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お店ラジオ 2023/08/02 2024/03/14

参入障壁が高いということは、競争相手がいないということ

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、地域の魅力を発見してコンテンツの価値を向上させ、戦略的に古い町並みを再生する バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳さんです。

神戸の旧西尾邸のリノベーションから事業をスタートして広島県竹原市、太宰府天満宮、千葉県香取市などの古い町並みを再生。地域資源の活用を通じて観光の本質である「日常とのギャップ」を生み出し、そこから価値を創出する戦略について、3回にわたり詳しくお伝えします。

第1回は、神戸旧西尾邸のリノベーションから、ポテンシャルのある町の見極めまでをお送りします。

 

この記事の目次

 

古い町並みの保存と活用

バリューマネジメント株式会社では、文化財や古い町並みの保存と活用を目指した事業を展開しています。

例えば、町の中の空き施設や空き家を宿泊施設や飲食店、結婚式場などへとリノベーションして活用します。そうした活動から生まれる収益を修復費用に充て、文化財を長く残すことを目指しています。現在は自治体とも協力し、まちづくりに取り組んでいます。

私たちが最初に手がけた文化財は、神戸の須磨にある旧西尾邸です。旧西尾邸は1919年(大正8年)に貿易商の西尾類蔵氏によって建てられました。敷地面積は約3,000坪で、2010年(平成22年)には兵庫県指定重要有形文化財となりました。

当社がこのプロジェクトに取り組み始めたとき、それまでマネタイズできていなかった施設を手がけるという課題は、一見ハードルが高いように思われました。しかしながら、難度が高いほど取り組む人も少なく、結果として競合が少ないとも言えます。

参入障壁が高いということは競争相手がいないということであり、一度成功すれば、事業としては圧倒的に有利とも言えるのです。そんな考えから、私たちは旧西尾邸の活用に着手しました。

 

最も人口が少ない町での挑戦

そして、私たちは旧西尾邸をスタートに、北海道から九州まで事業を広げました。

私たちが手がけた中で最も人口が少ない町は、人口約24,000人の広島県竹原市です。この規模の町では、地元の方々だけをターゲットにした事業では十分な収益を確保ことは難しいため、観光の視点が必要になります。

竹原市は、その点において理想的な町でした。この町は瀬戸内の交通の要所として古くから発展し、安芸の小京都とも称されています。1982年には、“たけはら町並み保存地区”が文化庁により重要伝統的建造物群保存地区に選定され、古い町並みが今も残存しています。

重要伝統的建造物群保存地区は全国で120ヶ所以上が選定されていて、その中の一つが広島県の竹原市にあります。

 

竹原市で体験する地元文化と分散型ホテル

江戸時代後期に塩田で栄えた竹原市は、その美しい町並みに心から魅せられる場所です。私たちは、訪れる方々にこの町の魅力を体感していただきたいという想いから、「分散型ホテル」を運営しています。

分散型ホテルとは、町並みに点在する古い建物をホテルとして生まれ変わらせたものです。私たちは、「町で1日10人の宿泊者」というコンセプトのもと、町へ訪れる目的が宿泊施設自体に泊まる体験となるよう、運営を行っています。

町に泊まる体験の魅力は、単に古い建物に宿泊するだけでなく、地域の文化や暮らしを深く感じられることにあります。しかし、地域の文化や暮らしを観光資源として活かしている地域はまだまだ少ないのが現状です。

例えば、フランスのワイナリーへの宿泊は文化体験の一つですが、日本でもそのような地域特有の文化体験ができるようになると、観光先として選ばれるようになると考えています。

現在でも、竹原市には昔栄えていた時代の古い建物やお茶の文化が地域に根付いています。そしてそれらを実際に体験することが可能です。

また、この町にはNHK連続テレビ小説“マッサン”でおなじみの“竹鶴酒造”という酒蔵が存在します。私たちの施設に宿泊するお客様は特別に酒蔵見学ができるため、現在も営業を続けている酒蔵を訪れるという、他ではなかなかできない貴重な体験をお楽しみいただけます。

竹原市自体の知名度は全国的にはまだ低いかもしれませんが、“竹鶴”の名前は広く知られており、町の各コンテンツには深い魅力があります。さらに、「食」の存在が旅のテーマのひとつとなり、訪れる人々にとっての大きな楽しみになると考えています。

 

依頼を受けるための選定基準「地域の魅力を見つけ出せるかどうか」

お客様からの依頼を受けるか否かを判断する際、または施設を改修し経営が成り立つか否かを判断する際、その地域のコンテンツが非常に重要となります。

私たちが行う選別は特別な魔法ではなく、地域のコンテンツに基づくものです。例えば、依頼を10件いただいたとしたら、そのうち1件程度しかお受けすることができません。

 

選定のポイントは3つあります。

まず1つ目は、「その町のポテンシャル」です。ここでいうポテンシャルとは、ただ今が魅力的であるか否かだけではなく、歴史的な背景を含め、磨きをかけることで光る可能性がその町にあるかどうかです。

私たちが注目する町のポテンシャルとは、その歴史や文化が主要な軸となります。長い歴史を持つ町は全国に数多く存在しているため、その中でも“現在でも息づく何か”を持っているかどうかを特に重視しています。

私たちは、“そこに息づく何か”が魅力だと捉えています。さらに重要なのは、それが現代においても受け継がれていて、お客様に体験として提供できるかどうかです。その点では、日本酒の酒蔵は非常に分かりやすい例だと思います。酒蔵を見学し、試飲もできる体験は、訪れる方々にとって大いに価値があるのです。

歴史を感じられるものとして、お城も代表的な存在といえます。お城が町にあるということは、その町が城下町であるということになります。

関ヶ原の戦いの1600年を境に、徳川家によって作られて栄えた町と、それ以前から存在していた町とが区分されますが、いずれにしても400年以上の歴史があり、その深い歴史を掘り起こすことでどの時代に対応するか、現在息づくものとの接点を見つけ出すことが可能です。

 

依頼を受けるための選定基準「軸になるリーダーがいるか」

選定の2つ目のポイントは、「パートナーとなる地域のリーダーがいるか」です。

私たちは外から来た者であり、町に足りない部分を補う役割を担っています。一方で、地域づくりには旗振り役が必要で、その町では誰が主導的な役割を果たしてくれるのかを探すことが大切です。

そして、そのリーダーとなる人に対して、私たちは特技や技術よりも、その人が持つ想いや持続性を重視します。

なぜなら、事業が始まっても、その町が次のステップへと進むためには、地域の金融機関、自治体、民間事業者など、全員が一緒に事業を推進していく必要があるからです。そのための組織作りを進めていく作業は非常に難しいため、強い想いを持ち、中心的な役割を果たしてくれる人がいるかどうかが重要となるのです。

このようなパートナーシップの構築は時間を要します。具体的には、事業がスタートしてから自治体が予算をつけてさまざまな手続きを進めると、それだけで1年から2年の時間がかかることもあります。

 

3つ目のポイントは、「私たちの取り組みが経済的な視点から見て実現可能であるか」です。つまり、マネタイズ(収益化)が可能であるかどうかということです。

さらに、私たちが利益を得るかどうかを問う前に、もともと訪れる人が少なかった町に、私たちが新たにお客様を呼び込むことができるかどうかという課題もあります。

 

第1回は、神戸旧西尾邸のリノベーションから、ポテンシャルのある町の見極めまでをお送りしました。
第2回は、3種類の町の分類から、掛け算の観光戦略による付加価値の創出までをお送りします。

執筆 横山 聡

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