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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、「本流の逆をいく独自の戦略」で海外展開を目指す、株式会社せーの 代表取締役の石川さんです。
「面白いことで世界を惹きつけるブランド経営」についてお送りします。
第1回は、「ヴァンキッシュ」の立ち上げ背景と、“かっこいいより面白い”を追求するマーケティング戦略についてお伺いしました。
第2回は、「ECで簡単に買えないから生まれる価値」についてお伺いしました。
第3回は、「ブランドを消費させないブランド戦略」についてお伺いします。
この記事の目次
手に入りにくいものに興味を持つ人間の特性を利用した販売戦略
FR2ゴルフは、私がゴルフを始めたので自分で着るために作ったんです。でも、どうせやるなら売れた方がいいと思って、マーケットを研究しました。我々はゴルフブランドの中では後発ですから、後発の立場でどうやって市場に参入していくかを考えました。マーケットを調べたら、大体8対2でおじさんと若い女の子だということがわかりました。
そこで、FR2は若い女の子に認知されていることを考慮し、若い女の子たちにFR2ゴルフを着ることがステータスの向上につながると思ってもらえるようなプロモーションを展開することで売れると考えました。商品自体は、インスタで公開していますが、購入サイトは一般公開せず、30人のVIPに対してのみパスワードを配布しました。
この戦略は成功し、社長さんたちが商品を購入して女の子にプレゼントを始めました。この販売戦略を約半年間続けたところ、商品の写真がSNSなどに上がり始めフォロワーが増えていきました。
ある日フォロワーが1万人に到達したので、一度フォロワー限定で売ってみようということで24時間限定で販売したところ、数時間で全ての在庫がなくなったのです。これで、「いける」と確信しました。
結局のところ、多くの人は手に入りにくいものに興味を持ちます。また、おじさんたちは普段若い女性に洋服を褒められることが少ないため、FR2の商品を手に入れることで女性たちからの評価が変わることに期待しています。今は月に1度販売していますが、1分ほどで全て売り切れてしまいます。手に入れられないものが魅力的でフックになっているということですね。
現代は誰でも簡単に多くのものを手に入れられます。しかし、皆がフォロワーを増やしたいと強く思い、できるだけ多くの商品を売りたいと考えている中で逆のアプローチを取ることにより、多くの商品が売れるという現象が起きるのです。売らないし広げない、隠して隠して月に1度の販売で、売りたいお店の方よりも売るという戦略です。
供給過多はブランドを消費する
コロナ前まではお店の売り上げの70%~80%が外国の方からの売り上げでしたので、どんどん商品を作って売っても大丈夫だと考えていました。しかし、コロナにより売り上げが100%日本人にシフトしたことで、同じように売り続けるとブランドが消費され、価値が下がってしまうと考え、販売をセーブしていました。
現在ではコロナが落ち着き再び外国人客をターゲットに戻し始めましたので、免税額や免税客数をもとに作る量を決めるようになりました。外国人客が増えていることがわかり、これまでより多く作っても大丈夫だと判断しています。飽きさせないためには供給過多にならないようにすることが重要です。
ゴルフ関連の商品については、海外のフォロワーを増やすための戦略を考えています。現在、海外でゴルフイベントを毎月開催しており、海外の有名人を呼んでプロモーションをしています。この戦略により、海外のフォロワーもかなり増えています。
有名人を使ったプロモーションをするようになったきっかけは偶然でした。ある日、中国人のお客さんが店に押し寄せ、一瞬でFR2のお店の在庫がなくなった日がありました。どうしたのかと思ったところ、中国の有名女優であるファン・ビンビンさんが空港でうちの服を着ていたことで話題になりました。我々は彼女を知りませんでしたが、それがバズったようでした。今は、BLACKPINKのジェニーちゃんが張り付いてくれています。
我々は本当にインフルエンサーマーケティングをやらないことがポリシーで今まできているので、一切やりません。広告的にやってもらったのと、好きでプライベートで着てくれるのとでは、影響力がまったく違うと思うのです。
FR2ブランドだからできること
バズらせるようなプロダクトを投入する際の発注量や在庫の管理、損を出さない方法や機会損失を出さない方法については、やってみなければ分からない部分が大きく、最初は少量で試すことが一つの方法です。
例えば最初に50枚だけ作ってみて、それが一瞬で売れた場合、次は100枚、さらに次は200枚にしてみるといったように、過去のデータを蓄積しながら適切な発注量を算出していきます。しかし、最初は小規模にスタートしつつ、バズっているのに在庫が間に合わないリードタイムや、その他の問題に対処することが重要です。その点、うちのビジネスは基本的にプリントビジネスであり、通常のアパレルと違ってリードタイムをかなり短くすることができます。
また、FR2ブランドは面白いことを続けているので、お客さんが信頼してくださっていて、実際に製品がなくても画像データだけでオーダーしてくださいます。これは普通の洋服屋さんが簡単に真似できることではなく、長期的な信頼とブランドの積み重ねがあってできることだと思います。普通の洋服屋さんは製品を作って写真を撮ってから商品を出すのが一般的ですが、うちのビジネスは物がなくても注文が入るという仕組みができています。
その信頼関係を活かして、チャリティー活動なども行っています。
例えば、シドニーの山火事でコアラがたくさん死んだ時、その日の夜にチャリティーのTシャツを発売しました。オーダーを受け付けたのは1日だけだったのにもかかわらず、約1,200万円も集まってすぐに寄付することができました。これは、信頼があるからこそできることだと思っています。このような信頼関係を築いていくことは、ビジネスにおいて非常に重要な要素であり、今後もさらに価値を高めていくことができると思います。
世界展開については、本来は2020年から一気に世界展開を計画していたのですが、新型コロナウイルスの影響で計画がストップしてしまいました。ですが、今後は再び世界戦略に力を入れて、FR2ブランドでさらに攻めていきたいと考えています。
さらに、ゴルフラインと同じような販売方法で、祭りのマーケットやFRフィッシングといった新しいコンセプトも展開していく予定です。釣りもゴルフと同様に、月に1回しか販売しないという限定性を持たせることで、魅力を高めていく戦略です。釣り、スポーツ、eスポーツ、ダンスなど、様々な分野に展開していくことでブランドの幅を広げ、さらに多くの人々に興味を持ってもらえるようになると思いますし、これらの取り組みにより、FR2ブランドは今後も継続的な成長ができると考えています。
お店とは、ブランドの世界観を伝えるための場所
我々はブランドですから、お店はブランドの世界観を伝えるための場所であると考えています。お店はお客さんにとっての入口になります。また、外国の方に商品を売るきっかけとなる場所です。外国の方に買ってもらうには、実店舗が必要なのです。ネット上で日本ブランドが頑張っていても、海外市場でのD to Cがうまくいかなければ、商品を知ってもらうことも、購入してもらうこともできません。我々が原宿を選んだのは、外国の方が買い物に来る場所であるからです。
我々の世界観を伝えるには空間が必要だと考えています。そこでの体験や経験も含め、空間が必要であると考えてブランドを展開しています。空間がなければ、私たちの世界観を伝えることはできないと思っています。
最後に、フランクミュラーとFR2のコラボレーションによる時計が全世界で発売されたことは、日本のブランドとして初めてのことであり、私たちが自分たちを信じて貫いた結果だと思っています。
「自分たちを信じて想いを貫くと、こうなるんだ」という証明ができてよかったと思っています。