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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、“低価格で高品質な商品を提供する”鎌倉シャツの取締役副社長 貞末さんです。
「鎌倉発のオリジナルなブランド戦略」についてお送りします。
第1回は、低価格で高品質な鎌倉シャツを届けられる秘密についてお聞きしました。
第2回は、鎌倉シャツの伝統と革新を支える技術と戦略についてお聞きします。
この記事の目次
鎌倉シャツを支えるパターンメイキング技術
鎌倉シャツのデザインは、創業の時はズドンとしたデザインでしたが、この20年くらいでスリムフィットが少しずつ主流になってきました。現在もまだスリムフィットが主流だと思いますが、鎌倉シャツのスリムフィットは着るとスリムなのにキツイ感じはあまりなく、寸法的にもぴったりしすぎてはいません。少しお腹が気になる方であっても、鎌倉シャツのスリムフィットを着られるくらいのパターンメイキングをしているのです。
シャツには「前身」と「後ろ身」というものがあって、横の脇線があります。この脇線から前を前身といい、脇線から後ろを「後ろ身」といいます。人間の体というのは、背中はあまり出ないですが、お腹が出ますので前が大きくなります。ですから、設計上は前身を大きくしたいんです。けれども、前身を大きくすると脇線が後ろにずれてしまいます。そうすると、袖が後ろに行ってしまいます。
独特のカーブとか、前身と後ろ身の差寸を微妙に調整しながら、脇線は後ろにあるのに袖が前に出るようにパターンメイキングと縫製を行っています。このため、シャツの後ろは絞られており、前には少し余裕があるという感覚になります。
トラッドと現代デザインの融合
鎌倉シャツのデザインには、以前からクレリックがあったのですが、現在ますます増えてきています。クールビズの推奨によりネクタイをしなくなる傾向があるため、クレリックはネクタイをしても格好良く、ノーネクタイでも品良くまとまるアイテムとして注目されています。とりわけ夏場には人気が高いです。
商品コンセプトを考える際には、鎌倉シャツのトラッドなルーツを大切にしながら、少しの遊び心やカジュアルな要素を加えることで、現代の気分にもマッチするデザインに仕上げています。
トラッドの世界にも、パリコレのようなファッションイベントが存在します。イタリアのフィレンツェで、1月と6月に開催される「ピッティ・イマージネ・ウォモ(PITTI IMMAGINE UOMO)」は、紳士モードの見本市であり、クラシックの中のパリコレと言われています。
私たち鎌倉シャツも、私を中心にそのイベントに行き、そこでサプライヤーや生地メーカーと対話を重ねて情報収集や生地の発注をし、さらにそこで得た情報を持ち帰って新しい商品としてアウトプットしています。
ただし、トレンドを取り入れる際には、ベーシックの範囲内にとどめ、少しだけ遊び心を加えることにしています。すごく難しいことですが、そういった新しいトレンドを取り入れていくことで、他社ブランドとの差別化にも繋がります。一方で、過剰に入れすぎるとベーシックの範疇を超えてしまいますので、非常に難しいところです。
鎌倉シャツ独自のサイズビジネス
サイズ展開については、父が最初から決めていました。当店ではS、M、Lというサイズ展開のところもありますが、やはり紳士服というのはネックサイズと裄丈(ゆきたけ)が揃っていることが大切で、シャツはサイズが大切なのです。
例えば、一般的にLやLLサイズとなる身長190cmで裄丈90cm程度の方もいらっしゃいますが、この場合首周りがダボダボになり、腕が合うようなシャツが多いです。うちの場合には、裄丈が89cm程度までのシャツもご用意しており、首もきちんと閉まり、腕も適切なサイズのシャツを提供することができます。
身長が高い方やサイズが少し異なる方には、本当にぴったり合うサイズを見つけることが難しいため、そのような方にこそ、当店の商品がおすすめです。
スキルに級を設ける?社員の教育システムとは
また、最近はオーダーメイドの注文も多くなっています。当店では、税抜きで9,800円から注文が可能です。お客様の希望に応じて、生地やネックサイズ、裄丈、襟の形状など、様々なオプションを選択できます。オーダーメイドの注文は、各店舗でも受け付けていますし、価格も9,800円と手頃な価格帯ですので、楽しく注文していただくことができます。
店舗でもオーダーを受け付けていますので、社内での教育も重要になります。専門スタッフを雇用して育成するとコストもかかりますが、我々は「社員全員がオーダーを受注できる」ような教育システムの構築を目指しています。現在でもかなり確立しつつありまして、3級、2級、1級と採寸のスキルに級を設けて教育を行っています。みんなそこを目指して頑張ってやってくれていますので、現在では、ほぼ全ての社員がオーダーシャツを受注できるようになっています。
また、オーダーの売上は全体の10%程度で、今でもかなり伸びてきています。最近、地方の百貨店にポップアップでお店を出しました。うちのシャツの価格は、その百貨店のシャツの3分の1程度の値段であるため、驚きの声も多かったです。地方の百貨店には、2万円から3万円のオーダーシャツのコーナーなどがありますので、そこと比較しても地方の足がかりとしては好感触を得ることができました。
生地の輸入先であるイタリアでの経験が今の業績にも貢献している
私は、鎌倉シャツに入る前にあるセレクトショップで4、5年働いていました。ある日、父から「他の会社のことも大体わかっただろうから、次はイタリアだ」という連絡がありました。当時は、まだインターネットが普及しておらず、イタリアの情報というのが日本に入りづらかったため、商社や問屋が独占的にイタリアについての情報などを持っていて、それでかなりの商売が成り立っていました。そして、父はそこに目を付けて、イタリアを攻略することを思い立ったのです。
鎌倉シャツのネクタイに使われる生地は、イタリアやイギリスから輸入された超高品質のものが使われています。そのため、高い価格で購入していたのです。鎌倉シャツは、3,500円で仕入れて4,100円で売るようなイメージでした。超高級な生地を作れる会社というのは世界でも数社しかなく、父は私をそこに行かせたかったのだと思います。
イタリアに留学してからは言葉を覚えることからスタートしました。そしてイタリア中をまわり、直接生地工場にアタックすることにしました。そこから仲良くなって、徐々にパートナーシップを組み、非常に高品質なネクタイ生地を買えるようになったのです。
しかし、実際に工場に行って価格交渉をしてみると、生地の価格は思っていた以上に安いのです。商社などは良い商売をやっているなぁ、と当時は思いました。しかし、信用取引や品物の管理などは商社さんがリスクを取るぶん、それくらい取らないと数字が合わないということだと思います。
その後、イタリアから帰ってから鎌倉シャツへ入社しました。今、安く提供できるのは、そこでの営業活動がかなり実っていると思いますし、今でもそこから購入しています。
鎌倉シャツの海外展開
入社してからは、海外とのビジネスネットワーク構築や情報収集、例えばピッティ・イマージネ・ウォモ(PITTI IMMAGINE UOMO)などのイベントで情報を収集して、プロダクトにアウトプットする仕事をしていました。
当時は、とにかくいろいろなことを経験させてもらいました。
そのため、海外志向が強かったです。プロダクトの仕入れもそうですし、海外進出についてもそうでした。海外展開の挑戦の中で、ニューヨークや中国、台湾にお店を出したもののコロナで行くことができなくなってしまい、再考を余儀なくされました。
そこで、鎌倉に戻りオフィスの半分を広尾から移転してローカルと協力して魅力的な商品を開発し、再び世界に向けて展開することにしました。
第2回は、鎌倉シャツの伝統と革新を支える技術と戦略についてお聞きしました。
次回は、鎌倉シャツの海外展開と広告としての出店戦略についてお聞きします。