about
「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、大学卒業後に株式会社リクルートへ就職し、雑誌編集長やメディアプロデュース責任者などを経て、2014年に株式会社シロに入社。現代表取締役会長 今井 浩恵さんと二人三脚で経営全般の戦略立案や、新規・海外事業展開を実行し、2021年から現会長 今井さんの後任として株式会社シロ 代表取締役社長に就任した福永 敬弘さんです。
1989年に株式会社シロの前身である株式会社ローレルが創業。「自分たちが使いたいものを作る」という経営理念や独自の出展戦略、新工場建設にあたっての北海道砂川市への想いやイギリスへの海外展開、良い商品を作ることのロマンなどについて、3回に分けてお送りします。
第1回は、「SHIRO」誕生までの変遷と企業理念や独自の店舗戦略についてお送りしました。
第2回は、独自の商品開発戦略や地域活性化のための新工場建設についてお送りしました。
第3回は、海外進出や商品開発のロマン、商品の品質と供給のバランスについてお送りします。
この記事の目次
イギリス市場での挑戦と学び
新工場の建設や海外への進出など、新規事業を行う場合、コンサルティング会社を利用する会社も多いと思いますが、我々は自分たちの力で挑戦することにしています。
海外展開に際しても、会長の今井と私で、街を自転車で走りながら直接物件を探すといった具合で自力で進め、2016年にイギリスに進出することができました。
イギリスは多様な化粧品ブランドやジョー・マローンのような香水ブランドが存在する地域です。我々の目標は、化粧品ブランドとして世界での支持を獲得することであり、そのスタートラインとして、多くのブランドが生まれたこの地、ロンドンを選びました。
しかし、イギリス市場は我々にとってかなりハードルの高い市場で、撤退はしていないものの厳しい結果になっているのが現実です。ただ、イギリスへの出店は我々がやりたいと考えていたことですし、このイギリス店はブランド全体にとってのフラッグシップともなっていますので、これからも継続していきたいと思っています。
その後、アジアにも出店をしています。イギリスとアジアの市場は大きく異なっていて、アジアでは機能性が重視されるのに対し、ヨーロッパでは、ブランドの背景や哲学、ストーリーが重要視されます。我々がどういう理念やストーリーで化粧品ブランドを立ち上げたのかという背景や感性的な価値が求められるのです。
「shiro」から「SHIRO」への変遷
現在、SHIROのロゴは大文字を使用していますが、ロゴはもともと小文字の「shiro」でした。2016年にイギリス・キングスロードでの店舗オープン時、小文字のロゴが繊細で、ある意味で自信に欠けるように感じました。
そして、2018年に「shiro」が徐々にお客様に認知され始めた頃、多くの国際的なブランドのロゴがゴシック体を使用し、存在感を放っていることに気づき、我々は大文字の「SHIRO」に変更しました。
この変更後、売上や客数などは確かに向上しましたが、小文字のデザインを好むお客様からの反応も少なくありませんでした。中には、小文字の「shiro」が持つ繊細さや儚さを好む声や、元のデザインに戻して欲しいとの要望もありました我々はこの変更が正しいと確信していましたので、再び変更することは考えませんでした。
売上や客数なども好調で、データから見ても新しいロゴは多くのお客様からの支持を得ていると考えていました。それでも、旧デザインを愛していたお客様への対応やコミュニケーションが不足していたのかもしれません。この件を通じて、我々のブランドへのお客様の深い関心や愛着を改めて感じることができました。
「ロマン」としての良い商品の追求
我々は絶えず新しい商品を提供し続けていますが、新商品の販売にあたっては、既存の商品との入れ替えが必要になり、商品の入れ替えは時には売り上げを減少させるリスクも伴います。ただし、そのような局面でも、売り上げの増加だけに焦点を当てて判断をおこなっていると、企画の発想が窮屈になってしまうと思います。
我々は、クリエイティブな発想を促すために、新商品の開発において計画や数値などを設定せず、まず「良い商品を作ること」を優先しています。商品の開発において、多くの企業は生産ロットや原価、売り上げの見込みなどを最初に計画すると思いますが、我々は全く逆のアプローチを取っています。
「良い商品を作る」という追求、これこそが我々の「ロマン」なのです。コストや価格を先に設定してしまうと、イノベーションのエッセンスが失われます。まず最上質な素材を選び、理想の商品を作ることを目指し、多くの試作を経て商品を作ります。
原価や価格、生産ロットなどは、試作が完成し、商品としての形になった段階で、初めて詳細を検討します。
CRM(顧客関係管理)の改善に向けて
現在の我々のCRM(顧客関係管理)は、まだまだ改善点が多く、十分な成果を上げることができていないと感じています。
例えば、メンバーシッププログラムにおいては、お客様の購入金額や購入内容に基づいてステージを「WHITE」「SILVER」「GOLD」「NAVY」の4段階に分けていて、最上位のNAVY会員への特典として、砂川市の工場見学ツアーの招待や、通常では入手困難な限定製品の「ファストリザーブ」権利などを提供しています。
しかし、270万人の総会員数の中で、NAVY会員として登録されているのはわずか約700人に過ぎませんので、現行のプログラムが十分に効果を発揮しているとは言えません。
また、顧客を継続的に囲い込むためのこうしたポイントプログラムは、実は我々の得意とする分野ではありません。現在、ご購入いただいた新規のお客様に会員になっていただくことまではできているため、今後、リピートを促す施策の設計等に注力していく必要があります。
商品の品質と供給のバランス
多くのブランドは広告費をかけ、その投資を回収するために既存顧客を値引きやポイントで継続的に囲い込みますが、我々は囲い込みなどを行っていません。それは、我々が「プロダクトアウト」の方針を持っており、商品そのものの品質を最優先し、広告費をほとんど使っていないためです。
商品の生産量についても、無理に増産することはしていません。「この商品はこの程度で売れるだろう」という感覚や、ある程度の期間内に「この限定の香りが売れるのでは」との見込みで商品を生産しています。結果、3週間ほどで完売してしまう商品もありますが、同時に、わずかな品薄感が商品の魅力を高める要因にもなっています。
当然、売れ行きが予想以上の場合、もっと生産すべきだったとも思うこともありますが、過剰な在庫を持ち、それを値引き販売する悪循環を避けるため、敢えて生産量を抑えています。その代わり、新製品や限定製品については、一定の数量で安定して提供することを重視しています。
また、急に増産しなければならなくなった場合でも、我々は、OEM工場であった時の経験がありますので、資材が整っていれば10日間で新商品を供給できる体制が構築されています。
商品が絶えず欠品することは問題ですが、商品が売れ残ることも避けたいです。現代の消費傾向を見ると、過剰な生産よりも少し品薄な状態が好ましいと感じています。
お店は「学び舎」としての役割を果たす
私は、お店を「学び舎」としての場所と捉えています。お客様が快適に商品を購入するだけでなく、新しい知識や情報を得る場としての役割も果たしています。ブランド「SHIRO」の製品は、スタッフが直接接客することで、正しい使用方法や製品の楽しみ方をお客様に伝えることができます。