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お店ラジオ 2023/08/30 2024/03/14

努力と工夫により、価格を抑え、競争力を維持

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、食を通じて社会に貢献することを企業哲学に掲げ、総合和食店「和食さと」や寿司屋「長次郎」、「かつや」など和食を中心に様々な業態の飲食店などを展開するSRSホールディングス株式会社 代表取締役執行役員社長  重里政彦さんです。

大阪法善寺に開業した「法善寺すし半」から、チェーン展開を目指して洋食屋チェーンへ、そして、再び和食総合店へと業態を変え、細やかで繊細な改善を重ねることで、他社に真似できない店舗運営を確立し、海外まで展開している独自の手法について3回にわたりお伝えします。

第1回は、すし半の創業や細やかな業務改善、強みを活かす食べ放題のサービスについてお送りします。

 

この記事の目次

 

大阪「法善寺すし半」の創業から洋食店へ業態転換、そして再び和食業界へ

SRSホールディングス株式会社は、「和食さと」という和食ファミリーレストランや「宮本むなし」という定食屋などを運営しています。

創業は1958年で、父親が始めた大阪の法善寺の8坪9席の小さな和食屋が原点です。

寿司と鍋料理を低価格で提供するこの店は、「働く人たちのための鍋屋」というコンセプトで始まりました。この低価格での提供が評判となり、大行列ができるほどの人気店となりました。その後、「すし半」という大き目のお店を尼崎はじめとして展開していきました。

一方、その後の展開としては、和食ビジネスは職人の技が必要であり、特に板前の育成は難易度が高く、和食のチェーン展開は難しいと考えるようになりました。

さらにその頃には、スカイラークやロイヤルホストなどの洋食チェーンが増えていて、これから会社を大きくするためには、和食に比べて洋食の方が展開しやすいと判断し、洋食をやることに決めたようです。そして、1978年に兵庫県加古川市で、洋食屋の第1号店を開業し、その後100店舗を超えるまで成長しました。

洋食屋を展開していくうちに、次は、ガストなど低価格路線のお店が増え、この戦いには勝てないという判断から、我々の原点でもあり、元々の強みである和食に戻ることにしたのです。その頃にはいろいろな技術も進んでいましたので、職人に頼らなくてもチェーン展開ができると判断したようです。

そして、1985年には、「和食さと」の原型となる和食第1号店を奈良県橿原市で開店し、その後洋食業態を諦め、思い切って全店を和食に変えていきました。

 

機械化による職人に依存しない業務体制の構築

再び和食のビジネスを始める頃には、うどんを茹でる機械など、さまざまな調理工程を自動化する機械が登場していました。

また、食品会社で食材の一次加工まで行ってくれるようになっていた上、自社工場でも調理の一部を事前に完了する体制をつくることに成功したため、職人の手を借りずパートタイムのスタッフでも調理作業ができるようになりました。

ただ、和食は多種多様な食材を使用するため、在庫も多くなります。

天ぷら、刺身、寿司、うどん、蕎麦、鍋物など料理ごとに必要な食材が違うため、在庫管理が複雑になります。さらに、これらの食材を保存するためには大きな冷凍庫がいくつも必要にもなります。

機械化が進んだとはいえ、そんな他の業態に比べると手のかかる和食で、現在なぜ低価格で商品を提供できているのか。

その理由としては、これまでキッチンでの業務をシステム化することで人件費を抑え、生産性を向上させてきたことや、我々が運営する約200店舗の大量の注文により、仕入れにおけるボリュームディスカウントを働かせていることが挙げられます。

我々は、こうした努力と工夫により、価格を抑え、競争力を維持しています。

 

スタッフが楽しく働ける環境づくりが事業継続の秘訣

和食業界は、調理を担当する職人の確保や育成の難しさ、キッチン等に大きな設備投資を要するなどの課題があり、新規参入のハードルが高いと言えるかもしれません。

そのため、現在は、和食総合店への新規参入はほとんど見られないように思います。新規参入の難しい和食業界で、長い期間改善を重ねてきたことが、我々の強みでもあります。

我々自身、かなり仕組み化を進めているものの、それでもリーダーが一つ一つの作業を丁寧にスタッフに教えていく必要があります。だからこそ、その過程を可能な限り簡単にしてミスを防ぐことが重要で、そのためには分かりやすいマニュアルを作成し、必要に応じて継続的に改善していくことが大切だと思っています。

また、ベテランスタッフの退職は店舗に大きな影響があるため、長期間働いていただけるような環境づくりも重要です。我々は福利厚生として、スタッフが家族で食事に来店した際には、全メニューが半額となるような制度を設けていますし、長期勤務やリーダーに対する昇給・手当も設けています。

従業員の定着率を上げることが飲食業界にとって重要な課題であり、我々はスタッフが楽しく働ける環境づくりに常に努めています。

 

和食総合店の強みを活かした食べ放題「さとしゃぶ」

我々のビジネスには、専門店との競争があります。専門店は、食材数や作業工程が総合店に比べて少なく、効率的に運営が可能であることから、価格競争力を持っています。そのため、専門店との競争は非常に厳しいと言えます。

だからこそ、私は入社して以降、「総合店として何ができるのか、私たちの価値をどのようにお客様に伝えるか、そしてお客様にどう喜んでいくただくか」を模索しています。

私が入社した当時、店舗経営を研究するために、さまざまなお店を視察しました。その中で、焼肉の食べ放題がとても人気だったことを今でも鮮明に覚えています。

子供たちが好きなだけ食べられることは、親としても幸せを感じられ、食べ放題はご家族にとって大変魅力的なサービスです。そこで、我々も何か食べ放題で提供できないかを検討したのです。

我々総合店の強みは、しゃぶしゃぶの食べ放題を提供しながらも、唐揚げや寿司など多種多様なメニューを同時に提供できることであり、我々の強みを活かした独自のしゃぶしゃぶ食べ放題を提供できると考え、和食さとで新たに「さとしゃぶ」のサービスを開始しました。

 

食べ放題は1人平均1.2キログラム

食べ放題を導入すると、食べる量も人によって異なるため、現場での料理のコントロールが難しくなります。

そこで、我々は全店舗への導入前に試験運用を行いました。これが多店舗展開しているメリットの一つでもあります。

試験運用は、200店舗中のうち10店舗でスタートしました。その際、同じメニューを1,980円と2,380円の2つの価格で、別のお店で提供したのです。すると、1,980円の価格設定の店舗には行列ができました。

そうした試験運用を2、3ヶ月続け、どちらの価格設定がお店にとってメリットがあるのかを検討し、最終的には1,980円の価格でサービスを始めることに決めました

興味深いことに、1人のお客様が食べる量のデータを全店舗で取り続けると、ほぼ全店舗で同様の結果となりました。もちろん、500グラムしか食べない人もいれば、1.5キロや2キロ食べる人もいましたが、お客様が食べる量の平均は、どのお店でも約1.2キロなのです。

我々も原価コントロールをする必要がありますので、お客様が喜んで食べていただける量の1.2キロの構成をどう作るかを考えなければなりません。

メニューの構成や配置、メニューの位置といった細部までを考慮し、適切なメニューの組み合わせを提供することにより、お客様が満足しつつ、原価のコントロールも可能になります。このような分析や改善を積み重ねて、食べ放題でも、しっかりとした利益を確保できるようになりました。

第1回は、すし半の創業や細やかな業務改善、強みを活かす食べ放題のサービスについてお送りしました。

第2回は、職人の育成や天丼を身近に感じてもらうための戦略と業務改善についてお送りします。

執筆 アキナイラボ 編集部

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