みましたが、ここで辞めてしまったら勿体ないということで、新たなプロデューサーに入っていただき、全く内容を変えて再チャレンジしました。
新しいチャンネルでは、文房具や雑貨の紹介などを多くすることにしました。しかも「有隣堂のスタッフや関係者が、自分が好きなものについて純粋に語る」というコンセプトで運営しており、有隣堂で売っていない物を紹介することもあります。そのあたりをご評価いただいているためか、現在では、登録者数が20万人を超えるところまでいきました。
その後、オリジナルグッズの販売も始めて、売上にも少し良い影響を与え始めています。
オリジナルグッズはミミズクをモチーフにした「ブッコロー」というキャラクターを使って、「ブッコロー」のぬいぐるみやハンカチを出しています。ただ、我々がオリジナル商品を作ることに慣れていませんので、最初の製造ロット数をかなり抑えて作ってしまい、即完売という状況が続いています。
顧客“ファン化”への取り組み
私は、本屋を続けていくためには、商品で差別化するのではなく、お店のファンになっていただくことが一番大切だと思っています。お客様に「どこで買っても同じだけれども、あそこが好きだからあそこに買いにいくか」という気持ちになっていただくことが重要です。
今は、コラボカフェやYouTubeなどもやっていますが、一般のお客様にファンになっていただけるように地道な取り組みを続けています。例えば、有隣堂では10色の選べる文庫カバーの提供サービスを行っています。文庫カバーは1977年頃からやっていて、名物企画として定着しています。
また、商品のレイアウトにもこだわりっており、ポップを付けたりボリューム陳列で売りたい商品をPRするなど、お客様の層にあった陳列などを店舗ごとにやっています。
一方で、私たちは客単価を上げる努力は行っていますが、より単価の高い本を買っていただくようなアップセルや、他の本も買ってもらうためのクロスセルなどへの取り組みはあまり考えていません。コミックを買いに来たお客様が動線上にある実用書に興味を持って買っていただくというようなことは無いと思うからです。
ただ、雑貨や文具などの非書籍の売上は客単価を上げるうえでとても重要な要素です。本のアップセルやクロスセルは無理でも、雑貨や文具は買っていただけますので、雑貨などをもう1点お買い上げいただいて客単価を上げていく努力はしており、結果として有隣堂では売上のうち非書籍が大きな割合を占めています。
また、ベースの部分で、本を探しやすくするなど“当たり前の小さな努力”を継続していくことが大切だと考えています。
業態の多様化に対応できるレジと書店の課題
有隣堂のこれまでの展開の中で、業態が多様化するにつれて、書店専用として導入していたPOSレジが使いづらくなってしまうことがありました。多様化に対応できるような汎用性が重要であると考えていて、現在は“スマレジ”を使っています。
スマレジはPOS本体でiPadを使っているため、なじみやすく、誰でも使いやすいというのがメリットだと思います。
私たちの場合、多くのアルバイトさんが入社翌日からレジに立つことになりますので、使いにくいというのは致命的なのです。その点、iPadは使い慣れていますので、すぐにPOSの扱いにも慣れてもらえるというメリットがすごく大きいと思います。また、レジ本体が小さくなりますので、レジ周りが整理されるのもメリットの1つです。
このレジスペースの改善は、お客様からの見た目やオペレーション効率といった観点でも、意外と馬鹿にできないぐらいの大きな影響を与えると思います。
他社の状況を詳しくは知りませんが、本のPOSというのはまだまだガラパゴスなのかもしれません。書店は、ISBN(国際標準図書番号)のナンバーコードを読まなければいけないのですが、他業種から転職してきた社員が見てその複雑さにびっくりしたと言っていたのを聞きました。
POS開発の会社においては、全国の書店の店舗数が縮小していく中で、それほど積極的に書店向けOSをアップデートしていくとは考えられませんから、スマレジのようなクラウドPOSにしていく方が安心なのだろうと感じています。
近年は技術の進歩が早いですから、“スマレジ”などのクラウドサービスなどを含めて、柔軟に対応していくことが不可欠です。
また、書店としては棚卸しが課題で、決算前に1回しかできていません。在庫管理は大きな課題だと思っていて、電子タグなどの導入も検討していますが、まだまだコスト的に見合いませんので今後も検討が必要です。私たち有隣堂だけでなく、全国の書店で一斉に取り組むと、そのようなコストも削減できると思いますので、今後は書店全体の課題として検討していきたいと思います。