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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、飲食業界では知らない人がいないという、株式会社トレタの代表取締役、中村仁さんです。ある著名飲食店チェーンの社長が、「これは革命だよ」と言ったトレタのサービスとはどんなものなのか。また、中村さんが見据える飲食業界の未来などについてお聞きしました。
中村さんのお話をご紹介する1回目は、中村さんのトレタ創業までのお話です。そこにはさまざまな苦労と長い時間がありました。
この記事の目次
- トレタの飲食店向けITサービスとは
- トレタは飲食業界で静かに広がっている
- きっかけは予約管理業務で感じていた不便から
- 「Twitterで予約受け付けます」の裏側
- もう自分で作るしかない
- トレタのサービスの徹底的なユーザー配慮
- コロナ禍を生き抜くためには
トレタの飲食店向けITサービスとは
株式会社トレタは2013年創業の、飲食店向けのITサービスを提供している会社です。代表的なサービスが「トレタ」という予約台帳サービスです。飲食店では従来、紙の台帳を使って、人力で予約を受け管理していましたが、トレタを利用すると、iPadのアプリとクラウドを通じて、人の手を使わずに予約を受けて管理できる上に、顧客管理もできるようになります。
創業以来、できるだけ多くの飲食店の予約管理をオンライン化しようと頑張ってきました。おかげさまで、トレタはそれなりに普及しましたが、コロナ禍で飲食業界は大きな影響を受けました。うちも大変なことになって、一時期は生き残れるか不安になるくらいでした。それでも、このコロナ禍は、飲食業界が大きく変わるきっかけになるだろうと考え、僕らはさらにサービス範囲を広げて、店内での注文や会計のIT化から、予約電話をAIで受けるサービスなども手掛け始めています。
トレタは飲食業界で静かに広がっている
IT予約台帳であるトレタはいま、1万弱ぐらいの飲食店に使われています。国内の飲食店は30万から50万店、その中で、予約を受け付ける業態は10万店くらいあるとされています。その10万店のうち、紙台帳ではなくトレタのようなツールを使い始めているのが3~4万店くらいで、トレタを使っている飲食店は1万店弱ですから、トレタのシェアは3分の1くらいになります。
飲食店の予約は、有名どころでは、食べログなどからもできるようになりました。うちにとって食べログは一部競合する相手ですが、僕は、一緒にやった方がお客さんにとってより便利になると思い、協業を呼び掛けています。でも警戒されて、いまはちょっと競合視されていますね。
きっかけは予約管理業務で感じていた不便から
飲食店のオンライン予約サービスは、2010年、アメリカからOpenTableというサービスが入ってきました。僕は当時、豚しゃぶしゃぶの飲食店を経営していたのですが、当時のOpenTableはパソコンのキーボードを叩いて利用するサービスでした。
アメリカはキーボード文化が浸透しているので、飲食店にもOpenTableを扱える人が多かったのでしょうが、日本の飲食店でキーボードを扱える人がそんなにいるとは思えませんでした。
OpenTableのサービスを見て、これが日本で普及する姿はちょっと想像できないと思いました。ただ僕は、経営する店で、人件費削減の意味もあって、ずっと受付に立ち、予約の電話を受け、予約管理もしていましたから、予約管理業務には不便を感じていて、もっとリソースを使わないようにできないかと考えていました。さらにそれを強烈に感じたのは、Twitterによる飲食店予約を受け付け始めてからです。
「Twitterで予約受け付けます」の裏側
僕の店は日本で初めて、Twitterによる飲食店予約受付を始めた店です。始めたのはTwitterが日本国内で盛り上がり始めた頃で、受付を始めると、僕のTwitterアカウントにたくさんの予約が来るようになりました。
「Twitterで予約ができる」というと進化したようにみえるかもしれませんが、それは間違いです。Twitterで予約が入れば、僕が自分で、その予約日時が空いているかを確認して返答するという、人力の予約管理に過ぎませんでした。
外に出ているときに予約が入れば、店に電話をして、その予約が可能かを確認します。表向きは進んでいるように見えても、僕自身が、ずっと裏で、人力のコンシェルジェをしていただけなのです。
もう自分で作るしかない
飲食店が、Twitterなどのネットで予約を受け付けるようになると、24時間365日、予約が可能になったように見えますが、飲食店側が、人力と紙で予約管理をしているのなら、実態は何も変わりません。僕はTwitterで予約を受け付けてみて、人力コンシェルジュは無理だ、クラウドで管理できるようにしたいと痛烈に感じました。それが2009年頃だったのですが、オンライン化をするためのいいツールはなく、アメリカのOpenTableも違うと思いました。
それなら自分で作るしかないとなったのですが、当時はまだクラウドもiPadのようなデバイスも普及していませんでした。結局、自分で作るのは3回くらい断念しています。でも、2012年頃になると、クラウドが当たり前に使えるようになって、スマホもiPadも普及し始めました。多くの人がスマホやタブレットを使うようになり、使う側のリテラシーも上がりました。この環境ならいけそうだと、本格的にツールを作り始めたのが2012年頃です。
トレタのサービスの徹底的なユーザー配慮
予約台帳サービスをアプリで作ったのは、世界でもうちが初めてだと思います。予約台帳サービスは、シンプルに見えてなかなか複雑なプロダクトです。お客さんの個人情報を扱いますから安全性の高さが求められますし、サービスがダウンすると、その時間に来た予約が取れなくなるだけでなく、営業中の飲食店に、予約の確認ができないなどの迷惑が掛かります。サービスは絶対にダウンしないものでなければなりません。
何より大事なのが、UI(ユーザーインターフェース=使い勝手の良さ)とUX(ユーザーエクスペリエンス=顧客体験)です。飲食店という現場で使ってもらうためには、相当使いやすくなければ使ってくれませんし、使ってよかったと思えるものでなければなりません。ですからUIとUXは相当作り込んで、だれもがトレーニングなしに直感的に使えて、使いやすいと思えるものになっています。
トレタでもっとも特徴的なのは、タブレットに慣れていない人でも安心して使えるよう、データを削除する機能がそもそもないところです。慣れていない人が一番怖がるのは、自分が触って大切なデータを消してしまうことです。トレタではデータは非表示になるだけで、絶対に削除されない仕様になっています。絶対に間違えてはいけない操作は、非常に面倒な手続きを踏むようになっていて、絶対に間違えない仕組みになっています。
トレタは、オンライン予約だけでなく、電話で予約を受けることにも対応しています。予約の電話が来ると、アプリが勝手に立ち上がり、会話を録音してくれます。お客さんとのやり取りが録音データで残るので、予約管理に間違いがないか、いつでも確認できます。要するに、トレタのサービスは、紙台帳よりもアプリを使った方が、便利で安心になるよう、きめ細かく作り込んでいったということです。
コロナ禍を生き抜くためには…
コロナ禍の影響は、飲食業界の中でも濃淡があり、ファーストフードはそれほどひどくはありませんでしたが、私たちが関わる予約を受け付ける業態の店は、まさに爆心地ともいえる状態でした。影響はうちの会社にも及び、売上も落ちましたし、人もどんどん辞めました。出口はなかなか見えず、かなりつらい時期が続きました。うちのサービスを解約するところも次々出ましたし、新規の獲得もできない。
社内の雰囲気はどんどん悪くなり、希望をなくしていく感じでした。そんなコロナ禍にあって、僕は、「短期的には辛いけど長期的には追い風になる、それに向けて準備をしよう」と、社員に伝え続けました。果たして、コロナ禍が長引く中で、飲食店の人は、「もう固定費を削らなきゃ生き残れない」「人間じゃなく機械が運営できる店にしないといけない」と言うようになりました。飲食業界のIT化の時計の針は、コロナによって、5年から10年くらい早まったのです。
コロナ前の飲食業界は人手不足が深刻でした。人をどう集めるか、どう採用するかというところが課題だったのですが、それがコロナで一気に逆転し、いかに人を減らすか、機械化するかというところが課題になっています。今回のお話はここまでです。中村さんの作ったトレタは普及しつつありますが、それまでにはかなりの苦労がありました。次回、そのお話をご紹介します。