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お店ラジオ 2022/03/30 2024/03/14

飲食店がITに10億投資。飲食店のIT化にもがく面白さ

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回は、クリスプ・サラダワークス 宮野さんのお話を紹介する第2回目です。

第1回は、宮野さんの海外での経験や順風満帆な立ち上げ期についてでした。
宮野さんが始めたクリスプ・サラダワークスは大人気となりましたが、実は宮野さん個人には落とし穴が待っていました。その落とし穴から、宮野さんはどう抜け出したのでしょうか。

 

この記事の目次

  1. 大人気サラダ専門店の経営はどんどんつまらなくなっていった
  2. 儲かったお金をITへ。“日本一ITに投資する外食企業に”
  3. アナログな飲食店サービスをデジタルがもっと進化させる
  4. お客さんを喜ばせるためにはお客さんを知ることが大事
  5. 飲食店のIT化は、うまくいかないから面白い

 

大人気サラダ専門店の経営はどんどんつまらなくなっていった

サラダ専門店クリスプ・サラダワークスは開店以来大人気となり、店舗を増やせる目算も立ってきました。でも個人的にはどんどんつまらなくなって、本当にやめたいと思うようになりました。

たしかに店は人気になり、たくさんのお客さんが来てくれました。それなら、また別の店を作って人を雇ってトレーニングして、マニュアル通りに働いてもらって、2号店、3号店とどんどん出していけばまた儲かります。
それをやるのはもちろん大変なことですが、やるべきことはもう見えていて、たぶん勝つこともわかっていました。

でも、偉そうな言い方かもしれませんが、ロールプレイングゲームで言えばレベル上げのために弱い敵ばかりいる場所でずっと戦っていて、「このゲーム、もうつまんないな」みたいな感覚になってしまったのです。

 

儲かったお金をITへ。“日本一ITに投資する外食企業に”

そんな「つまらない」という感覚から抜け出す打開策になったのが、飲食店のIT化です。現在うちの店は19店舗ありますが、飲食店のIT化をしようと思ったのは、実は最初の店舗からです。

店舗が増えたからIT化して効率化しようと考えたわけではなく、1店舗目ですごく儲かった一方で、つまらないと思ってしまったところに「そうだ、儲かったお金を飲食店のIT化に使おう」と思いつき、取り組み始めたのです。

最初に始めたのは、モバイルオーダーのアプリ開発です。当時は開発会社さんにお願いして、我々の仕様で作ってもらって2016年にリリースしました。

1店舗しかないレストランがモバイルアプリを作ったわけです。周囲からは「そんな売上の会社が、そこまでITに投資する必要があるのか」という疑問の声も聞こえてきました。でも僕は逆に、日本の外食産業はIT投資が少なすぎると思っています。

僕たちは、三菱商事とワンキャピタルというベンチャーキャピタルから累計で10億円を調達して、ほぼ真水でテクノロジーに投資しています。お預かりしているお金ですからこういう表現は正しくないかもしれませんが、たかだか10億円をテクノロジーに投資しているだけで、うちの会社は、スターバックスのようなグローバル企業を除けば、日本の外食企業でたぶん一番テクノロジーにお金を使っている会社です。

飲食企業はお金を持っているところが多いのに、ITに投資する会社は少ない。そういう意味ではホワイトスペースが大きいですし、僕はここに投資するのが当たり前だと思っています。

今ではメルカリでグループマネージャーをやっていたエンジニアをトップに、IT企業から転職してきた人など10人弱のチームを自社で抱えて、開発を進めています。

 

アナログな飲食店サービスをデジタルがもっと進化させる

デジタルでできることはたくさんあります。例えば、接客の答え合わせができるようになるのです。

飲食店には接客サービスという側面があります。たとえば居酒屋さんで夜遅くに来たお客さんが、店員から「遅くまで大変ですね。ビール一杯ごちそうしますよ」と言われたら、「感じのいい店だな」と思って、いつもだったら料理は2品しか頼まないところを、3品頼んだりします。

この店員の対応は、お客さんが落とすお金を増やした(ライフタイムバリューを伸ばした)ことになりますが、それは料理が伸ばしたのではなく、店員からの声かけという接客がライフタイムバリューを伸ばしたわけです。

一方で、その声かけが嫌なお客さんもいます。僕はアパレルの店で店員に話しかけられるのが嫌で、話しかけてくる店員がいる店には行かなくなります。
店にとっては、話しかけることが不利益(ライフタイムバリューを減らすこと)になるわけです。

しかしアパレルの店員としては、お客さんに話しかけないと何もやっていないと言われるので、話しかけるしかありません。現状では、お客さんに話しかけることが店にとってプラスなのかマイナスなのかわからないから、そうせざるを得ないのです。

でもそれがデジタル化されてお客さんのトラッキングができるようになれば、あるお客さんに話しかけたときと話しかけなかったときの購買状況がわかるようになりますし、その後の来店頻度もわかります。

僕らがやろうとしているのは、YouTubeにあるアナリティクスのような機能です。YouTubeアナリティクスは、視聴者の視聴状態がデータで見られるようになっていて、たとえば、「この動画では30秒のところで離脱している人が多い」というようなことがわかります。
ユーザーはそういったデータを見て、30秒のところで離脱されるのはなぜかを考え、イントロを変えてみたりなど素人でも工夫してできるようになります。ユーチューバーでうまくいっている人は、そういうところをすごく努力しています。

お店でもそういったデジタルツールでちゃんとデータが見えるようになれば、「このお客さんは前に話しかけたら服を買わずに帰ってしまったから、今度は話しかけないでおこう」といったことを考えてできるようになります。
データを見て振り返りができるようになれば、細かいところまでマネジメントする必要もなくなります。おそらく数字も上がっていくはずです。

 

お客さんを喜ばせるためにはお客さんを知ることが大事

外食企業が考えていることはすごくシンプルで、「お客さんにもっと来て欲しい」ということです。

お店に来て喜んでもらえれば、もう一回食べに来てもらえる。そこでまた喜んでもらえれば、また来てくれる。それを繰り返せばお金も儲かる。それだけです。

でも、そんなサイクルを回すために「おいしいものを作ればいい」という考えではもう不十分です。
時計の針の正確性の話と同じで、世の中においしいものは溢れているので、ほかの店との差別化はどんどん難しくなっています。

おいしさではないところでお客さんを喜ばせるにはどうすればいいかというと、もっとお客さんのことを知ればいいのです。

たとえば、ある人の誕生日のサプライズパーティーを家族から依頼されて開くとき、僕がパーティープランナーだったら、とにかくその人のことを調べます。どういう人なのか、何が好きなのか、野球だったらどのチームが好きか、子供の頃はどこで育ったかなど、いろいろと調べます。

相手のことを知らないと喜ばせることはできません。僕たちはお客さんを喜ばせるために、お客さんのことを知りたい。そのためにデジタルツールを使おうとしています。

もちろんアナログでもできないことはありませんが、「すみません、お客さんのお名前は何ておっしゃるんですか」「どういう字を書きますか」などとやるのはちょっと手間がかかり過ぎます。でも、デジタル化すればスマホから簡単にできますし、そこからいろいろな情報が入ってきます。

たとえば、うちのサラダはお客さんの好きな組み合わせでサラダを作れますが、これまでのお客さんのデータがあれば、毎回いちいち細かい注文をすることなく「いつものやつ」という注文ができます。
そんなふうにお客さんのデータを、お客さんが喜んでくれるように使うのが僕たちの目指すところです。

 

飲食店のIT化は、うまくいかないから面白い

開発したデジタルツールはもちろんほかの会社でも使えますが、ツールを広めることよりも、僕たちのブランドをお客さんにもっと好きになってもらうために使うのが第一です。

というのも、成功していない飲食店のシステムなんて誰も使いたがらないからです。
せっかく飲食店が作るのですから、僕たちが使って成功することがすなわち、テクノロジー会社のシステムより優れていると証明することになります。

1店舗目で儲かって、つまらなくなって始めた飲食店のIT化ですが、やっぱり難しいと思うことが多くて面白いです。
僕は個人的にテクノロジーやガジェットが好きでしたが、それに加えて自分が安全になることが気持ち悪いところがあって、だから積み立ての保険も気持ち悪くてできません。それと、仕事をあまりしたくないので、仕事が順調だとサボってしまうところがあります。

飲食店のIT化の仕事はなかなかうまくいかないので、いやだなと思いながらもやらざるを得ません。業界のしきたりみたいなものも全然わかりませんし、勉強することばかりです。

飲食店のIT化は、困難なことに立ち向かうというか、ヒリヒリした感じで仕事ができて自分に合っているんだろうと思っています。

 

今回のお話はここまでです。飲食店のIT化にやりがいを見出した宮野さん、次回はさらに深掘りしていきます。

 

 

 

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執筆 横山 聡

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