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お店ラジオ 2023/06/21 2024/03/14

創業明治42年の有隣堂

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、創業明治42年で110年以上の歴史を誇る書店の老舗「有隣堂」を運営し、コラボカフェなど新しい業態へもチャレンジする株式会社有隣堂 代表取締役松信健太郎さんです。

あまり知られていない書店のビジネスと本を軸にした新しい経営戦略について、3回に分けてお送りします。

第1回は、有隣堂のビジネスモデルについてお送りします。

 

この記事の目次

 

創業は明治42年、100年以上の歴史を誇る有隣堂

有隣堂の始まりは、私の曾祖父が1909年(明治42年)に横浜の伊勢佐木町で始めた小さい本屋だと聞いています。

そもそも、その時代に本屋という業態はあまりなかったのかと思いますが、横浜が文化的に進んでいた街で、受け入れられる土壌があったのだと思います。そこから100年以上が経ち、今では、東京都、千葉県、神奈川県で約40店舗を展開しています。

私自身は、2020年7月に代表取締役社長に就任しました。

もともと私は家業の本屋を継ぎたくなくて弁護士になろうと思っており、30歳を過ぎるまで司法浪人をしていました。しかし結局司法試験に受からず、社長である父に拾ってもらうような形で有隣堂に入社しました。というのも、祖父や父が経営しているのを見ていて、本屋は楽な仕事ではないと感じ、できれば本屋ではなく社会正義のような格好良いことをやりたいと思っていたからです。

今振り返ってみると、司法浪人時代の無職の経験が、現在の「常識や前例に囚われない、それらを気にしない」というスタンスの形成につながっているのではないかと思います。

現在の有隣堂としてのビジネスとしては、書店以外にも、ビジネスソリューション事業やアスクルの代理店、コピー機を企業や役所、学校に納める事業などを幅広くやっています。

売上で見てみると、全体で500億から550億円程度なのに対して、書店自体の売上は250億円を切っており、半分以下です。

 

書店のビジネスモデル「再販制度」と「委託制度」

書店のビジネスモデルは、出版社が作った本を問屋である取次さんから仕入れて店頭で販売するというシンプルなものです。

ただ、特徴が2つあります。

1つは再販制度です。再販制度は、基本的には私達と問屋である取次さんとの契約で、価格が決まっており、書店側にに価格の決定権がないという仕組みです。我々にとって有利な面として、小売販売において価格競争に晒されないという点があります。

もう1つは、委託制度というもので、売れ残った在庫は仕入値の100%の金額で全て返品できるという仕組みです。そのため、我々が在庫リスクを負わないでビジネスをすることができるという利点があります。

一方で、全国どこの本屋さんに行っても同じものが同じ値段で売っているという現象を、この2つの制度が招いているという側面もあります。

出版物は、今でも年間で70,000冊~80,000冊出版されます。毎日200~300冊ペースで新商品が出るわけですから、全ての商品を吟味して仕入れ、さらに自分たちで値付けするのは不可能だと思います。そのため、やはり日本の出版の多様性を支えるためには、この2つの制度は必要なのだろうとも思っています。

ですから、私達の方では値段がどのように決まっているかは知らないのです。本当に価格に関しては全くタッチできないというか、いくらと言われたものをいくらで売るだけのビジネスです。

卸しを介さないと絶対に販売できないかというと、そういう訳でもないのですが、合理的ではないと思います。現在、全国には約3,000社の出版社と約9,000店の書店がありますので、それを掛け算すると、膨大な流通量になるためです。

ですから、実質的には取次さんという問屋さんを使った方が、決済も含めて、簡便な仕組みになるのだと思います。

 

書店のロジックと営業力の重要性

有隣堂では、本の並べ方は、各店舗に一任しています。

客層や立地条件、競合など、店舗によって販売環境は様々ですが、それらを一番的確に把握し、最適な本の並べ方を判断できるのは各店舗です。そのため、どこに何を置くかというのは、各店舗の店長やスタッフが決めるという形をとっています。

ある商品を何冊仕入れるかなども、本部や取次さんが多少は手伝いますが、なるべく各店舗で決めてもらうのがいいと思っています。過去の類書などを参考にしながら、毎年入ってくるものについて1点1点仕入量を決めているというのが実情です。

また、会社全体では、数万点の本をデータで管理していまして、店舗での書籍の売れ行きはシステムで把握しています。新刊の仕入部数を決める際や追加発注をする際などに、そういったデータを参考にしています。

ちなみに本の陳列でいうと、レジ前にドーンと置いている本があると思いますが、あそこに本を並べてもらおうと思うのであれば、営業力の強い出版社さんから出版することが必要です。

もちろん、営業力が強いからといって100%売れるわけではなくて、最終的にはお店の責任で仕入や配置も決めます。それでも、1つ1つの本に対して、出版社さんもこのお店で売れるだろうということをデータも使いながらお勧めしてくださるので、大きく外すということはないのではないかと思います。

 

書店でしかできない体験を提供する

本屋さんで働いている人は本を読むのか?という質問をよく受けます。

書店員はすごく本が好きでピュアな人間が多いですから、一般の方よりは本を読む量が多いと思います。

しかし、書店の全ての本に目を通しているかといえば、そもそも量が多いですから、それは不可能です。

ただ、本が好きな人が多いですし、一般の方よりも本に触れる機会も多く、知識もありますから、各書店のオススメの本などのポップはそこの店員が書いています。

私たちが必ず書けとか、1人あたり何枚書けっていうようなことはやっていなくて、お客様にお勧めしたいと思ったら、その気持ちをストレートに書いて、お客様に伝えるというやり方でやっています。

また、最近ではネットでも本が買えたり読めたりします。書店とネットとの関係について議論されますが、本だけのビジネスで申し上げると、今やネットと戦うということはなくて、ネットやECがあることを前提に共存していくということが必要だろうと思います。

書店としては、ネットではできない体験や、物だけに限らず“こと”や“時”など、そういったものを”物”と一緒にお客様に提供しながら、リアルな場所として価値のある空間を作っていくというのが、私たちのとるべき戦略であろうと考えています。

 

第1回は、有隣堂のビジネスモデルについてお送りしました。
次回は、共感を生む有隣堂の挑戦についてお送りします。

 

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執筆 横山 聡

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