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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
#19 知っているようで知らない・・炭火焼肉たむらオープンまでの道のり
#20 たむけん式フランチャイズ
今回のゲストは、「たむけん」の愛称で親しまれるお笑い芸人であるかたわら、炭火焼肉たむらをはじめとする多数の事業を手がける株式会社田村道場の代表、田村憲司さんです。
「焼肉屋をやっている」ということを知っていても、意外とオープンまでの経緯や、経営に対する考え方は知らないのではないでしょうか。
今回は「お笑い芸人 たむらけんじ」ではなく「経営者 田村憲司」について深掘っていきたいと思います。
田村さんのお話を紹介する第1回は、焼肉屋をオープンするに至った経緯です。そこには意外なドラマがありました。
2回目の今回は、田村さんの接客へのこだわりと、とある後輩芸人が入ったことによる変革についてお話します。
この記事の目次
「たむけんがいる店」にはしたくない。だから接客はしない。
こだわりとして「たむけんがいる店」にしたくなかったので、接客は一切したことがないです。
お店に行くことはありますが、厨房にいるだけです。あとはお金で揉めたくなかったので、その日の売上を持って銀行に行く、というのを毎日やったりはしていました。
僕が接客をしないとすると、質を保つために僕の理想を従業員にしっかりと伝えなくてはいけません。
だから僕は最初、「こういう接客をやりたい」と口酸っぱく言い続けていました。あとはトイレ掃除などのみんなが嫌がることを率先してやりました。
これのおかげか、それを見てくれていた今の幹部たちはトイレをいつも綺麗にしてくれています。
目指すは「焼肉界のリッツ・カールトン」
ちなみにトイレにはこだわりがあって、本当に綺麗にするようにしていますし、泡を出して用を足したときに飛び散らないようにしています。そして、香りはリッツ・カールトンのホテルのロビーと同じ香りになっています。
なぜリッツ・カールトンなのかというと、僕がこのお店を始めた時から他のお店も観察するようになって、最高峰のサービスを提供しているのはリッツ・カールトンなどのホテルなのではないかと考えるようになったからです。
だから従業員にも「焼肉界のリッツ・カールトンを目指そう」と伝えていて、その意味も込めてトイレの香りをリッツ・カールトンと同じにしたということです。
感銘を受けた「プラスワンのサービス」
リッツ・カールトンの本を読んですごいなと感じたことがあって、それが「従業員がプラスワンのために自由にしていいお金を渡されている」ということでした。
どういうことかというと、従業員はそれぞれ、お客さんのためになると思ったら自己判断で使っていいお金を持っているのです。
例えばエピソードとして、ある人がリッツ・カールトンの従業員に「プロポーズをしたいから、この場所にテーブルを1つだけ置いてほしい」と頼んだところ、それを聞いた従業員は、そのテーブルの上に一輪の花を添えたそうなんです。
この話に感銘を受けて、自分達も真似しようと思いました。だからうちの従業員にも「何か思ったことはお金使ってもいいからやりなさい」と伝えてあります。
例えば「実は俺、誕生日なんだ」という話がちらっと聞こえたら、ケーキを買いに行ってあげなさいとか、そういうことです。
こういうのは自分がされたら嬉しいと思いますし、またこのお店に来ようってなるんじゃないかなと思うんです。
このように、僕がやってほしいと思う接客をその都度しっかりと伝える、という形で従業員に僕の接客の哲学を浸透させていきました。
それが功を奏したのか、みのおキューズモール店に接客をチェックする覆面調査のようなものが入った時に、70点を越えればいい接客をしているという厳しさにも関わらず、100点を獲得することができたのです。
僕はもちろん、現場の店員や、覆面調査をやっている側も驚いていました。
その店舗には僕が行って指導したことはなく好きなようにやってもらっているので、そんな中で100点がもらえたというのは嬉しかったですし、自信になりました。
採用は30秒の映像チェックで
採用に関しては面接の時の映像を撮ってもらい、それをチェックするようにしています。
とは言っても、最初の30秒くらいで大体わかると思っているので、それで判断します。例えば最初の挨拶がしっかりしているかや、目をちゃんと合わせているかなどはポイントです。
調子に乗って固定費を上げ、2店舗目は大失敗!
1店舗目は割とうまく行ったのですが、2店舗目は大失敗しました。今思えば、調子に乗っていたのだと思います。
周囲から「絶対に初期投資や固定費は抑えないとだめ」と言われていたのにも関わらず、こだわった内装にして個室も作り、席数も100を超えるほどの大きさにしてしまいました。これは、通常の倍ほどのサイズです。
はじめの頃はうまく行っていて、1ヶ月で3,500万円を売り上げるほどでした。これには「ほらやっぱりいけるやん!」という気持ちでしたが、ユッケ問題が起きて少し逆風が吹いた途端、一気に苦しくなってしまったんです。
やはり大きすぎる固定費は、売り上げが下がった瞬間に重くのしかかってくるものなのです。
どんぶり勘定で会計は人に全部丸投げしていたことも災いして、調子が良かった時の利益がなぜかほとんど残っていなかったことも状況に拍車をかけました。
そこの物件は5年契約だったのですが、最後の2年間はもうヒーヒー言っていて本当にしんどかったです。辞めさせてほしいという話もしましたし、家賃を下げてほしいという交渉をしたりと、固定費を下げるためのことはなんでもやりました。
そしてなんとか乗り切りはしましたが、もう契約期間を終えた瞬間、逃げるように辞めました。
また、2店舗目をやっている間、実は3店舗目と4店舗目も出していたのですが、これもうまくいきませんでした。
これがダメだった原因は、完全に人です。人が育っていないのに広げていってしまったことで、ボロボロになってしまいました。
信頼できる後輩芸人を誘ったことがターニングポイントに!
ターニングポイントは、一人の後輩芸人が入ってきたことでした。
彼は昔から僕の近くにずっといた矢田という芸人だったのですが、うまくいかないから芸人を辞めたいと相談に来たんです。芸人を辞めるというのはすごく辛い決断だということがわかっているので、僕は引き止めないことにしています。
「わかった、でもこの後どうすんねん」
「まだ決めてないです」
「そうか、じゃあうち来いよ」
「いいんですか」
ものすごく細かい性格で、飲食店に向いているんじゃないかと思っていたので、声をかけてみました。
やはり会社は人!新しい風が次々に改革を起こす
ちょうど従業員にも色々チャレンジしてほしいなと考えていたころだったので、
「いいか、お前はもう1回失敗してて、もう二度と人生で失敗はできへんから絶対頑張れよ。お前にこの会社を渡すから、もう好きに色々やってみろ」
という話をしました。
すると、本当に色々好きにやり出して、そこから一気に会社が動いていくことになりました。
新商品の考案や、店舗展開について考えたりしたのもそうですが、大きかったのは「組織」を作ったことです。元々、僕たちは全員平等だと思っていたので、役職はありませんでした。
しかし矢田はきちんとした会社組織にしないといけないと考え、役職を人に与えて秩序を作ったのです。これはすごく助かりました。
「生きているだけで丸儲け」借金があっても、生きてさえいればなんとかなる
矢田にはお金勘定についても全て任せています。ただ、全てを任せきりにして失敗してしまった経緯があるので、逐一報告はしてもらっています。
今これだけのお金があって、税金でこれだけ払います、だからこれくらい借り入れをして、といった感じです。
ちなみに借り入れの保証は全て僕です。だから正直持ち逃げされたら大変なことにはなるのですが、もう彼に持ち逃げされたら仕方ないかと思うくらいには信頼しています。
それに、たとえ凄まじい借金を背負ったとしても、生きてさえいればなんとかなるんじゃないかな、という感覚もあるんです。
さんまさんの「生きているだけで丸儲け」というのは本当によくできた言葉で、だったらお金のことなんてあんまり気にしすぎてもしょうがないなと思っています。
今回のお話はここまでです。次回は、フランチャイズに対する考え方と、焼肉以外の事業展開を中心に伺っていきます。