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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、地域の魅力を発見してコンテンツの価値を向上させ、戦略的に古い町並みを再生する バリューマネジメント株式会社 代表取締役 他力野 淳さんです。
神戸の旧西尾邸のリノベーションから事業をスタートして広島県竹原市、太宰府天満宮、千葉県香取市などの古い町並みを再生。地域資源の活用を通じて観光の本質である「日常とのギャップ」を生み出し、そこから価値を創出する戦略について、3回にわたり詳しくお伝えします。
第1回は、神戸旧西尾邸のリノベーションから、ポテンシャルのある町の見極めまでをお送りしました。
第2回は、3種類の町の分類から、掛け算の観光戦略による付加価値の創出までをお送りしました。
第3回は、単価上昇の必要性から、バリューマネジメント流の「人の集め方」までをお送りします。
この記事の目次
地域資源の掛け算と価値向上:単価上昇の必要性
地方では500円程度で食べられる美味しい食事が多くあります。しかし、その食べ物をさらに価値あるものにするための磨き方が理解されていない場合が多いと思います。
私たちのアプローチは、先に価格を設定し、それに見合う価値を提供するというものです。
例えば、愛媛県の大洲市で「お城に泊まる」というプランを提供し、その価格を2名で100万円に設定しました。このような高額プランは注目を集め、地域の認知度の向上に繋がります。そして、お城や城下町、そこに根付く文化や歴史についての理解が深まり、それらがお客さんの中で繋がっていきます。
今、私たちは城下町の分散型ホテルを増やし、古い建物を修復して地元の人々や新規開業者が参加するよう努めています。そうすると、町が活性化し、更なる来訪者を惹きつけます。さらに、宿泊費や料理の価格を高めることで、地域の価値を感じてもらうと共に、地元の良質な食材の利用を促進します。
しかし、良い食材を地元で使うためには、地元で適正な価格で購入できる環境が必要です。例えば、地元で獲れる高級魚が地元よりも高値で取引される豊洲などの市場に流れてしまうという問題がありました。しかし、料理の価格を上げることで、地元で適正な価格で購入し、地元で良い食材を使うことが可能となります。
地元で獲れた価値ある食材を地元で食べる体験は貴重であり、そのためには単価を見直す必要があるのです。そして、それがお客様に受け入れられるようであれば、その方法を継続するということです。
観光単価向上の必要性
興味深いデータが1つあります。2019年、京都には国内外から約5,000万人の観光客が訪れました。しかし、観光関連の業者の収入は上がらず、観光サービスの単価も向上していませんでした。
通常、訪れる人が増えれば高価な商品やサービスの需要も増え、その結果として価格が上昇するはずです。
しかし、デフレの影響もあってか日本では良質なものを安価で提供する傾向があり、需給のバランスがうまく機能していません。結果として、京都はただ忙しくなっただけで、観光業者の収益は伸びずに疲弊する一方でした。
この反省を基に、単価を上げることが重要であるという理解が深まってきました。単価を上げると提供するサービスの質も上がり、結果として売上と業者の収入が上がります。
これが良い循環を生み出し、給料が上がると優秀な人材が集まり、観光業全体が活性化します。現在、京都はこの構図を理解し、単価を上げるための戦略に転換しつつあります。
地域活性化への志向と人材の集積
地方での事業運営には、人材の課題があります。特に、サービスの単価を上げることは、それに伴って提供するサービスの質も上げる必要があります。そのため、難度が上がると人材の確保に困ることが一般的です。
私たちも例外ではないのですが、実際には、多くの人材が集まってくれています。私たちの目指す目標は単に飲食業や宿泊業を行うことではなく、地域を活性化させたい、あるいは地域の価値を守り継ぎたいという想いであり、これらに共感する人々が、私たちの事業に集まってくれていると感じます。
自分だけが良ければいいという考えではなく、何かに対して貢献したい、地域や周囲の人々に対して価値を提供したいという想いを持つ方が全国には大勢いらっしゃいます。そのような人々が私たちの事業に集まり、地方の活性化に貢献してくれているのです。
世界観を伝えることで人を集める
私たちは、飲食業やホテル業が地域の価値を高めていると考えています。例えば、開発者が新たな町を作ったとしても、その町が消費者に何を感じさせるかというのは実際に提供される各種のサービス、つまりコンテンツが決定します。
「素敵な店を見つけた」「豊かな時間を過ごせた」「リラックスして過ごせた」といった体験は、町の価値を形作ります。その価値は、サービス産業の一つ一つのコンテンツから生み出されていくのです。
そして、「働く」ことを「コンテンツを作る」という視点から捉えた場合、まだまだポテンシャルのある地方で働くことはとても魅力的です。
例えば、「この店でこの商品を提供しています」といった事実だけを伝えるのではなく、私たちが実現したいビジョン、つまり私たちの世界観を伝えることを重視し、その情報発信が功を奏して2024年度の新卒採用の応募者は1万人を超えました。
そのためにはもちろん工夫も必要で、私たちはインターンシップを積極的に実施し、私たちが何を目指しているのか、学生が社会に出るための接点となる要素は何かを考えながらインターンシップの事業を運営しています。そして、2024年度新卒向けのインターンシップには、約3,000人もの方に参加していただきました。
現在、多くの学生が東京や関西に集まっていますが、その中には地元を気にかける学生も多いです。地元の衰退を見て何とかしたいと思っている人々にとって、私たちのような事業を行っている会社は非常に魅力的なのだと思います。
私たちが成功し、ビジネスとしても大きな収益を上げることができれば、この種の事業を手がける会社は一気に増えると思います。私としては、それは素晴らしいことだと考えています。そしてその時には、私たちは新たなステージへ挑戦しようと思います。
私にとってお店とは「町を形作る存在」
私たちは、未開拓の地域も含めて多彩な文化を世界に知ってもらい、外国人観光客の地域流入を促すことで、外貨を稼ぐとともに地域の未来を切り開きたいと思います。
また、地域に深く根ざした事業展開を行っていきたいと思っています。
観光を一部展開しただけでは、真の意味での地域活性化は難しいと考えています。地域に根付いた人々が豊かな生活を営むためには、教育や医療などのライフラインの整備が不可欠です。単に「移住」を推進するだけでは、一時的に人が来てもすぐに離れてしまう恐れがあります。
私たちは、観光をきっかけに地域に深く関与し、持続的な取り組みを行いながら地域全体を活性化していくことが必要だと考えています。
私にとって、お店とは「町を形作る存在」です。それは町の人々や訪れる観光客にとっても同様です。旅行先の飲食店で過ごした特別な時間や思い出は、長い間心に残ります。
私自身も10年前の旅行の記憶を今でも鮮明に覚えています。だからこそ、サービス産業というのは地域での印象深い体験や価値を創造する存在だと思います。そのためにはやはりコンテンツが価値を決めると考えています。
地域の事業者が一丸となって町の価値向上に取り組むと、大きな未来が広がると確信しています。その町の歴史や文化がお店で体験できるようにすること、それが、私が目指す素晴らしい未来像です。