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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、大学卒業後に株式会社リクルートへ就職し、雑誌編集長やメディアプロデュース責任者などを経て、2014年に株式会社シロに入社。現代表取締役会長 今井 浩恵さんと二人三脚で経営全般の戦略立案や、新規・海外事業展開を実行し、2021年から現会長 今井さんの後任として株式会社シロ 代表取締役社長に就任した福永 敬弘さんです。
1989年に株式会社シロの前身である株式会社ローレルが創業。「自分たちが使いたいものを作る」という経営理念や独自の出展戦略、新工場建設にあたっての北海道砂川市への想いやイギリスへの海外展開、良い商品を作ることのロマンなどについて、3回に分けてお送りします。
第1回は、「SHIRO」誕生までの変遷と企業理念や独自の店舗戦略についてお送りしました。
第2回は、独自の商品開発戦略や地域活性化のための新工場建設についてお送りします。
この記事の目次
自ら伝えたくなるブランドで新規のお客様へアプローチする
我々がもつ顧客データによると、購入者の60%以上が初回購入のお客様です。そして、初回購入のお客様のうち6割の方が、最初のタッチポイントとして「フレグランス」を手に取られます。多くの方がSNSなどで情報をキャッチし、「この香りが自分に合うのか試したい」と思って来店されているのです。
このように、我々が広告費用をあまりかけずに認知度を上げてこられたのは、お客様がSNSなどで我々の商品の情報を発信し、新規のお客様が手に取って試してみたいと思うような機会を作ってくれてきたおかげです。
我々も過去、新製品の発表会を盛大に開催したことがあります。有名ブロガー10名に商品イベントの取材を依頼して記事を書いていただきました。しかし、イベントの3日後にブログを確認したところ、6人くらいの方が記事を既に削除していたのです。
それらを見たときに、こちらから依頼しなくてもユーザー自身が自ら伝えたいと思えるようなブランドや商品でなければ広告の意味はなく、広告費をかけてもその効果は薄いと感じ、本質的に良い商品を作る方向にシフトすることを決めました。
千本ノックのような商品開発でお客様の心を捉える
2016年以降、店舗数はほとんど変わっていませんが、1店舗当たりの売上は約2.5倍になりました。これは店舗のスクラップ&ビルドを通じ、「ヤドカリ戦略」をとっていくことによって店舗の条件が良くなっていったことと客数が圧倒的に増加したことによる成長です。
客数を増加させるためには、お客様に常に新しい商品を提供する必要があります。お店に常にずっと同じ商品が陳列されているのでは、お客様の関心を引きつけ、来店を促すことは難しいと思います。
我々は新製品や限定商品を積極的に投入することで、棚の変化感を演出し店舗の魅力を高めることにしています。結果、この取り組みがSNSで話題となり、多くの方が来店してくれるようになりました。
多くのお客様からは全国展開の要望がありますが、実現が難しいため、ECサイトでの購入をおすすめしています。もし商品に満足いただけない場合は、返品も受け付けていて、返品の際、購入価格と同額の「ストアクレジット」で返金させていただいております。
年間1,200種類の試作品を作るSHIROの商品戦略
我々は、お客様に常に新しい商品を提供するために、年間に約110種類の新製品を投入しています。他の化粧品会社が年間に平均40〜50種類の新製品を出す中、我々はその2倍以上のペースで商品開発を行っていることになります。
平均して1日あたり5個、年間で約1,200種類の試作品を作り、その中から約10%ほどが商品化されます。
我々がそれほど多くの試作品を作れるのは、昭和の部活のような例えではありますが、「千本ノック」のような商品開発を心がけているからだと思います。
年間1,200種類もの試作品を作るためには、日々のアイディア出しが欠かせません。
そのアイディアの原点は「素材」です。例えば、アロエが火傷に効果的であると聞けば、その素材を化粧品に活用できないか、街を歩いている時に漂う金木犀の香りを商品化できないかという視点からアイディアを考え、2週間に一度の企画会議で検討します。
こうしたアプローチにより、今では約270万人のお客様に商品を購入して頂けるまでになりましたが、実はこの商品開発は、わずか3人のスタッフで行っています。
このように「SHIRO」にとっての新商品の投入は、広告宣伝の役割を果たすと同時に、お客様がお店で商品を手にとっていただくタッチポイントでもあると考え、非常にKPIとして位置付けています。
北海道砂川市の「みんなの工場」完成
SHIROが取り扱う製品の大部分、約8割が北海道砂川市の工場で生産されています。
創業当初から砂川にはOEM用の工場があり、最初その工場を使ってSHIROの商品も製造していましたが、販売増加に伴い生産能力の拡大が必要となったため、新工場を建設することになりました。
この工場の新設に際して、我々は単に自社の利益だけを追求するのではなく、地域全体が豊かになるような工場を目指すことにしました。
砂川市は人口が約16,000人で、人口減少・過疎化が進行していますが、「SHIRO」の新工場を建設することで、新しい風を砂川市にもたらし、新たな雇用機会を創出し、人々が住みたくなるような地域にするための取り組みを進めることにしました。
そこで、2年前から「みんなの砂川プロジェクト」を始動し、市民から、新工場に対する意見や希望を、ワークショップなどを開いてお聞きしました。そして、今年の4月にそういったみんなの意見を反映させた「みんなの工場」が遂に完成しました。
砂川市への感謝と地域活性化のための新工場
砂川市での工場建設については、様々な意見や議論はありました。
雪の影響で従業員が工場に通えない日があること、本州への商品輸送コストがかさむこと、また、雪で商品が届かない日もあることなど、様々な課題やリスクが挙げられました。
そのため、我々の倉庫がある埼玉県での工場建設の提案もありましたが、我々に今があるのは砂川市のおかげであり、恩返しの意味も込めて新工場の建設地として砂川市を選んだのです。そして、工場に色々な機能を加えることで、観光資源としても地域へ貢献できると考えました。
新工場は、地域貢献と活性化の目的ももって設立され、オープンから3ヶ月で10万人のお客様にご来訪いただきました。ゴールデンウィークだけで2万人が訪れ、その内、約17%が道外からの訪問者です。道外からのお客様のほとんどがSHIROのファンでした。そのようなお客様を更に引きつけるためのコンテンツの開発に力を入れています。
お客様に楽しんでいただくための「みんなの工場」
「みんなの工場」の大きな特徴として、リサーチ&ディベロップメント部署が全てガラス張りとなっており、外部から作業の様子を直接見学できる設計が挙げられます。
通常、R&D部門が公開されることは少ないですが、当工場では透明性を極め、作業の全過程を公開しています。製品の充填や、化粧水の原料となる酒粕の絞り作業なども見ることが可能です。予約は不要で特別な導線も設けていないため、施設内はどこでも作業の様子がガラスを通して確認できます。
また、「ブレンダーラボ」というコーナーでは、SHIROのいくつかの香りを自分で組み合わせてカスタムフレグランスを作ることができます。
その他にも、砂川は1年の半分が雪に覆われているため、冬の時期に子供が大声で走り回るスペースが欲しいという意見をワークショップでいただきましたので、子どもたちが安全に遊べる空中庭園のようなスペースを設けました。
また、砂川市内には漫画喫茶がないため、子供たちが自由に読める図書コーナーや、我々が運営するカフェなど、工場内にさまざまな機能を整備しました。
第2回は、独自の商品開発戦略や地域活性化のための新工場建設についてお送りしました。
第3回は、海外進出や商品開発のロマン、商品の品質と供給のバランスについてお送りします。