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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、大阪のうどん屋を引き継ぎ、24歳で高級うどん店「つるとんたん」をオープン。そして、現在はカトープレジャーグループの代表取締役兼CEOの加藤さんです。
「つるとんたん」の開店からトータルプロデュースカンパニーとして、ホテル、旅館、スモールラグジュアリーリゾートなど幅広く事業を展開されるまでの歴史と戦略についてお送りします。
1回目は、「つるとんたん」のスタートから、経営で大切にしていることについてでした。
2回目は、海外展開やお店づくりの具体的な内容についてでした。
3回目の今回は、土地に合わせたローカライズ、旅館ビジネスについてです。
この記事の目次
富裕層のニーズと旅館とのギャップ
先にお話しした“トータルプロデュース”という考え方で旅館のプロデュースなども行うようになったのですが、旅館ビジネスには形態として大型の観光旅館と小さな旅館があり、観光旅館は会社の慰安旅行や団体旅行などで流行った経緯があります。一方、小さな旅館は女将さんやご主人がいて、地場の方々が小さく営んでいました。その中で、安い旅館から高級旅館までがありました。
以前は高級旅館が3万円台でしたが、お客様が皆満足されないんです。私も満足しない。それはなぜ?ということで分析を始めました。理由はいくつかあるのですが、まずは食事が駄目だということでした。では、なぜ食事が駄目なのかですが、高級旅館で宿泊料金が3万円台であるのに対して食事にいくらかけているのかを調べると、7,000円~8,000円くらいでした。
次に、高級旅館に宿泊する富裕層の方が西麻布のイタリアンや銀座の高級寿司でいくらの料理を食べていらっしゃるのかということです。すると、その当時でも最低15,000円くらいの物を食べていらっしゃるんです。
ということは、旅館の8,000円の料理と東京で食べている15,000円の料理にはギャップがあるわけです。これがまず食に関する課題の一つでした。
もう一つはファシリティ、設備です。特に外国の友人たちが日本のスパに行きたいけれどもプライバシーが無いと言うのです。具体的には、仲居さんに部屋へ案内される。それは良いのですが、朝食が8時でしたら7時半にお布団を上げに参りますと言われます。そして、鍵を掛けているのに朝になると鍵を開けて入って来られる。外国の方はプライバシーが無いと感じられるんですね。ジャパニーズスタイルでもプライバシーはあった方が良いとおっしゃるんです。
他には、和室であったとしてもベッドルームは欲しいとか、個室に露天風呂があったら良いとか、そういった富裕層の方々の要求に答えることができていなかったので、これを大変革したんですね。
“地のエネルギー”を活かしたオリジナリティの創造
他にも、海の素晴らしいリゾート地で美味しい魚を仕入れてるのにも関わらず、刺身を切って冷蔵庫に入れておくんです。そして、宴会が始まってから出すのですから、美味しくないに決まっています。それを変革して、街の割烹や日本料理に負けないクオリティで提供するにはどれくらいの規模までが可能かというと、最大で100名までです。1部屋2名なので、50室ということですね。ですから、私はこのスモールラグジュアリーについては、どんなに儲かっても50室以上は作らないと最初に決めたんです。
さらに、お客様に喜んでいただける濃いサービスをしっかりとやる。その代わり単価は破格でしたけれども、10万円以上いただくということにしたわけです。そして、先ほど申し上げた多くの項目をクリアしたリゾートができあがったのが、熱海と箱根です。それにより今では当たり前になってきた“市場”を作ることができました。
また、その土地の“地のエネルギー”というものは必ず場所ごとにあると考えていまして、地域ごとの特徴を最大限に活かし、クオリティをどう高めていくかということが大切です。その場所に応じたコンセプトワーク、キーワード、そしてそれに応じたデザイン、ホスピタリティを追求していく、これがオリジナルなんです。すごく手間がかかりますがその場所に応じたコンセプトどおりの料理を開発します。
ですから、出店に際してはその土地の歴史などを相当勉強しながら時間をかけるのです。
銀座への出店を予定している?日本旅館を体現する施設とは
旅館の出店にあたっての土地選定のポイントですが、アクセスはもちろんのこと、その場所の“地”の力を感じることです。三井財閥の別邸であった箱根の“翠松園”などは癒しの地で、独特でいいですね。朝4時や5時に目が覚めて露天風呂に入ると、杉林が見えるわけです。そこの凛とした空気とか、朝霧が入ってくると「ここは良いな」と思うんですね。
感覚的なところが重要ではありますが、風通しが良いとか日当たりがどうかなど、同時に論理的でもあるわけです。開発からオープンまでの期間は短いもので3年、長いもので5年です。ただ、ブランドスケールで出店は10件までと決めています。
そして、私は質の高い日本旅館が日本の主要観光都市にもあるべきだ、つまり、東京にあるべきだと以前から考えていましたので、最後は東京に出そうと決めていました。ですから、最後の10件目は銀座1丁目に作ると決めています。
では、東京に何を作るかですが、これは日本旅館を体現した施設です。“ふふ”らしい温泉があり、屋上には足湯のバーがある。そしてお寿司屋さんの…とあまりいうとネタバラシになりますので、ここまでにしておきます。
軽井沢でのドミナント戦略
私が今、特に力を入れているのが軽井沢です。いつかミスター軽井沢と呼ばれたいと思っていて、ドミナント戦略で2、3年でやる事業を考えています。軽井沢は夏は良いけれど冬は閑散とする。これを変えることが観光に関わる私のミッションだと思っていまして、冬も第2のベストシーズンと言っていただけるものを作り上げたいと思っています。
そのためには、ある程度ドミナントでやっていかなければならないと考えており、最近では“TWIN―NINE HOTEL”という軽井沢の駅前や旧軽井沢に歩いていける場所にデザイナーズホテルを作りました。カジュアルで廉価な販売で、若いお客様に来ていただくデザイナーズホテルです。ここに“ホセ・ルイス”という渋谷で流行ったスパニッシュのお店と、“つるとんたん”も持ってきました。
そして、次に私がやるのは“邸宅シリーズ”です。これは別荘とホテルライフ、ホスピタリティライフと言いますか、そういうものが融合したものを作ろうと思っています。皆さん別荘をお持ちですが、掃除やご飯が大変だとおっしゃいます。これを全て叶えるリゾートを作ろうというものです。これから2年間で10ヶ所作ります。
今は1つ完成しているのですが、今回のテーマは“空の庭”といいます。なぜ、“空の庭”かといいますと、緑が続いている通りの向こうに浅間山が見えるんです。私もよく見ていますが、素晴らしい場所ですね。
10名は泊まれる施設ですので、友人とでシェアして持とうということで、24人ぐらいで持っています。これを軽井沢に集中して作ります。
軽井沢を変えるにはドミナントで市場を変えなければいけないと思っているので、冬でもご機嫌なリゾートにするとなると、ある程度の規模でお金も入れていかなければならないと考えています。軽井沢は素晴らしい場所だけれど、もっと素晴らしい場所にしたいですね。
しかし、軽井沢は許可が難しいんです。そのおかげで守られているという面もありますが、多くの規制があってホテルが作りにくいんですね。ですから、ホテル建築は難しいけれど家だったら最高の場所があるんです。それをみんなで持ち合って、うちが駆け巡ってホスピタリティをご提供する。
たまたまある方の別荘に冬に遊びに行かせていただいた時に、「冬もいいでしょう」と言われました。雪が降って“凛”とした空気、そして冷たい清らかな風が入ってきて、それで軽井沢が好きになりました。軽井沢で事業をする理由は、そういったことを含めて多くの方との色々なご縁からですね。