飲食店を開業するためには、営業許可証を取得する必要があります。営業許可証にはいくつか種類があり、それぞれ一定の手順を踏むことで取得が可能です。
申請の際には書類の提出が必要になるので、スケジュールを調整しながら記入ミスがないように的確に準備を進めましょう。
本記事では、営業許可証の種類や取得にかかる費用、取得までの流れ、提出すべき書類について解説します。最後には、営業許可証の期限や無許可で営業した場合の罰則にも触れるので、知識として押さえておきましょう。
この記事の目次
飲食店の営業許可とは
飲食店の営業許可とは、国が設けた基準をクリアした場合にもらえる飲食店を営業できる権利のことです。管轄の保健所に申請をすることで、営業許可を得ることができます。
営業許可は飲食物を扱う業種ごとに異なる基準が設けられていますが、飲食店に関しては以下の2点の要件を満たす必要があります。
- 食品衛生責任者の設置
- 営業許可証の申請
資格が必要なこともあり、一見難しそうに思えるかもしれませんが、実はそこまでハードルは高くありません。
どちらも比較的簡単に満たすことができるので、何が必要なのか確認しておきましょう。
食品衛生責任者
まず、飲食店を営業するためには、食品衛生責任者を必ず1人は配置しなければなりません。
食品衛生責任者とは、食品の衛生管理責任を担う者のことで、飲食店を開業するためには、必ず取得する必要があります。
食品衛生責任者は、都道府県知事等が行う食品衛生責任者になるための講習会、もしくは都道府県知事等が適正と認める講習会を受講するだけで取得可能です。1日かけて6時間の講習が実施され、最後に簡易的なテストを受講して合格した場合に、修了証明書を受け取ります。
講習の日程は各都道府県ごとに設けられており、事前に予約が必要です。定員が決まっているので、各都道府県の食品衛生協会のWebサイトを確認して、早めに講習会の予約をしましょう。
なお、以下の資格取得者は、食品衛生責任者としての知識を得ているとみなされ、食品衛生責任者講習を受講する必要はありません。
- 栄養士
- 調理師
- 製菓衛生師
- 食鳥処理衛生管理者
- 畜場法に規定する衛生管理責任者
- 作業衛生責任者
- 船舶料理士
- 食品衛生監視員または食品衛生管理者の資格要件を満たす者
営業許可証
営業許可証は、保健所に申請書類を提出して、実施される検査に合格すると発行してもらえます。
この検査では、主に飲食店として適した設備が整っているかをチェックされることが多いです。例を挙げると、以下のような検査項目があります。
- 厨房の床が清潔に保ちやすい構造になっているか
- 厨房設備が厨房内に収まっているか
- 厨房とトイレ両方に手洗器が設置されているか
- 冷蔵庫内に温度計を設置しているか
- 厨房内の蓋付きごみ箱を設置しているか
- 給湯器を設置しているか
- 調理場と客席のエリアが分離されているか
- 食器棚の扉があるか
- 厨房内の窓に網戸が付いているか
- 厨房内に2槽シンクが設置されているか
- グリストラップがあるか
特に衛生面を中心に確認されるので、上記のポイントをしっかりおさえて、店内の構造を検討しましょう。
営業許可証の種類
営業許可証の種類は、料理のジャンルによって細かく分けられています。
飲食店営業を取得するケースが多いですが、営業形態によっては、別の営業許可が必要な場合もあるので要注意です。
飲食店を経営するために必要な営業許可証の種類には、以下のようなものがあります。
- 飲食店営業
- 喫茶店営業
- 惣菜製造
具体的に説明すると、食品を調理して店内で客に飲食してもらう場合は飲食店営業の許可が必要です。
また、カフェのように設備を設けて酒類以外の飲料や茶菓子を提供する場合は、喫茶店営業の許可を取得する必要があります。テイクアウトを実施する場合は、惣菜製造の許可も取得しなければなりません。
ちなみに、店内で製造したものを店頭販売する際は、製造する食品ごとに別の許可が必要になるので、保健所で取得すべき許可証の種類を確認しておきましょう。
営業許可の取得にかかる費用
営業許可の申請をするときに、申請料が発生します。営業形態や地域によって申請料に差はあるものの、相場は16,000円~19,000円の範囲です。例として東京都新宿区の営業許可の申請料を紹介します。
- 飲食店営業:18,300円
- 飲食店営業(移動・臨時):5,600円
- 菓子製造業:16,800円
- 乳製品製造業:25,200円
- 氷雪製造業:25,200円
東京都新宿区で飲食店営業許可を取得するためには18,300円が必要で、店内で菓子類を作って販売する場合は、追加で16,800円を支払い菓子製造業の許可を取得することになります。地域ごとに費用が異なるので、各自治体のWebサイトで確認してみましょう。
参考:新宿区「営業許可業種と申請手数料一覧」
飲食店の営業許可を得るまでの流れ
飲食店の営業許可を取得するまでの流れについて説明します。主な流れは以下のとおりです。
- 保健所に事前相談をする
- 営業許可の申請をする
- 施設検査を受ける
- 営業許可証が交付される
開店までのスケジュールと相談しながら、店内の内装がある程度完成したら速やかに申請しておきましょう。
保健所に事前相談をする
確実に営業許可を取得するためには、事前に保健所に相談することをおすすめします。
施設の検査では主に構造をチェックされるため、内装工事に着工する前の段階で、店内の図面を保健所の担当者に一度確認してもらいましょう。
何度も検査に立ち会っている人であれば、図面を見ただけで検査に引っかかる可能性があるのか判断することができます。最終的に、施設検査の合否は保健所が出すため、保健所の担当者が図面を見て問題ないと判断した場合は、高い確率で許可をもらえるでしょう。
工事が終わった後に施設検査に引っかかると、再工事が必要になり、時間と費用が余計にかかるので、事前相談はしておいた方が安心です。
営業許可の申請をする
内装工事がひと段落したら、営業許可の申請を行います。
申請から営業許可証が発行されるまでに2~3週間はかかる可能性が高いです。オープン日を迎えても営業許可証が手元になければ、営業することはできません。万が一許可が下りるまでに時間がかかっても開店できるように、遅くてもオープン予定日の1か月前には申請手続きに取り掛かりましょう。
ちなみに、営業許可の申請では、以下の書類を提出する必要があります。
- 営業許可申請書
- 施設の構造・設備を示す図面
- 食品衛生責任者手帳など
- 水質検査成績書
- 登記事項証明書
書類の細かい説明は次の項目で説明するので、書類を揃える際の参考にしてください。
施設検査を受ける
必要な書類を揃えて申請をしたら、施設検査を受けます。担当者と日程調整をして、検査に立ち会いましょう。
検査される項目は先に述べたとおりで、厨房やトイレを中心とした設備チェックが行われます。
全国的にほとんど同じ基準が用いられていますが、中には地方独自のルールが設けられている場合があるので、事前に確認しておくことが大切です。事前相談時に、施設検査のチェック項目を確認しておき、一度で検査に通るように準備しておきましょう。
なお、検査項目に客室やフロアは含まれていません。そのため、テーブルや椅子がセッティングされていなくても、検査結果には影響しないので安心してください。
営業許可証が交付される
厨房とトイレの設備に関する検査をクリアしたら、営業許可証が交付されます。
営業許可証は、後日郵送で届けられるか窓口で引き取ることになるので、営業許可証の受け取り方法を事前に確認しておきましょう。
ちなみに、東京と大阪の場合は、通知書が郵送され、その通知書を保健所に持参して営業許可証を受け取ることになります。
営業許可証を受け取ったら、いつでも営業を開始が可能です。店をオープンする際は、顧客が見やすい位置に営業許可証を掲示しておきましょう。
営業許可の申請時に提出する書類
営業許可の申請時に提出する書類について、具体的に説明します。
一般的に、提出が求められる書類は先ほど述べた5種類です。ただし、条件によっては免除される書類もあるので、一通り確認しておきましょう。
営業許可申請書
営業許可申請書は、保健所の窓口でもらうことができます。
また、厚生労働省の食品衛生申請等システムからダウンロードすることも可能です。申請書のフォーマットは保健所によって異なる場合があるため、店舗のあるエリアを管轄する保健所が発行しているものを使用するようにします。
記入する内容はシンプルで、申請者情報と営業施設情報、営業形態等をフォーマットに沿って書き込んでいきましょう。わからない点があれば、保健所に連絡すると細かい部分まで教えてくれます。
施設の構造・設備を示す図面
施設の構造や設備を示す図面を作成しなければなりません。
提出書類の中でも特に重要で、この図面の情報次第で、申請時に拒否される場合があります。そのため、図面では以下の項目を細かく示すことが大切です。
- 床面積
- 壁の材質
- トイレの位置・構造
- 厨房の位置・構造
図面を一目見るだけで、店内の構造がイメージできるように作る必要があります。
たとえば、冷蔵庫やシンクが厨房内のどこに位置しているのか、厨房やトイレが客室フロアと分離されているのかなど、検査項目を意識して図面を作成することがポイントです。
保健所に専用の用紙が用意されていますが、自治体のWebサイトからダウンロードすることもできます。
手描きで作成する場合は、ボールペンと定規を使って、丁寧に作成しましょう。不明な点があれば放置せず、その都度保健所に確認することをおすすめします。
食品衛生責任者手帳など
食品衛生責任者手帳など、食品衛生責任者の資格を証明するための書類を提出する必要があります。
食品衛生責任者講習を受講した後にもらえる修了証明書でも問題ありませんが、食品衛生責任者手帳を提出することが一般的です。
もし他の手段で食品衛生責任者の資格を証明したい場合は、保健所に確認しましょう。
水質検査成績書
水道水や専用水道、簡易専用水道以外の水を使用する場合は、水質検査成績書の提出が必須です。
たとえば、貯水槽の水や店舗の敷地にある井戸水、山から汲んできた水を使う場合など、性質が保証されていない水を採用する際は、水質検査を受ける必要があります。
ビルなどに設置されている貯水槽の水を使う場合は、管理会社か大家さんが水質検査成績書を持っているはずなので、直接問い合わせて受け取りましょう。
登記事項証明書
法人として飲食店を営業する場合は、登記事項証明書が必要です。法務局で入手することができ、登記事項証明書を取得する際は、全部事項証明書の発行を依頼しましょう。発行してもらったら、目的欄に飲食店経営という旨の内容が記載されているか確認します。
目的欄に、飲食店経営といった文言が記載されていなくても申請が通る場合がありますが、基本的には申請時に拒否される可能性が高いです。目的欄に飲食店経営が記載されていない場合は、それでも申請に通るのか、事前に保健所に確認することをおすすめします。
保健所に確認して申請が不可の場合は、目的欄に飲食店経営を追加して、再発行してもらいましょう。
参考:厚生労働省「食品衛生申請等システム」
営業許可証の更新時期
営業許可証には有効期限があるので、更新時期を把握しておく必要があります。
基本的には5~8年といわれており、有効期限の1か月前に更新手続きを行うのが一般的です。更新は保健所の窓口で行うことができ、有効の営業許可証と更新料を持っていきましょう。
更新の際には、施設の再検査が行われ、合格後に営業許可証が送られます。有効期限が切れたままで営業すると違法なので、余裕を持って更新手続きを行いましょう。
営業許可証無しで営業した場合の罰則
営業許可証が無効のまま営業が発覚した場合、2年以下の懲役または200万円以下の罰金が課せられる可能性が高いです。
新しく営業許可証が発行されるまで時間がかかるため、有効期限まで3か月を切る時期から、更新のスケジュールを調整しておきましょう。
営業許可を取得して飲食店開業の準備をしよう
飲食店を開業するためには、営業許可を取得しなければなりません。営業許可を得るためには、食品衛生責任者の資格と営業許可証の取得が必要です。
食品衛生責任者は講習会に参加すれば簡単に取得でき、営業許可証は物件の条件さえクリアすれば発行してもらえます。ただし、講習会は日程が決まっており、施設の検査には時間がかかるため、オープン日の3か月前からスケジュールを調整しておきましょう。