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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
#17 スノーピーク山井会長登場
#18 キャンプの力で日本を元気に!
今回のゲストは、ハイエンドな商品を展開する大人気アウトドアブランド「スノーピーク」の代表取締役会長、山井太さんです。
近ごろブームとなっているキャンプですが、それを牽引してきたと言っても過言ではないスノーピーク。圧倒的な先見の明を持つ山井さんは、一体どのように考えて経営をしてきたのでしょうか。
第1回は、キャンプ事業を始めようと思った理由についてお伺いしました。そこには山井さんの大好きなキャンプに対する「ある不満」が隠されていました。
第2回目の今回は、キャンプブームが過ぎて売上が落ちる中、スノーピークが取り組んだことについてです。
リアルイベントの企画からお客さんへのヒアリング、そこからの改善と、真摯にお客さんに向き合う姿が垣間見えました。
この記事の目次
売上が3年連続で落ちている中、社長になる
1988年におしゃれキャンプの商品をローンチしました。1回目のピークが93年ごろで、そこまでは年率30%くらいで伸びて売上は5年間で5倍になります。
しかし、その後ブームは去り、2000年まで6期くらい連続で売上が下がってしまいました。25.5億円あった売上も、14.5億になってしまいます。僕が社長になったのは96年ごろなので、売上が3年連続で落ちているという恐ろしい状態から僕の社長人生は始まったことになります。
うちは能天気な人が多い会社なのですが、それでも当時はなかなか大変な空気が流れていました。営業の子たちも店舗に商品を置くことを断られ始め、気が滅入っている様子でした。
うちの業界はブームに左右されやすく、「今年はフリースが流行っているから一気に入荷してたくさん売るぞ」「今年はマウンテンバイクだ」などと、その年の流行商品に売り場面積をとられてしまうのです。
今でこそキャンプは根付いていてこれからなくなるということはないと思いますが、当時のキャンプは「ブームの時はすごかったけどもう過ぎ去ったよね」という立ち位置でした。
「会社の存在理由がわからない…」危険な状態を解消するためイベントを企画
営業の子たちからは「社長、スノーピークには社会的な存在理由はあるのでしょうか」という言葉が飛び出すような状態でした。「何を言ってるんだ」とは思ったのですが、実際、存在理由を確認するためにどうすればいいのか考えるようになりました。
そこで思ったのが「やっぱりユーザーさんの顔が見えないとダメなのかな」ということでした。
となるとキャンプのイベントをやるしかない、ということで、1998年の10月にキャンプイベントを開催することになりました。
ブームの時期にはいろんな会社がやっていたキャンプイベントが全国から消え去っていたということもあり、おしゃれキャンプの草分け的な存在であるスノーピークがこの状況を見過していいのか、と社内で盛り上がりを見せました。
内容は、お客さんと我々が一緒にキャンプをするというもので、当日は30組ほどが集まってくれました。
うちのお客さんはベテランのキャンパーが多いので、食事も自分達で作れますし、設営も撤収も全てできます。我々は必要最低限のものを提供しつつ、みんながキャンプをしているところを回っていきました。
そして目玉は、食事が終わった後にみんなで集まって焚き火を囲んで話す焚き火トークです。
ここでお客さんと触れ合いながら、意見を直接聞き出そうと思いました。
お客さんからまさかの不満爆発!
すると、予想外にものすごい量の不満をぶつけられることとなります。30組のお客さんの不満には共通するものが2つありました。
1つ目は、商品の値段が高すぎるということです。それまで僕らは「確かに高いけど妥当だろう」と考えていました。
4人で使えるテントが定価で10万円くらい、割引があって8万円くらいです。1万9,800円のテントでも雨漏りするようなすぐ壊れる代物だったので、長く使えることを考えたらこちらの方が結果的には安いと思っていました。しかし、そこにいた30組のお客さんは、全員がそれでも高すぎると感じていたのです。
2つ目が、スノーピークの商品はここで買えますよ、というリストに載っているお店に行っても商品が売っていないことがある、ということです。
原因はリストの管理がずさんだったことです。
当時、スノーピークの商品が買えるお店は1,000店舗あり、そのうち200店舗は直接取引していたのですが、残りの800店舗は問屋を経由していました。
スノーピークでは全体設計がこだわりなので、魅力をしっかりと伝えるためにも「このくらい商品を置いていたらOK」という基準が設定されています。その基準を満たすお店のリストを問屋が作る際に、基準を満たさないお店がたくさん紛れてしまっていたのです。
これにより、スノーピークの製品を買おうと思っても買えない、という事態が頻発することとなりました。
2つの不満は、僕に大変な衝撃を与えました。これは売上が落ちるのも当たり前だなあと思いましたし、実際に生の声を聞くことの大切さを感じました。
不満の解消のために少しずつ改革!リアルな交流の重要性を痛感
そこからはそれぞれの改善に取り組んでいきました。まず問屋との取引をやめて、1,000店舗あったところから250店舗まで削りました。基本的に1商圏1店舗で、我々が設定した基準を全てクリアしているお店だけです。
きちんと接客がいいところを選び、それぞれに「この商圏の他のお店とは取引を止めるので、正規特約店になってくれますか」とセールスをかけていきました。
スノーピークがオートキャンプのリーダーだという業界内のコンセンサスがあったということもあり、基本的には全てのお店がOKしてくれました。
次に、元々定価10万円だったテントの値段を5万9,800円にしました。これは問屋さんに払う分のマージンがなくなったから実現できたことです。
これならお客さんからしても納得感があります。1万9,800円のテントを見た後、スノーピークのテントを見ると「永久保証もあってかっこよくていい感じだなあ。これで5万9,800円ならいいかも」となったというわけです。
これらの改革を1年間かけて進めていきました。
キャンプイベントがなければこの動きもそもそもなかった訳なので、以降はイベントも定期的に行い、コミュニティも作ってお客さんと交流することを大事にしています。
役員は全員参戦!イベントで問題を発見し、軌道修正を図る
いまイベントは年に15回くらいやっていて、社員は2、30人くらいが参加します。中でも役員のような会社の意思決定に関わる人は全て行くことになっています。
お客さんとの関わりを通じて、我々がうまくユーザーを幸せにできているかを確認していくのですが、問題を発見した時に意思決定をする人たちがその場にいると問題の共有が簡単なのです。
このようにコミュニティがあると問題を発見するのがすごく早くなります。
サービスを新しくリリースした際も、何か間違いがあるとすぐにお客さんからメッセージが大量に届いたり、自分のSNSが炎上したりするのですぐに「これはダメだったか」ということがわかります。
こちらは1年以上をかけて万全の状態だと思ってリリースしているので、批判を受けるときついものがありますが、お客さんを幸せにできていないのが明白だと分かればしっかりと受け止めるようにします。
例えば、この間ユーザー別の優遇措置の変更を打ち出したらクレームが大量に来る事態になってしまったことがありました。社内でもさまざまな意見が出たのですが、最終的には僕の名前で次の日には「我々が間違っていました。もう一度考え直します」というメッセージを出しました。
間違うこともあるのですが、軌道修正は世界で一番早い会社なんじゃないかなと思っています。
今回のお話はここまでです。次回は、売上が落ちる中、スノーピークが取り組んだことについて詳しくお聞きしていきます。