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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、大阪のうどん屋を引き継ぎ、24歳で高級うどん店「つるとんたん」をオープン。そして、現在はカトープレジャーグループの代表取締役兼CEOの加藤さんです。
「つるとんたん」の開店からトータルプロデュースカンパニーとして、ホテル、旅館、スモールラグジュアリーリゾートなど幅広く事業を展開されるまでの歴史と戦略についてお送りします。
1回目は、「つるとんたん」のスタートから、経営で大切にしていることについてでした。
2回目の今回は、海外展開やお店づくりの具体的な内容についてです。
この記事の目次
新型コロナウイルス感染症と支えてくださった方々
今回の新型コロナウイルス感染症の拡大では、六本木も北新地も大変な影響を受けました。この状況を乗り切るための対応として、まず私は役員報酬を一切貰わないことにしました。幹部もつらい面もあったと思いますが、高給取りは少し我慢してもらわないといけなかったのです。しかし、社内には絶対に会社は潰さないので心配するなと言っていました。
また、事業パートナーの方々ともお話ししましたが、取引のある金融機関の頭取や理事長さんから「絶対に支えるから」とおっしゃっていただくなど、皆さん我々にとって本当にありがたい対応をしてくださいましたので、私はこの会社は潰れないと確信を得たわけです。
皆さんも潰れない会社だとわかっているからそう言ってくれたのかも知れませんが、結果としてこの2年間、進行中のプロジェクトを全てオンタイムで進めることができました。これは本当にパートナーの皆さんやスタッフのおかげだと思っています。今こうしてあるのは、大勢の方の支えがあったからだと感謝しています。
考えていなかった海外展開と“ローカライゼーション”
「つるとんたん」は海外へも出店しているのですが、最初から海外展開を考えていたわけではありませんでした。多くの方からラブコールは受けていたのですが、私自身は海外へ進出しようとは考えていませんでした。
海外進出のリスクはカントリーリスクだと思っています。もちろん為替のリスクもあるし、常識も、法律も違います。これがわからないまま海外へ進出をして失敗するケースが非常に多いですね。
海外のパートナーや大丈夫だと言っていた役人が嘘をついていたり、賄賂を要求されたりと、海外展開しようとした時に騙されることがありますね。特に小型店の場合は本当に騙されるケースが多いので、海外進出を考えられている方は気を付けていただきたいです。
また、海外展開しても日本と同じ美味しい味が出ていない店舗も多いですが、私は“ローカライゼーション“は大切だと思っています。味覚の感じ方というのは国によって相当違いますし、食材の仕入れ方も違うので、その国に合わせることを丁寧にやるということが大切なんだろうと思います。
ニューヨークの「つるとんたん」にも日本食やうどんがありますが、日本とは環境も違いますので、ニューヨークではどういうものがいいのかを指導しながら一緒に研究して共同開発をし、新しいニューヨークの味として提供しています。水も温度も違うし湿度も違う、まして作る人も違いますので、お寿司屋さんが握り手によって味が違うのと同じように、国や店舗によってうどんの味が違っていて当たり前だと考えています。
ですから「つるとんたん」でもうどんの味は違うんです。「つるとんたん」のコンセプトというのは手打ちうどんをちゃんと作るということですので、そこは大切にしていて、うどんは全て手作りです。万が一、コンセプトを外れるのであれば辞めろと言っています。ですから当然、ニューヨークでも自分たちでうどんを打っていますが、彼らも効率経営は良くわかっていますので、なぜ自分たちでうどんを打たないといけないのか?と言うわけです。それに対して私は「これは心なんだ。」と伝えています。
「つるとんたん」名前の由来は弘法大師
「つるとんたん」というネーミングも独特だと言われますが、「つるとんたん」を漢字で書くと“鶴飩啖”で、鶴亀の鶴(つる)、温飩の飩(とん)、健啖の啖(たん)が由来です。
元々、うどんは弘法大師が中国から温飩という食べ物の製法を伝え讃岐平野で広め、そこで貧しい人たちが小麦を作り、自分たちで温飩という食べ物を作ったというのが始まりだと言われています。
鶴亀はとてもおめでたいですし、温飩という非常に古い歴史のある食べ物を健啖に食べていただくというのがネーミングのルーツです。
ちなみに新しい事業のネーミングを決定する時には、だいたい2,000個程の案を出してプロジェクトを任せている人で決めます。執行部で何人かそういう能力のある人がいますのでそういった時には私は邪魔はしません。
お店作りはセンス、感性の世界
また、お店作りはセンスが必要だと私は考えています。マーケティング云々というよりも、芸術とはいわないまでも感性の世界だと思います。これは特定のメンバーしかできないことです。私の会社でそれができるのは、現在会社のナンバーツーとなっている私の長男ですね。
彼は子供の頃から徹底的に教育されています。昔、ニューヨーク大学に在籍していた時期がありましたけれども、ニューヨークのミシュランの店の料理を全部食べていいよと言ったら、お金を掛けて本当に全ての店に行って食べてきました。しかしそうすることで洋食が語れるようになりますし、それが自信にも繋がります。
これは料理人でも同じで、料理の世界では自分の料理と親方の料理しか知らない人が多いですね。けれどもこれではダメです。
私は料理人ではありませんが、お寿司屋さんやイタリアンの繁盛店を年間200件とか300件、何処にでも毎日通って歩くから料理が語れますよね。私が料理を語れるのは全部知っているからです。知っているというのはすごく大切なポイントで、やはりマーケティングもそこまでやらないとダメだと思っています。
いろいろなお店に行って空間が良いと感じると、なぜ良いのかを観察します。例えば、空間やテーブル、クッションがどんなマテリアルでどこのメーカーなのか、なぜ心地良いのかということを観察しています。それを具体的に定量化して理解していくのがプロだと思います。
料理に関しても「美味しい」だけではなく、なぜ美味しいんだろうかということや、この人のサービスがなぜ良いのかには理由があります。全てを言葉にはできないですが、それでもある程度言葉や文字や数字にできます。これがマーケティングになると考えています。
“トータルプロデュース“による新しい価値の創造
30数年前は飲食店やレストランのフランチャイズのシステムが日本に増えていた時期であり、インターナショナルホテルの場合でいうと、経営と資本の分離ということがすごく言われていました。その当時から“トータルプロデュース”という考え方を持っていて、他資本との連携なども考えていました。さらに、そのことについて研究をしていく中で、自社で投資して全てをオペレーションする必要は無いと考えるようになりました。
そんな中、これまでも言っているように、レジャーと名の付くものは全部やると言っていましたので、旅館も含め様々な業態の方からお声掛けいただくようになりました。
そして、15年前に“ふふ熱海”を作ったり、元々は三井財閥の別邸であった箱根の“翠松園”という登録有形文化財を有する建物の中でトータルプロデュースというご依頼をいただき、旅館事業なども行うようになりました。その時にも、これが流行っているからやろうとは思っておらず、唯一無二の新しいものを生み出していく、その業態において変革により新しいものを生み出そうと考えていました。
今回のお話はここまでです。次回は、旅館ビジネスについてです。