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お店ラジオ 2023/06/19 2024/03/14

お客様が何かに出会えるお店づくりとは

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、日本最大のコスメ・美容の総合サイト「@cosme(アットコスメ)」、ECと店舗で「@cosme STORE(アットコスメストア)」を運営し、口コミ×デジタル×リアルで戦略的に事業展開されている株式会社アイスタイル 代表取締役社長の遠藤宗さんです。

アットコスメのスタートからECサイト、リアル店舗の展開と、新しい体験の場を提供するための戦略について、3回に分けてお送りします。

第1回は、アットコスメの創業からリアル店舗への展開までをお送りしました。
第2回は、体験の場としてのお店づくりについてお送りします。

 

この記事の目次

  1. アットコスメが化粧業界にもたらした変革とは
  2. ブランドとユーザーを繋ぐ体験を提供する場所を作りたい
  3. 店舗で販売していない商品もお店でポップを作る!?
  4. お客様と商品との出会いの数が、売れるかどうかのカギ

 

アットコスメが化粧業界にもたらした変革とは

昔の化粧品業界では、一般顧客への流通経路によってブランドを棲み分ける「チャネル別ブランド戦略」が一般的でした。

例えば、あるブランドAは百貨店での販売はするが、化粧品専門店では売らないという形で、チャネル別にブランドが決められていました。

しかし、アットコスメの事業を通じて、各企業様にお取引に対するご理解をいただき、化粧品業界のハードルを長年かけて下げることができました。

アットコスメストアをスタートさせ、店舗数が徐々に広がるにつれ、化粧品業界の皆さんがアットコスメの店に人が集まる場所として興味を持っていただけるようになりました。

販売方法も、値引きはしないもののポイントを活用しお客さんにも喜んでいただける環境を作りながら、新しいブランドと新しいお客さんの出会いの場を多く作ってきました。最近では、アットコスメストアの認知度が上がっており、同時にECの認知度も高まっています。

コスメ業界のブランド数としては、現在小さなブランドが増え、多様化しています。特にOEMメーカーの活躍もあり、良い商品を低ロットから作ることができるようになったため、ブランドとしては商品を製造しやすくなりました。

そのため、最近ではインフルエンサーさんのコスメも作られるようになり、大手だけでなく多くのプレイヤーが参入しています。

消費者の立場からすると種類が多すぎてどれがいいのか分からず、口コミを参考に商品の購入を検討する傾向があります。商品の数と情報の数が増えたため、お客様の行動を見ていると、スマホを片手に商品を見ながら製品情報や口コミを確認している方が多いことがわかりました。

見ているものは、アットコスメであったりインスタグラムだったりしますが、スマホで情報を確認しながら実際の商品を見ることで、脳と体の両方で納得感を得るようにしているようです。

 

ブランドとユーザーを繋ぐ体験を提供する場所を作りたい

アイスタイル自身があまりマーケティングをやってこなかったのと同様に、お店も外に対してほとんど情報発信をしていません。

もちろん、アットコスメサイトでお店のアナウンスはしますが、ほとんどの情報は生活者の人たちが口コミで広げてくださっていて、お店をオープンしてみたらマーケティングを積極的に行っていないにも関わらず、多くのお客さんに来ていただけました。

お店の広告は、遠く広くに拡散しようとすればするほど広告コストがかかってきます。そういった理由から、私たちは遠くに向かって情報を発信するという意味でのPRはほとんどしなかったのです。

やったのは近くだけで、例えばその商業施設にいる人たちにまず来てもらうことに注力しました。ルミネさんの中にあるお店だと、私たちはルミネさんの中だけでマーケティング活動をするのです。

外から人を引っ張っていただく取り組みはその商業施設さんご自身がされますので、私たちが直接やらなくても良いという考え方です。また、一緒にやっているデベロッパーさんも情報を広げてくださいます。

 

この考え方は、商業施設だけでなく、2022年に原宿の駅前にオープンした大型店舗「アットコスメトーキョー」でも同様でした。

その店舗は路面店のため自分たちで集客する必要がありますが、最初のオープン時に少しだけプロモーションを行い、その他にはほとんど広告宣伝は行いませんでした。

「アットコスメトーキョー」はこれまでの商業施設の中のスペースにあるお店とは全く異なる形式の広い店舗です。

今まで最大で100坪ぐらいの店しか運営したことがない会社が、600坪の建物を借りて路面店を出店したわけですが、緻密な計画を立てて行ったわけではなく、ブランドとユーザーをつなぐ「体験」ができる場所をたくさん作りたいという思いで、「やってみるか」という気持ちで始めたのです。

この店舗は本当にソーシャルネットワークとの相性が良くて、ユーザーの皆さんがいろいろ発信してくれますし、YouTuberの皆さんの撮影にも利用してもらっていて、最近ようやく黒字が見えてきました。

 

店舗で販売していない商品もお店でポップを作る!?

アットコスメを見ていただき来店されるお客様は、元々口コミを見て来られる方が多いため、店舗に来られても商品を購入されない場合もあります。

また、サイトなどを見ていただいた後で実物を見て、別の小売店で購入されることもあるかもしれません。最初に出店した際には、このようなことも予想していましたが、私たちはそれでも構わないと考えました。

というのも、入店客数に対する購入客の割合である「買上げ率」が30%程度であれば十分と考えていたからです。1店舗目から入店数のデータを取っており、買上げ率は高くて30%程度でした。

つまり、70%のお客様は商品を購入されていないことになります。そのため、私たちは70%のお客様にも楽しんでいただける店舗作りを心がけました。

以前はコスメの人気ランキングを掲示していましたが、当時は取引していなかったブランドもあり、お店で販売していない商品がランクインする場合もありました。そういった場合でも、私たちは1位のポップを作って「伊勢丹にて販売中」と表記し、他の小売店を紹介するようにしました。

全ての商品について紹介できるわけではありませんが、何かに出会える可能性がある、自由に試せる環境を作り上げることで、お客様に私たちの店舗を信頼していただけるようになり、そのうちに何かを購入していただけるかもしれないと考えました。

 

お客様と商品との出会いの数が、売れるかどうかのカギ

お客様にお店を信頼していただくためには、面白い売り場やお客様に寄り添った接客が必要です。私たちは、ファンの絶対数を増やすことを最優先に考え、そのためのお店づくりをしてきました。

買わなければならない雰囲気のお店には入りづらいものですが、自由に試せて買わなくても良いお店であると、皆さん気楽にどんどん入ってくれます。

そして、その中に楽しい仕掛けがあると、うっかり買ってしまう状況が生まれることもあります。私たちは、常にそうした状況を作ることを考えてきました。

一般的な売り場では、商品をたくさん並べるために効率的に什器を配置しますが、私たちはそういう考え方をしていません。むしろ、少し歩くと棚に当たったり、左に曲がったりして迷路のような売り場を作ることが多いです。

商品をたくさん並べることも大切ですが、私たちは商品とお客様の出会いの数が、売れるかどうかのカギだと考えています。お客様が出会うことができなければ、商品が置いてあったとしても全く意味がありません。

しかし、お店でお客様と商品が出会うための時間は限られていますので、棚をどうレイアウトすれば良いかを細かく考えます。それらも本社で全てコントロールしているのではなく、現場で働いているお店のスタッフの考えを売り場に反映しています。

そのため、一部はもちろん共通の売り場を設けていますが、その他の売り場のレイアウトはお店によって違います。

お店のスタッフにレイアウトの権限を委譲しているのは、お客様と一番接していてお客様を理解しているのはスタッフであり、そんなお客様の声を大切にしたいという理由からです。

私たちは、お客様と商品との出会いの数を増やし、そして、ファンの絶対数を増やすことで、良いものがあったら買いたいと思って来てくれるお客様の数を増やそうと思っています。

 

第2回は、「体験の場としてのお店づくり」についてお送りしました。
次回は、「データ活用によるおもてなし」についてお送りします。

 

 

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執筆 横山 聡

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