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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
#21 新規事業参入の裏側をビジョン佐野社長が語る
#22 地域の特性を生かしたグランピング事業の極意
今回のゲストは、海外用Wi-Fiルーターレンタルサービスのブランドを主力事業とするかたわら、「温泉付きグランピング施設」も展開する、株式会社ビジョン取締役社長 兼 CEOの佐野健一さんです。一部上場企業を経営する中、突如スタートした温泉事業の意外なきっかけとはなんなのか。圧倒的な収益性を誇るビジネスモデルの秘密や、集客やコストカットの方法などの具体的な戦略にも踏み込みました。何手も先まで練り込まれた戦略や、その裏に潜む熱い想いについて深掘りしていきましょう。
第一回は、温泉グランピング事業の立ち上げについて、第二回は、部屋を常に満室にする集客戦略についてのお話でした。最終回は徹底したコストカットや社長としての心構えについてご紹介します。
この記事の目次
似たような業者の参入を防ぐ、意外に高い参入障壁
鹿児島の次は山中湖でオープンしようと思っています。テントサウナを作ったりしますし、水風呂も冷たいものを提供するためにかなりの金額を投資しています。他の部分も鹿児島の時と同じようなコンセプトで作るので、関東には全くないような形式になるはずです。他に同じような事業を始めるところは出ないのか?と思われるかもしれませんが、この事業は意外に参入障壁が高いんです。まず単純にコストがかかります。僕も始める時には数億円かかりました。
(グランピング事業立ち上げ時のエピソードは#1に」
次にネックになるのが土地です。ホテルと違ってグランピングでは縦に積んでいくことができないので、ものすごい広さの土地が必要になります。さらに、どこでもいいわけではありません。
すでにお客様に魅力が伝わっている温泉地である必要がありますが、中心地はすでに温泉街になっています。建物が多いのもグランピングの雰囲気に合いません。だから少し離れた自然が多いところが良いのですが、離れすぎると「思ったより遠いなあ」となって満足度が下がってしまいます。
全ての条件を満たす土地を確保することは、本当に難しいです。山中湖が取れたのは、ほとんど奇跡です。だから、簡単には自分達と同じような事業を始めることはできないと考えています。
お客様は温泉エリアから旅行地を探す
「すでにお客様に魅力が伝わっている温泉地である必要がある」と言いましたが、これは本当に大事です。普通は、お客様はまず温泉地から探します。例えば「草津行こうよ」「熱海行きたいね」といった具合です。
そこから旅館を探しはじめます。そうやって探している中で「なにこれ、グランピングなんてあるんだ」と気づいてもらう、というのが自然な流れです。もし有名な温泉地になかったら、ものすごく力を入れて広告しないと認知すらしてもらえません。最初にスタートした鹿児島の「こしかの温泉」も、霧島という全国有数の温泉地にあります。(佐野さん即時の土地選びの工夫は#2に)
圧倒的な利益創出の秘密、コスト削減の工夫
コストは抑えられているなと感じています。まず、グランピングなのでこちらで調理する必要がありません。だから厨房コストはほぼかかりません。
お湯に関しても湧き出るものを使っているので、コストはかかりません。普通はポンプで引き上げてボイラーで温めているので、ここのコストはなかなかのものになります。しかしうちは44℃と52℃の二つの源泉があり、これをブレンドして、さらに湯量を調節することによって温度をうまく調節することができています。冬なら42℃、夏なら40℃くらいです。
また、水も天然水を使用しているのでほとんどタダです。厨房の水は衛生管理面が厳しいのでキチッとやっていますが、それを差し引いても安いです。そして、チェックイン・チェックアウトをフルで自動化しています。これにより人件費をぐっと抑えることができます。
業界の常識を覆す、チェックインの時間
チェックアウトに関しては、時間に関する工夫も行っています。普通は11時あたりにチェックアウトで、3時くらいには次のお客さんが来ます。しかしうちの場合はチェックアウトが10時で、チェックインが17時なんです。結構間を長くとっています。
こうすると時間が長い分清掃を丁寧にすることができますし、人数もかからなくてコストカットになるんです。お客さんの不満も意外に無くて、近くで観光してから来るとなると、案外ちょうどいい時間なんです。観光して、チェックインして、お風呂入って、ご飯食べて、焚き火して、というように時間をうまく使えます。業界のスタンダードではないですが、今のところうまくいっているなと思っています。
コロナによる打撃、グランピングに支えられる
グランピングを始めてからすぐに、コロナがやってきました。グランピングは外で密にならないのでマイナスの影響はほとんどなかったのですが、旅館の方は凄まじい打撃を受けました。
元々食事はバイキング形式だったこともあり、相性は最悪でした。個別に食べられるようにお弁当を作ったり、マーケティングでも様々な工夫をすることで被害は最小限に抑えられ、他の旅館よりはかなり健闘しているとは思います。それでもダメージは大きいので、グランピングの売上がなかったら厳しい状況になっていたかもしれません。
インバウンドを主軸にしてはいけない
コロナでインバウンド(外国人が訪れてくる旅行)が壊滅状態になったこともあり、インバウンドを主軸にすることはこれまで以上に慎重にならなくてはいけないと思っています。
かといってインバウンドを無視することも、大きな市場を逃すことになるのでもったいない。だから、「基本的には地元の人たちに愛されるようにして、それにインバウンドが加わることでさらにお客さんが増える」という形を目指すのがいいと思います。地元の人たちで平日稼働率80%だったところが、95%になった、というイメージが理想です。これなら収益も上げつつリスクを下げることができます。
多忙な社長なのに時間を捻出できる、その秘密はショートスリーパー
今まで旅館とグランピングの話しかしていませんでしたが、僕は株式会社ビジョンという一部上場企業の社長なので、当然たくさんの業務があります。その中でも、1日に4時間ほどを捻出してグランピング事業に時間を使っています。それができるのは、僕がショートスリーパーだからです。人より睡眠時間が少なくても済むので、長い時間活動することができます。
朝は5時くらいには起きて、親父とLINEでたくさんやりとりをして、状況を把握したり指示を出したりします。そして朝8時くらいにはうちのメンバーに指示や共有事項を送っていきます。夜にもやりとりをすることがあります。毎日予約状況もしっかり見ていますし、インスタも見ています。
社長として全体を見渡すことの重要性
やはり状況を常に把握しておかないと、だんだんクオリティは下がってしまいます。何かよくない兆候があったときに対処が遅れると命取りになってしまうことがあるので、かなり気をつけています。また、こうして社長が頻繁に状況をチェックしているというのは現場にもいい緊張感が生まれ、やる気が伝わって士気も上がります。
しかし何か気づくたびに現場に出るのは引っ掻き回しているだけになってしまうので、そこは注意して幹部とだけ話すようにしています。彼らは単なるイエスマンではないので「社長、それは違います」と伝えてくれますし、現場に落とし込む際もうまく調節してくれます。
お店とは「場づくり」である
グランピングなので、本当にお客さんには癒されてほしいですし、また来たいと思ってもらえるような素敵な場所を作りたいです。場づくりをして、そこで過ごしたことが人生の中で一つの思い出になってくれれば経営者冥利に尽きるな、と思います。
また、お店だけでなく、周囲のもっと広い範囲での場づくりにも貢献できると、より嬉しいです。僕らを応援してくれる、地元のたくさんの方々の協力があったからここまでやることができたので、地元を盛り上げることで少しでも恩返しがしたいです。