about
「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、食を通じて社会に貢献することを企業哲学に掲げ、総合和食店「和食さと」や寿司屋「長次郎」、「かつや」など和食を中心に様々な業態の飲食店などを展開するSRSホールディングス株式会社 代表取締役執行役員社長 重里政彦さんです。
大阪法善寺に開業した「法善寺すし半」から、チェーン展開を目指して洋食屋チェーンへ、そして、再び和食総合店へと業態を変え、細やかで繊細な改善を重ねることで、他社に真似できない店舗運営を確立し、海外まで展開している独自の手法について3回にわたりお伝えします。
第1回は、すし半の創業や細やかな業務改善、強みを活かす食べ放題のサービスについてお送りしました。
第2回は、職人の育成や天丼を身近に感じてもらうための戦略と業務改善についてお送りしました。
第3回は、飲食店のDXや新規業態開発、M&Aの事例などについてお送りします。
この記事の目次
「変わらなければならない」という意識が推進する改善
かつて私たちはハンディを使って料理の注文を受け付けていましたが、これは、特に忙しい時間帯において、フロアスタッフにとって大きな負担となっていました。
そこで、我々は総合ファミリーレストランとしておそらく初めてタッチパネルを導入しました。以前は、フロアスタッフが6人いた場合、同時に受けられる注文は最大で6席分でしたが、タッチパネルの導入によりお店の全席からの注文を一度に受けられるようになりました。
しかしその結果、今度はキッチンが混乱し始めました。特にランチタイムには注文が一気に殺到し、10分以内に料理を提供することが難しくなりました。このため、キッチンとフロアのバランスを再調整する必要が生じました。
そこで、私たちはキッチンの工程を改善するために、機械導入も進めました。これはいわゆる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の一環でした。このようなシステム化の取り組みにより、キッチンの運営がスムーズになり、キッチンとフロアの調和を保つことが容易になりました。
そういった意味では、ある箇所に負荷をかけることで、「変わらなければならない」という意識が高まると考えていています。そして、この変化を通じて、それまで「投資が必要だから避けていた」という固定観念が見直され、必要な改善が推進されるようになると思います。
プロジェクトチームとDXによる業務改善
我々はプロジェクトチームを作り、業務の改善に取り組んでいます。
このチームでは、どんなに些細な作業であっても、その工程やサービスを見直し、改善方法を議論しており、このような改善のための体制が、我々が絶えず進化を続けるための鍵となっていると思います。
例えば、我々はシフト管理にもDXを導入しています。過去数年の売上データをもとに、特定の月の特定の土曜日がどの程度忙しくなるかといったレベルまで予測し、システムが必要なシフトを自動計算します。この自動化がなければ、需要の少ない時期にもかかわらず、スタッフが過剰に配置されてしまう可能性がありますし、特に人件費は大きな経費であるため、無駄な人員配置はコスト増大につながります。
チームではこうした課題を一つ一つ検討し改善を進めています。
機械導入による業務の改善は、人件費だけでなく、採用やスタッフ教育のコストも削減しますし、和食は他の飲食業種に比べて手間がかかる作業が多いため、機械やシステムを使って業務を効率化することは大きなメリットとなると考えています。
しかし、全店舗に機械設備を導入するとなると、投資額は億単位に上りますので、チームは単なる改善だけでなく、「5年回収」というような指標を設けながら採算を考えたり、会社全体を視野に入れながら、改善を行っています。
新業態の立ち上げとM&Aの両輪の戦略
現在、私たちはM&A、海外展開、FC事業なども進めています。
その一つとして「かつや」というブランドが挙げられます。「かつや」はもともと我々が始めたブランドではありません。このように既に成功している企業・業態との提携も積極的に進めているのです。
私が入社した時期は、新業態もなかなか開発が難しい時期で、「これからは専門店の時代だ」と考えていました。その矢先、専門店「かつや」が関西地区での 店舗拡大に難航しており、彼らは関西地区のビジネスパートナーを探していていることを知りました。
そして、我々としても「成功している専門店業態を一度学んでみよう。それは次の展開に生かしていくためにも必要だろう」という意図があり、関西地区でのフランチャイジーとしての役割を引き受けました。これが、「かつや」ビジネスを展開するきっかけでした。
私は、M&Aについても「時間を買う行為」と捉えています。新業態をゼロから立ち上げるのは容易ではありませんし、一つの事業が成功しても、次の事業も同様に成功するという保証はありません。実際、過去の成功体験が新たな挑戦の足かせになることもあり得ます。そこで我々は、自社で新業態を創り出す一方で、M&Aなどを通じて既存の成功事業を取り込むという両輪の戦略をとっています。
唐揚げ「鶏笑」の買収はビジネスチャンス
先日、我々は「鶏笑」という唐揚げ専門店を買収しました。
「鶏笑」は個人経営のテイクアウト専門店で、全国に200以上のフランチャイズ店舗を展開していました。それをわずか4、5人で運営していたことから、さらなる拡大は難しいと判断されていました。その一方で、我々が惣菜やデリバリーといった中食市場への参入を検討していた時期と重なったため、「鶏笑」をM&Aすることを決定しました。
しかし、唐揚げ専門店が一時的なブームである可能性があり、そしてすでに多数の企業が参入しているという事実も理解していました。市場が一旦縮小し、ブームが一段落する可能性も考えられます。しかし、私は唐揚げが日本人にとって欠かせない食材であり、適切な戦略を立てることで、マーケットは存続すると考えています。
我々は、商品を自分たちで試食し、その上で判断を下します。「鶏笑」の唐揚げは非常にベーシックで、ご飯にもビールにもよく合います。我々が、これまで「鶏笑」ができなかった部分を補うことで、自然淘汰の流れの中で生き残り、さらに成長することができると確信しています。
蕎麦は大人向けのビジネス
うどんのチェーン店が現在増加傾向にあるのに対して、蕎麦のチェーン店はほとんど見受けられません。
「富士そば」や「小諸そば」のような店舗が関東を中心に存在しますが、規模としてはうどんチェーン店には及びません。
我々はM&Aにより「家族亭」という主にそばを提供するファミリーレストラン形式の店舗を所有していますが、「専門店」とは言えません。その理由はいくつか存在します。
その一つは供給元の問題です。海外産のそば粉は国際情勢の悪化で安定しない一方、国産のそば粉は価格が高く供給量も限られているという問題があります。その他、アレルギーの問題や、子供がそばをあまり好まないという事実も、蕎麦が広がらない理由として考えられます。
ラーメンやうどんは子供からも受け入れられていますが、そばにはファミリー向けのイメージが乏しいのです。この点から見ると、蕎麦は大人向けのビジネスと言えるでしょう。
日本食ブーム:海外での和食総合店の経営の難しさ
現在、海外で日本食ブームと言われるなか、我々も、台湾、タイ、そしてインドネシアなどでビジネスを展開していますが、海外での運営は非常に難しいです。
我々が展開している和食は総合食のため、多種多様な食材を必要としますが、海外では食材調達が困難という課題があります。
さらに、人材育成も難易度が高く、安定した品質の商品提供に苦労しています。
我々としては、商品数を絞り込み、専門店としてビジネスを展開したいという希望もありますが、現地の消費者ニーズは多種多様な料理を提供する日本食レストランを求めています。
そのため、我々の希望と現地のニーズとの間で一致する点を見つけるのが難しいのです。我々は微細な改善を重ねていく方針ですので、事業が安定するまでには一定の時間が必要となると考えていますが、徐々に改善を重ねていき、海外のお客様にも和食を楽しんでいただきたいと思います。
私は、「お店は社会貢献の実現の場所」であると考えていますので、大人はもちろん、子供や外国の方々など、たくさんの人々が私たちのお店を訪れて楽しんでいただきたいと考えています。その数が多ければ多いほど、私たちは社会に貢献できているのだと思います。