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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、創業明治42年で110年以上の歴史を誇る書店の老舗「有隣堂」を運営し、コラボカフェなど新しい業態へもチャレンジする株式会社有隣堂 代表取締役松信健太郎さんです。
あまり知られていない書店のビジネスと本を軸にした新しい経営戦略について、3回に分けてお送りします。
第1回は、有隣堂のビジネスモデルについてお送りしました。
第2回は、共感を生む有隣堂の挑戦についてお送りします。
この記事の目次
書店の“新たな価値創造”
書店としては、ネットではできない体験や、物だけに限らず“こと”や“時”など、そういったものを”物”と一緒にお客様に提供しながら、リアルな場所として価値のある場所を作っていくことが、私達のとるべき戦略であると申し上げました。
私たちは、そういったことを踏まえて色々な企画を考え、イベントを行っています。例えば、お店で著者とファンとの交流やファン同士のイベントなどを行っています。
最近の企画としては、松本清張賞などを受賞されたことがある小説家の山口恵以子先生と、ファンの方に集まっていただき、店内で一緒にお酒を飲む会を行いました。先生はお料理を題材にした小説をたくさん書かれていて、その小説に出てくるレシピを我々が経営する居酒屋で再現しました。そして、先生と一緒に料理を食べ、お酒を飲みながら交流しました。
私達は東京ミッドタウン日比谷というところに日比谷セントラルマーケットというお店を出店しており、そこのお店の半分ぐらいで居酒屋をさせていただいていますので、このイベントはその自社資源を活用した形で実施したものでした。
普段であればサイン会や講演会で作家の先生とお会いすることはできますが、一緒に食事をしたり、お酒を飲んだりすることはできませんので、本当に皆さん喜んでいただき、お客さんの反応も非常に良かったと思います。
そういった意味で、本屋はコミュニティとして機能するのではないかと考えています。
別の取り組みでは、ある小さなお店にソファーと机だけを置いて、地域の方に自由に使っていただける空間を提供し、お買い物は時々してくだされば結構です、というコンセプトでお店づくりを行ったりもしています。そういったイベントを続けることで、書店にコアなファンが生まれます。
お店でそういった環境を提供し、空気感を共有することにより「どうせ買うのであれば、あそこに行って買おうか」という感情の流れがお客様の中に生まれるのではないか、また、生まれて欲しいと思いながら企画しています。店舗の中に人が集まってワイワイしていれば、それだけで活気が出てきますし、エネルギーになるのです。
書店と多業態施設との連携
今まで日本の高度成長期というのは、書店で本を並べていればビジネスが成立した時代でしたが、今ではデジタル化とともにそれが成立しなくなってきていて、業界は苦しくなってきています。
私たちも、今後どうやって売っていくのかと試行錯誤を繰り返している中で、本屋と居酒屋の併設やカフェとの併設なども取り組み始めました。特に、カフェは本屋と相性が良いので、設備などの契約面をクリアできるところにはカフェを併設する形を取っています。
また、新しい取り組みとして、台湾で有名な「誠品書店」とコラボして、新しい業態を日本に導入したりもしています。これは、800坪ぐらいある大きい面積の中に半分が本、それ以外は飲食やアパレルなどのテナントを入れることによって、館全体のエネルギーを上げ、活性化をしていくというものです。
日本橋にお店があり、現在は13店舗のテナントに入っていただいています。大体10坪から20坪ぐらいのお店が13店舗、プラス200坪ぐらいの本屋があるような形態になっています。
施設は転貸ですから、私たち有隣堂が800坪を一旦借りて、そこにまたプラスでいろいろな店舗さんを誘致してトータルの世界観を作っていて、飲食、タピオカミルクティー、台湾茶、アクセサリー、洋服、オムライスのお店などが入っています。
書籍があまり儲からず、いろいろな業態にチャレンジしているのであれば、今後は書籍が無くてもいいのではないかと言われたりもするのですが、私たちはあくまでも本屋であり、本ありきだと考えています。
これからの日本の成長には本が必要である
これまでと同様のビジネスモデルの書店は非常に厳しい状況になっています。私たちは居酒屋やカフェ、イベントなどの企画や他の業態で会社としての利益は維持していますが、閉店していく競合もいます。
しかし、私自身は、国際競争力や成長力が弱くなってきている日本がもう1度輝きを取り戻すためには、国民1人1人が成熟し、成長していくしかないと思っています。そのためには、やはり本の役割はとても大きく、それと同時に書店が果たしていくべき役割も大きいと考えています。創業以来110年本を売ってきた身としては、可能な限り本に関する商売を続けていきたいという想いでいます。
しかし、正直に申し上げると本は利益率が25%くらいで、売ってもあまり儲からないのです。
私たちの例だと、人件費が売上の12% 、家賃などの施設費が売上の12%程度であるため、その2つだけでも売上の24%にものぼる費用が発生しているのです。粗利のほとんどがそうした費用で消えてしまうので、ビジネスモデル的にはなかなか厳しいと思っています。
一方で、最近は本屋やカフェをやってみたいと考えている方が多い気がします。
私は、本へのタッチポイントが社会に多く存在している状態が望ましい姿だと思っていますので、そういったお考えの方々がいらっしゃることは本当に大歓迎で、競合として捉えるのではなく、共存していきたいと思っています。
ただ、本だけで、しかも小規模でビジネスを成立させるのは非常に厳しいため、カフェなど本以外の事業で収益の柱を作って、本自体の損益はプラマイゼロあるいはほんの少しマイナスぐらいをイメージしてビジネスを作っていくのが良いのではないかと思います。
本を売るための“オリジナルカフェ”
私たちが最初に飲食店を始めたのは、新宿の小田急百貨店の中にお店を出させていただくということになったのがキッカケした。
出店にあたって小田急さんと協議をする中で、新しいお店はブック&カフェにしようということになりました。それで、否が応でもカフェをやらなければならなくなったのです。飲食店の運営形態としては、自分たちでやるか、他の方にお願いするかいずれかでした。
当時、私たちには「書店のビジネスだけでは厳しい」という考えが根底にあり、新しいことは何でもやろうというスタンスでいましたので、それまで飲食店の経営経験はありませんでしたが、迷うことなく自分たちでやる決断をしました。
飲食店経験がゼロの人たちが集まりゼロから設計をはじめましたが、最初に決めたのは、カフェで儲けるのではなく、本を売るためのカフェにしようということでした。そして、本を楽しんでいただくためのカフェにしようというコンセプトも決めましたので、それを軸にしてスタッフでいろいろ協議して、準備を進めました。
例えば、 「ポポくんのミックスジュース」というミックスジュースが出てくる本があるのですが、その本に出てくるミックスジュースをそのまま再現したメニューを作りました。また、机や椅子などの内装についても、本と関連した空間を作れるようにこだわりました。
私たちが普通のカフェとして運営しても、スターバックスさんやドトールさんには100%勝てませんし、そこを目指しているわけでもありません。私たちは、私たちの強みである本を活かしたオリジナルなカフェを作っていきたいと思っています。
第2回は、共感を生む有隣堂の挑戦についてお送りしました。
次回は、コラボカフェ、YouTubeへの挑戦と、書店の課題についてお送りします。