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お店ラジオ 2024/01/18 2024/03/14

究極の販売戦略『最後の一品』

about

「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、バングラデシュの支援のため、バングラデシュへ赴きジュールを使ったバッグを製造。「途上国」と一括りにされた場所にも、可能性があることを証明したいという想いから、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」 という理念を掲げ、2006年に創業。現在では、6つの生産国と3つの販売国にまで事業を拡大し、社会課題の解決のためのモノづくりとそれを支える経済活動の2軸で事業を展開する株式会社マザーハウス 代表取締役 副社長 山崎大祐さんです。

途上国の支援のためバングラデシュのジュールでバッグを製作。販売するため2006年に創業。初期には活動を支援するコアなファンに支えられ事業を展開し、活動を支えるための売上10億円を目指す「Road to 10」ビジョンにより、事業を拡大し現在では国内外に、理念と利益の両立により40店舗以上のお店を展開するまでの独自の戦略について、3回に分けてお話しいただきます。

第1回は、バングラデシュでのバッグづくり、直営店の出店、お客様に思いを伝える店づくりなどについてお送りしました。
第2回は、ホームランを打つためのアプローチ、コスト構造やセールをしない販売戦略などについてお送りしました。
第3回は、売れ残りを出さない「最後の一品」戦略、売上目標10億円、理念と利益などについてお送りします。

 

この記事の目次

 

売れ残りを出さない商品戦略「最後の一品」

私たちの会社では、「最後の1品店」という店舗を運営しています。ある商品のほとんどの在庫が売れたとしても、最後は全店にその商品が配布できなくなり、数個の商品が余ってしまいます。私たちはそうした余った商品を、「最後の一品」として売るお店を作りました。ただし、このお店ではセールではなく正規の値段で商品を販売しています。お店では商品が残り3点以下になると、「もう最後で、再生産はしません」と告知し、「最後の1品タグ」と小さなギフトを付けてお渡ししています。

こうすることで、その商品に希少性が生まれ、セールを行わなくても商品が普通に売れていきます。自分たちが作った商品が最後の一つまで売れるということは、本当に気持ちが良いものです。

 

10店舗までの道は「死の谷、魔の山」

私たちは小さな店舗からスタートし、少しずつ店舗を増やしてきました。しかし、4、5店舗から10店舗へと拡大する過程は最も困難な時期でした。また、複数の店舗を運営し拡大しようとしている会社でも、この段階で挫折してしまうことが多いため、私はこの時期を「死の谷、魔の山」と呼んでいました。

自分たちで複数の店舗を運営してみて感じたのは、直接マネジメントできるのは4店舗くらいまでで、それ以上店舗を増やそうとすると運営体制を変える必要があるということです。しかし、私たちが事業を継続し、ブランドや会社として成長していくためには、最低でも10店舗が必要でした。

私たちは製品作りに力を注いでいる会社であり、大きな投資も必要です。そのため、一定の売上がなければ会社として成り立たないのです。まず、店舗の固定費だけでなく、製品の改良も必要になりますから、それらをカバーできるだけの売上を確保しなければなりません。これらを計算すると、10数店舗が必要であり、1店舗ずつ丁寧に出店していくだけの余裕もありませんでした。しかし、一気に10店舗を出店するには、在庫管理や店舗運営、スタッフ管理など、組織としての体制を一つずつ整える必要があり、これは大変な作業でした。

 

10億円の売上への挑戦「Road to 10」

私たちの会社では、当時給料が低かったにもかかわらず、スタッフは熱意を持って働いてくれていました。しかし、その状態は長くは続きません。私はそうした状況を改善し、スタッフに適切な給料を支払うためには10〜15店舗は必要だと考えました

その目標を達成するために、私は「Road to 10」というプランを立てました。これは、「売上10億円への道」という意味で、売上が2〜3億円程度の時に策定しましたが、実際に10億円の売上を達成するためには10数店舗の運営が必要で、お店を増やしていく必要がありました。10億円の売上が達成できれば、スタッフの給料や働き方などを改善させることができます。

そのために、私はプランをスタッフに説明したのですが、忙しい中でさらに店舗を増やすこと対して反対の声も上がりました。それに対して、私たちは毎月の店長会で議論を重ね、絶対に達成できると信じて伝え続けた結果、店舗を増やすことになり4年間で10億円の売上を達成することができました。

 

10億円への道:理念と利益の両立

私たちの会社の理念は、途上国を良くするということであり、スタッフはその理念に共感して働いてくれています。しかし、売上10億円という資本主義的な目標を立てた場合、スタッフには会社の理念に反すると受け取られる可能性がありましたので、私はスタッフに対して2つのビジョンを示しました。

 

1つは、会社の理念と目的を達成するためのビジョンです。

途上国を支援するブランドとして成長するためには、一定の規模にならなければ多くのお客様に良質な商品を提供することは難しくなります。そうでなければ、会社も維持できませんし、支援する国を増やすこともできません。私たちは会社の理念に基づく活動を行なっていくということと、それをしっかりと利益を上げることで継続させていくというビジョンを示しました。

2つ目は、スタッフの給与と働きやすさに関するビジョンです。

どんなに社会課題に対する思いが強くても、自分の働き方に満足していなければ、長続きはしません。そのために必要なのが10億円の売上であり、10億円という売上目標は、目的達成のための手段であると説明しました。

そして、私たちは山口がソーシャルな部分を担当し、そのための資金調達を私が担当するという二軸の体制で事業を行なっていくことを明確に示しました。一般的には、社会企業家はビジョン優先というイメージがありますが、私たちの場合は資本主義の中でもやっていける体制ができているからこそ、ビジネスを大きくすることができたのだと思います

 

売上向上のための戦略転換

私たちの会社は、初期の4年間は卸売も行っていましたが、現在はほとんど行っていません。卸売を辞めた理由は主に2つあります。

1つは、卸売では最終的なエンドユーザー、つまり、お客様まで私たちの思いが届きません。また、商品の陳列方法なども自分たちコントロールできないため、私たちのブランドを愛してくれるお客様からは、商品の取り扱いについてクレームが寄せられました。このままでは、ブランドイメージを作ることができないと感じたのが理由の1つです。

2つ目の理由は、単純に商品が売れなかったためです。先ほども言ったように、卸売の場合は私たちの想いがお客様に届きづらく、想いが伝わらないと私たちの商品は売れませんでした。

このような理由から、自分たちで直接思いを伝えられる自社の店舗で商品を販売することにしました。結果、卸売よりも、自社の1店舗で商品を販売した方が、圧倒的に売上が伸びたため、私たちは卸売を辞める決断をしました。

 

出店地域の選定

出店地域を決める際は、その地域を歩いている人々の目的や、歩くスピード、視線などが重要だと考えていて、出店を計画している地域で徹底的に調査します。そして、出店が決まったら、入口付近は大規模な改修を行います。例えば、本店では壁があった場所を壊し、ドアを作るなどして間口を変えました。また、東銀座の店舗ではウィンドウを壊して入口を作りました。

お店の前を歩いている人の目的やスピード、視線などを考慮し、視認性が高められる改修を行わなければお客様はお店に入ってはくれません。歩いている人々に店舗に入ってもらうためには、まず興味を持ってもらう必要があるのです。

私たちはお店の視認性を意識していて、マーケティングについては店舗を中心に考えています。良い場所に店舗を出すことで話題になり、店舗自体が強力なメディアとなります。そのため、私は店舗をメディアと捉えています。例えば、インターネットで大量のトラフィックを獲得しようと思うと、多額の広告費が必要になります。しかし、店舗の前を通る人々は1日に何万人もいますので、お店こそ最大の広告だと思います。

 

店は「聖地」

私にとっての店舗とは「聖地」です。私たちのストーリーにとっての聖地は2つあり、「工場」と「店舗」です。工場は商品が生まれる聖地で、店舗はお客様とのドラマが生まれる聖地です。私は心から店舗を愛しており、スタッフも同様にお店を愛してくれていると思っています。

 

執筆 横山 聡

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