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お店ラジオ 2023/02/10 2024/03/14

丸亀製麺の重すぎるコストと、それでもスタイルを貫く理由

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、丸亀製麺を主軸に展開する株式会社トリドールホールディングス代表、粟田貴也さんです。外食チェーンの中で最速で500店舗を達成し、現在日本国内に約800店舗、海外に200店舗を展開する世界的な外食チェーン丸亀製麺。その社長である粟田さんですが、どうやら初めから順風満帆だったわけではなく、たくさんの試行錯誤を重ねて今に至ったようです。その経緯と、経営の考え方について掘り下げていきましょう。

粟田さんのお話を紹介する第1回は、焼き鳥屋トリドールをオープンするまでの経緯についてでした。
第2回目は、トリドールが躍進した戦略や、丸亀製麺誕生の経緯についてでした。
第3回目の今回は、丸亀製麺がフードコートで成功した理由や、海外出店、経営哲学についてです。丸亀製麺にかかる凄まじく重いコスト、それをよしとする理由についてお聞きします。

この記事の目次

  1. フードコートに本格調理を持ち込み、圧倒的に勝つ
  2. 丸亀製麺の成功を足がかりに、多角化を行う
  3. 法律が変わり、戦略が破綻…別の作戦を考える
  4. 丸亀製麺の重すぎるコストと、それでもそれを貫く理由
  5. 楽な道ではなかったが、結果的に外食チェーンで500店舗を最速で達成
  6. ハワイ旅行でいい物件を見つけ、そのまま勢いで丸亀製麺を出店
  7. お客さんに来てもらうためには、手間暇をいとわない
  8. お店とは「自己表現」である

 

フードコートに本格調理を持ち込み、圧倒的に勝つ

お金がないながら出店しようとしていた時にラッキーだったのが、当時はフードコートが結構作られていて、そこへの出店ならばイニシャルコストは比較的コンパクトで済んだということです。

当時まだフードコートは成熟しきっていない時代で、とりあえず行けばなんでもあるけど安かろう悪かろうだよね、というのが一般的なイメージでした。

私はそこにチャンスがあると考え、しっかりと製麺機を持ち込み丸亀製麺を出店しました。「フードコートに製麺機を持ち込むようなところなんかないよ」と散々言われたのですが、製麺機も釜もちゃんと入れて風情みたいなものを打ち出したお店をオープンしました。するとこれが大当たりして、長い行列ができました。

お客さんの期待をいい意味で裏切れたんだと思います。本来はそういうものがあるといいよね、とは思っていてもフードコートにはそんなものはないという前提で来ていたので、お客さんが集まったのでしょう。

 

丸亀製麺の成功を足がかりに、多角化を行う

このフードコートでの丸亀製麺の成功を足がかりに、全国にどんどんできているフードコートから次々に声がかかって出店していくことになります。

そこで思ったのが、フードコートには当然丸亀製麺は1店舗しか出すことができないけど、横のお店を見てもそこまで強くなさそうだということです。

そこで、丸亀製麺で得た強みを他の業態に応用して、多角化を行っていきました。丸亀製麺がもしラーメン屋だったら、丸亀製麺がもし焼きそば屋だったらと、どんどん考えていくのです。これによって、事業の成長スピードは一気に上がっていきました。

そこで、東証マザーズという敷居の低いマーケットができたこともあり、無事に上場に成功します。こう聞くと丸亀製麺で上場したように聞こえるかもしれませんが、あの時に会社を支えていたのは間違いなくトリドールでした。

トリドールで上場して資金を得て、丸亀製麺が未来を切り開く、という流れでしょうか。

 

法律が変わり、戦略が破綻…別の作戦を考える

そのままどんどん増えていくフードコートの勢いに乗って躍進していく計画だったのですが、当時はシャッター街などが問題になり始めたころだったこともあり、法律が変わって大きな商業施設の建設に規制が入るようになってしまいました。

はしごを外された感覚になり、フードコートを軸とした計画は再考を余儀なくされました。そこで自分達で自立できるような路線に戻そうと、それまでフードコートで展開していたマルチ事業を郊外に置いてみました。すると他のものより丸亀製麺が圧倒的に良かったので、そこからは丸亀製麺を軸に展開していくことになります。

 

丸亀製麺の重すぎるコストと、それでもそれを貫く理由

丸亀製麺はとても集客力があったのですが、その反面コストはものすごくかかっていました。

まず設備投資として製麺機や茹で釜・熟成庫などが必要で、さらに店舗それぞれが工場のようなものなので多額の水道光熱費がかかります。店舗で麺を作るから人件費がかかりますし、製麺スペースのためにある程度広くないといけないことから家賃もかかります。

丸亀製麺は重たい荷物を担いで歩いているような状態で、セントラルキッチンを持っている他の飲食店に比べたら明らかに分が悪いです。

しかし、コストは高いですが集客ができたら圧倒的な売上に繋がります。店の都合だけを優先して考えると、我々のような業態は作れません。我々は創業から一貫してどうしたらお客様に来ていただけるか、そのことに執念を燃やしてやってきました。

いかにローコストオペレーションであるかよりも、お客さんに来ていただけるかの方がはるかに重要だったのです。

 

丸亀製麺はピーク時は年間で137軒、つまり3日に1店というハイペースで出店していたのですが、一つ一つにかなりの初期投資がかかります。ここでその費用を抑えれば、瞬間的に何十億という利益が出ます。

しかし、瞬間的な何十億の利益よりも、やっぱり継続的に出る利益の方が大きいのではないかと思うのです。

 

楽な道ではなかったが、結果的に外食チェーンで500店舗を最速で達成

これが実現できたのは、ひとえに社員がブレずに頑張ってくれたおかげです。こんなに大量にお店を出しても「合理化しよう」「こんなにしんどいことはもうできない」などということは一切言いませんでした。

圧倒的な集客をして“お店の繁盛”を自分たちが体験すると、「この手作り感をお客さんは見てくれているんだな」と感じ、しんどくてもやらなければいけないという使命感を持ってもらえたんじゃないかなと思います。

楽な道は歩んでこなかったはずなのですが、自分達の世界観が作れたことによって、結果的に外食チェーンでは最短で500店舗を達成することができました。
これは遠回りをしているように見えながらも実はショートカットをしていたということなのでしょう。

 

ハワイ旅行でいい物件を見つけ、そのまま勢いで丸亀製麺を出店

そしてしばらく経った2010年のある日、初めてのハワイ旅行を楽しんでいると、ジョギング中になんだか平屋でガラス張りのいい物件に出会いました。

それを見ていると、ここに製麺機を置いて釜を作り麺を湯がいているシーンが見えたら、たとえうどんのことを知らなくても人が集まってくるのではないかと思いました。

国は違えど人の本能は一緒で、実演・手作り・できたてのようなものに魅了されるのではないだろうか…そう考えて翌年の2011年に我が社にとって海外1号店である丸亀製麺ワイキキ店ができました。

するとなんと、このワイキキ店が讃岐で見た大行列を超えるぐらいの大行列を作ったのです。ビギナーズラックというか、海外初出店でこれだけ見事に成功した会社はないのではないかと思うほどです。その売上は日本の丸亀製麺の売上をはるかに超えるほどで、今でも行列が絶えない人気店となっています。

ここから、それまで全く興味がなかった海外進出に向けて本格的に動き出し、今では海外でも200店舗を超える出店数になっています。

さらに海外事業本部を作って海外の知見があるメンバーを集め、より戦略的に事業を進めていますので、これまでよりもはるかに大きな成功があると信じています。

 

お客さんに来てもらうためには、手間暇をいとわない

この事業をやるうえで変えてはいけないものがあって、それは「お客さんに来てもらうためには手間暇はいとわない」という精神です。

自分達のロジックで展開しやすい方向に舵を切ってしまうと、やはり顧客の期待は揺らいでしまうのだろうと思います。

お客さんに感動体験を与えるために手間暇をかけてやり通すところがありつつも、時代と規模によって変えなければいけないところは柔軟に対応していくことが大切です。これを機敏にしていくことで、今は想像もつかないような未来がこの先にあるのではないか、と考えています。

元はといえば明日潰れるかどうかもわからない焼き鳥屋だったことを考えると、本当にどうなるかなんて分からないなあと思います。

 

お店とは「自己表現」である

私にとってお店は創業してから一貫して、やはり自己表現といいますか、自分が考えている世界観を表すものです。言い換えれば名刺のようなもので、お店を見て経営者を感じていただけるんじゃないかと考えています。

だから店には自分のポリシーをしっかり反映させたいなあと思っていて、特に創業当初は「ここにこの食器を使って」「ここにこういう絵をかけて花を飾って」などと、隅々までこだわったものです。

そうして作り上げた私の世界に「お客さんが1票を投じるかどうか」なんだと思います。

 

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執筆 横山 聡

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