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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
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#112 斗六屋 新ブランド「SHUKA」の”素材価値を高める”経営戦略
今回のゲストは、1926年(昭和元年)京都で甘納豆屋として創業されたし「斗六屋」の4代目として、遺伝子の研究者から一転、家業を継ぎB to BのビジネスからB to Cへ業態を転換。壬生寺での祭りなどでお客様目線の商品開発を行い、種の気持ちになるお店「SHUKA(種菓)」を立ち上げ、カカオ豆の砂糖漬けという新しい商品開発により「種」の魅力を高める有限会社斗六屋 代表取締役・甘納豆研究家 近藤 健史さんです。
「斗六屋」の創業以来の変遷や遺伝子の研究者から一転、甘納豆屋の後継となったきっかけ。さらに、跡を継いだのをきっかけに、約100年続くB to Bの業態から B to Cへと転換し、お客様目線で、種のお菓子のブランド「SHUKA(種菓)」を立ち上げなど、3回に分けてお話しいただきます。
第1回は、「斗六屋」の創業から家業を継ぐことになったきっかけ、B to Cへの挑戦についてお送りしました。
第2回は、伝統の味の再解釈とイタリアへの挑戦、甘納豆から種のお菓子への進化についてお送りします。
この記事の目次
甘納豆のシンプルさを現代に生かす:伝統の味の再解釈
甘納豆はそのシンプルさが特徴の伝統的なお菓子で、豆と砂糖だけで成り立っています。私は長らく甘納豆を単なる甘いお菓子と見なしていました。そこで、B to C市場への転換を機に、レシピを見直すことにしました。
具体的には、糖度を少し下げて現代の消費者の好みに合わせる試みを行いました。B to B市場では顧客からの直接的なフィードバックを得る機会が限られていたため商品の改善が行われておらず、改革の必要性を感じていたのです。
甘納豆の保存性には甘さが重要な役割を果たしており、砂糖漬けという伝統的な保存技術によって製品の保存期間が延びます。業務市場ではこの甘い味が好まれていましたが、B to C市場ではより繊細な味覚のニーズに応える必要があると感じました。そこで、保存性と味のバランスを見つけるための試みを行いました。
現代の多様なスイーツ市場では、甘納豆も競争に参加しなければなりません。私は甘納豆のシンプルさがその魅力であると考えており、基本的な豆と砂糖の組み合わせを大切にしながら、時代に合った味わいを提供することを目指しています。このシンプルさを現代の消費者に受け入れられる形で再解釈し、甘納豆の新たな魅力を引き出すことで今でも受け入れられると信じています。
伝統への新しいアプローチ
甘納豆は非常に甘く、砂糖の塊のように思われている方が多いと思います。現代では砂糖へのネガティブな印象が増しており、この古いイメージをどう変えるかは私にとって大きな課題となっていました。
この課題に対処するため、地域のマルシェなどのイベントに積極的に出店し、直接お客様からの声を聞きました。イベントでは、若い人たちからも「美味しい」という肯定的なフィードバックを得ることができ、こうした地道で新しいアプローチによって甘納豆のイメージを変えることが可能だと感じました。
この経験を踏まえて、現在は様々なコラボ商品を開発しています。その中の一つが「カカオ甘納豆」です。この新製品の開発は、2018年のイタリア訪問がきっかけでした。日本の若い世代が甘納豆をほとんど知らず、選択肢にも入っていないことに気付きました。私は、知らない人でも興味を持つような新しいアプローチを考えるようになり、海外の人々に認められることで大きなインパクトを与えられるのではないかと思い、イタリアを訪問することにしました。
イタリアでの挫折と新しいアイディア
イタリアにはスローフードという食の社会運動があり、その運動は「おいしい」「きれい」「ただしい」というキーワードを基盤に地元の食文化を重視しています。私はこの運動に甘納豆がマッチすると考え、イタリアに持ち込みましたが、日本とイタリアの食文化との違いから、受け入れられませんでした。しかし、この経験から甘納豆のプラントベースであること、シンプルさ、グルテンフリーという特徴が大きな可能性を持っていることが明らかになりました。
イタリアで、人々がどのようなお菓子を好むかを観察しました。イタリアではチョコレートやジェラートが人気であり、これらと甘納豆を組み合わせた新商品のアイデアを思いつきました。このアイデアから、カカオ豆の砂糖漬けという新しい商品が生まれました。新商品の開発を通じて、カカオを取り入れたモダンな甘納豆が注目されました。メディアでの取り上げが増え、特に若い顧客層からの購入が増加しました。これは新しい試みの成果を実感できる結果でした。
SHUKA(種菓)の革命:甘納豆から種のお菓子への進化
カカオと甘納豆のコラボ商品は一定の成功を収め、手応えを感じていましたが、同時にその限界も感じ、さらなる革新を求めて「SHUKA(種菓)」という新ブランドを立ち上げました。2022年秋にスタートしたこの専門店では、種を主原料とするお菓子を中心に展開しています。
甘納豆の伝統的なルーツを継承しながら、SHUKAでは砂糖漬けの技法を用い、カカオやピスタチオなどの種類豊富な種やナッツを取り入れています。従来の甘納豆は柔らかい食感が特徴でしたが、SHUKAでは食感を残す方向で製品を開発しています。各種類の種ごとの独自の食感や形状を活かし、新しい味わいを創出しています。
この新しいアプローチは伝統的な甘納豆の定義から外れているため、先代からは「そんなのは甘納豆じゃない」との指摘を受けることもあります。しかし、種の食感の面白さを追求し、SHUKAは甘納豆の概念を再定義し、新しい可能性の扉を開いています。
SHUKAとして新しい市場への挑戦
SHUKAでは新しい商品の開発に着手し、新たな顧客層の獲得に向けて、まずはブランド認知を高め、製品を手に取ってもらうことが必要でした。
そのために、クラウドファンディングやテストマーケティングを実施し、イベント出展や試食会を通じて市場の反応を探り、伝統的な甘納豆ビジネスと新事業の両立を目指しました。しかし、その両立は難しいと判断し、思い切って「SHUKA」への全力投資を決意しました。そして、初年度の経営においては、約95%のリソースをSHUKAへと大胆にシフトしました。
この変化は大きなリスクを伴いました。経営上の不安や懸念はあったものの、1年間をかけて新しいお菓子の開発とブランド構築に注力しました。そして、イベント出展や試食会の開催などを通じて市場の反応を探りました。そうしたプロセスを経て、お客様の直接の反応を見てスタートを切りました。そのため、感覚的ではありますが、新しい事業に成功する自信を持っていました。
第2回は、伝統の味の再解釈とイタリアへの挑戦、甘納豆から種のお菓子への進化についてお送りしました。
第3回は、SHUKAの店舗コンセプトや価格設定の考え方、種の気持ちになるお店についてお送りします。