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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
今回のゲストは、2015年に沖縄県那覇市内にオープンカウンター6席の人気店「やっぱりステーキ」1号店をオープン、同年に2号店をオープンし、翌2016年には株式会社ディーズプランニングを設立。以後本格的に県内外に店舗を展開し、現在では日本国内に90店舗以上を展開、さらに2023年からは海外へも進出している株式会社ディーズプランニング 代表取締役 義元大蔵さんです。
沖縄で手軽に楽しめるお店としてやっぱりステーキ1号店を開業後、革新的な価格展開の秘訣や独自の店舗の見つけ方、ミスジ革命によるステーキの価格破壊、ドミナント戦略とフランチャイズ戦略、そして海外進出とやっぱりステーキの次の一手「いつでも朝ごはん」についてなど、3回に分けてお話しいただきます。
第1回は、コンサルタントから焼肉店を始めた理由、独自の価格破壊の戦略についてお送りします。
この記事の目次
「やっぱりステーキ」のチェーン展開を成功させた株式会社ディーズプランニング
株式会社ディーズプランニングは、沖縄県那覇市に本社を置く飲食事業を中心とした会社です。飲食店の経営やマーケティングに関するコンサルティング事業も手がけています。主な事業としては、「やっぱりステーキ」のチェーン展開があります。
「やっぱりステーキ」は、沖縄の食材を使ったオリジナルのステーキメニューを提供するチェーン店です。お客様は、自分の好みに合わせてステーキのサイズや焼き加減を選ぶことができます。2015年に、会社の主力事業となる「やっぱりステーキ」の1号店を那覇市にオープンしました。現在では日本国内に90店舗以上を展開しており、2023年には、海外市場にも進出しました。
コンサルティングからステーキ屋へ
私はもともと、飲食店やレストランの経営や修行をしていたわけではありません。実際、飲食業界でのコンセプト考案や現場への落とし込み、目指す客層の特定、目標売上の設定、適切な価格帯の提案など、コンサルティング業務に従事していました。
では、なぜ自分で飲食店を開業しようと思ったのかというと、実はあるきっかけがありました。私が独立を決意したのは40歳の時で、それよりも少し前に、長年勤めていた会社の近くのレストランが閉店しました。このレストランは設備を新しくしたばかりで、オーナーから「5年間のお付き合いに感謝して、設備はすべて持って行ってもらっても構わない」と言われました。その言葉を受け、「独立するべきかもしれない」と思い、開業を決意しました。選んだのはステーキレストランでした。
沖縄ではステーキが非常に人気で、頻繁に食べられています。実際、沖縄はステーキ店の人口比が全国で最も高く、第2位との差も顕著です。およそ10万人あたり10.78店舗が存在するとのことです。この現象は、かつてのアメリカ統治や米軍基地を通じた肉の流通の影響もあるかもしれません。
ステーキレストランを選んだ理由は、沖縄でのこうした背景を考察した結果、ステーキが適していると感じたためです。初めはステーキに関する知識もほとんどなかったものの、沖縄での激しい競争を勝ち抜くためには、独自の価格帯での提供など特徴が必要だと考えました。
ステーキを手軽に楽しめるお店を目指して
ステーキ店を開業した際、私たちは価格とコストのバランスに挑戦しました。ステーキは東京の方が高価ではありますが、沖縄でも2,000円を超える価格帯が一般的です。この価格帯は多くの人にとって手を出しづらい価格です。私は「誰もが気軽にステーキを楽しめるように」という思いから、1,000円でステーキを提供することを目指しました。
最初は、テラスのような廊下の一角で、わずか3坪、6席の小さなスペースのお店からスタートしました。私は、この小規模なお店での集客は比較的容易だと判断していました。そして、お店は開店から2ヶ月ほどで急成長し、毎日行列ができるほどになりました。
店舗が小さく、廊下で食事を提供するというユニークな環境が、通りがかりの人々の興味を引きました。「これは何だろう?」という好奇心と、「1,000円なら試してみよう」という気持ちが多くの人を引き寄せたのだと思います。
革新的な価格戦略で挑むステーキビジネス
1食1,000円台で提供するステーキの原価率は非常に高く、時には50%を超えることもあります。このような高い原価率では、人件費や家賃などの経費を加えると、赤字になるリスクがあります。
食材の原価が50%を超えることがある一方で、人件費は20%未満に抑えることが可能で、一般的な目安の30%を超えることはありません。私たちは、食材と労働(FL)の比率を約70%と設定しています。
コスト削減のため、私たちは券売機を活用し、また、専門の料理人を雇用せずに運営しています。ステーキ調理には通常、専門の職人が必要ですが、溶岩石の使用により、スタッフの教育と調理方法の指導を簡略化しました。
独自の部位選択とコスト管理で挑むステーキビジネスの裏側
ステーキの提供では、肉の扱い技術と同様に、部位の選択が重要です。私たちは、特に「ミスジ」と呼ばれる部位を中心に使用しています。以前はあまり利用されなかったミスジを中心に使用することで、作業効率とスタッフの習熟度を向上させています。
ミスジは特有の筋を持っており、適切な処理には高度な筋切り技術が必要ですが、肉を捌く技術自体は高度である必要はありません。1kgの仕入れ肉からは約620gの肉が提供可能で、約38%が廃棄されるため、原価は自ずと高くなります。
しかし、原価率50%、人件費20%でのFL比率70%は業界標準に比べて高いものの、家賃などの固定費を低く抑えることで、高原価率をバランスさせています。固定費用は一般に売上の約10%とされますが、私たちはこれを5%に抑える戦略を採用し、厳しい原価管理下でもビジネスを成り立たせています。
居抜き物件とブランドアイデンティティの戦略的バランス
物件を探す際、私は店舗やその周辺の環境を観察することで売上を推測します。
例えば、まず「この店舗は月に800万円の売上がある」と予測し、そこから経費を逆算します。家賃が売上の5%以下に抑えられると思われる場合には、良い物件と判断します。一方、家賃が過度に高い場合などは、選択肢から除外します。
居抜き物件等を利用することで初期投資を削減でき、それらが可能となります。コロナ禍で閉店が増えた現状は、居抜き物件をより容易に見つけることができるようになっています。
さらに、内装への投資は最小限に抑え、例えば壁の色をブランドカラーのオレンジに塗る、ロゴを設置する程度に留めています。これは、ブランド認識の即時性を確保するためであり、様々な店舗形態でも、オレンジ色と特定のロゴを見れば、私たちのブランドがすぐに認識できます。
売上を推測するために店舗を観察しますが、決定のための明確な判断基準はありません。最終的な決定は約90店舗の運営経験に基づくものです。まず、人通りの状況を細かく観察します。人が多く通る側かどうか、看板が目線の高さにあるか、そして看板がぶつかる可能性のない目線より上の位置にあるかなど、細かな点に注意します。さらに、駅からの距離も重視しており、駅から15分程度の立地が望ましいと考えています。駅から離れるほど家賃は安くなりますが、その分人通りが少なくなり、売上が上げにくくなるためです。
第1回は、コンサルタントから焼肉店を始めた理由、独自の価格破壊の戦略についてお送りしました。
第2回は、出店の立地戦略やミスジによる価格破壊、ドミナント・フランチャイズ戦略についてお送りします。