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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、「本流の逆をいく独自の戦略」で海外展開を目指す、株式会社せーの 代表取締役の石川さんです。
「面白いことで世界を惹きつけるブランド経営」についてお送りします。
第1回は、「ヴァンキッシュ」の立ち上げ背景と、“かっこいいより面白い”を追求するマーケティング戦略についてお伺いしました。
第2回は、ECで簡単に買えないから生まれる価値についてお伺いします。
この記事の目次
ネットで買うのが日常になった今、ネットで買えないモノの価値がある?
私は2010年頃から海外に行くようになり、世界中で売れるものを作りたいと考えるようになりました。その頃から写真をコンセプトにしたブランドを立ち上げようと思っていました。
現代は、カメラだけでなく多くの人がスマートフォンでも写真を撮り、SNSなどにアップしています。それは世界でも同じで、世界中の人たちの間で写真を使ったコミュニケーションが広がっていると思ったのです。そして、写真で目を引く要素を持つ商品を作れば良いのではないかと考えるようになりました。そこで生まれたのが、「FR2」というブランドです。
FR2は2014年からスタートし、現在、130カ国で販売しています。しかし、基本的にはECを全くやらないコンセプトにしています。私がヴァンキッシュを始めた2004年当時はまだECが普及しておらず、携帯電話もまだガラケーで、ZOZOTOWNも上手くいくはずがないと言われていました。その当時は私とZOZOTOWNの前澤さんだけが、ガラケーの小さな画面で商品が売れると信じていました。
私が売れると感じていたのは、渋谷でギャルがガラケーで商品をガンガン買っているのを見ていたからで、将来はこれが絶対にスタンダードになると思っていました。
しかし、ファッション業界の人たちは試着もできないのに売れるわけないと考えて、ECに取り組みませんでした。大手のセレクトショップでさえ、本格的にECに取り組むのは2013年ぐらいからでした。
ネットショップが始まった頃は、買った洋服が家に届くことが楽しかったのですが、今ではネットで買うのが日常になりました。そんな今だからこそ、逆にネットで買えないものの方が人々にとって魅力的に感じてもらえると考えています。
二次流通も味方に!世界中で勝手に販売される仕組み
コロナ前には、世界中の観光地にお店を出店する計画がありました。現在、国内では原宿、名古屋、大阪、福岡、沖縄に通常のFR2のラインがあり、お土産屋さんのラインが原宿、伊勢、金沢、京都、沖縄にあります。観光地向けのお店の商品は一切ECで買えないというのが特徴です。コロナ前の計画では、シンガポールのマーライオン像の横や、中国の万里の長城の入口に出す予定でした。
観光名所にお店を作ってECをやらない、しかしSNSを使って世界中に告知はできます。ブランド認知は上げるけれども、ECをやらないことによって、観光地に行った人が友達に頼まれてお土産としてFR2の商品を買いに行くという状況が生まれます。そして、頼まれた人も「帰ったら買えないのであれば、自分も買っておこう」と思い、自分用も購入し2つになります。それが広がっていくと、お土産物の希少性に地元の子たちも気づくようになります。
例えばパリにいるフランス人が「ネットで買えない」という話を聞いて、二次流通で自分がネットで商品を売るようになります。各国のインフラを使って、実質的に営業マンが生まれることになります。私たちは上代でしか売りませんので、地元の人たちは上代より高く売ってくれることになります。
しかし、一般的には二次流通で勝手に販売されるとメーカーに収入はありませんし、価格の調整はアパレルメーカーやブランドマネージャーとして重要なポイントではあると思いますが、我々としては問題ないと考えています。なぜなら、我々はあくまでも商品を上代で販売するだけで、セールをしなくても良い状況が生まれるからです。しかし、コロナにより海外でのお土産店のプランは一時中断しています。
怒られそうなことでもとりあえずやってみて、あとから考える
コロナ禍では、世界中の人々の移動が制限されました。我々は「みんなが動けないなら全国に売りに行けば良い」と考えて、2回目の緊急事態宣言時に新しく移動販売の事業を始めたんです。
場所はフォロワーさんから募集し、協力していただいた場所を利用して、とにかく全国各地に販売に行きました。それによってコロナ禍でも多くの人にお越しいただくことができ、売り上げを伸ばすことができました。最近ではコロナ禍の影響も徐々に薄れて外国の方にも来ていただけるようになり、店舗での売り上げもコロナ前の状態に戻ってきています。
また、私は外国の方に商品を売るためには何をすれば良いか、自分が外国人だったら何を求めるのかなどをいつも考えています。例えば、外国の方は英語のかっこいいメッセージよりも、日本語のふざけたデザインを面白がってくれるのではないか、などと考え実践しています。
もちろん、成功ばかりでなく失敗もありましたが、「まずは1回やってみる、そして考える」というスタンスで進めています。危ないものや怒られそうなものも、とりあえずやってみて、後から考えれば良いという姿勢で取り組んでいます。
我々は、アートに近い部分を追求することで独自性や個性が強調され、他のブランドとの違いが明確になっています。現代社会では、オーバーコンプライアンスで縛られることが多く、そういった状況に対するカウンターとして、皮肉や遊び心を取り入れたデザインやアプローチをみんな喜んでくれているのだと思います。
面白いことをやり続けたら勝手に広がっていくマーケティング
ブランドを売り出す時には、何か象徴的なデザインがあった方が跳ねやすいんです。「あのブランドといえばこのプリント」みたいなものを生み出すことは、認知を広げていくうえでは非常に重要で、アイコニックな商品がある方が良いのです。そう考えた時に、世界中の人が知っているものを出していった方が早いんです。
それで何かないかと考えていたんですが、例えば、海外にいくと必ず“smoking kills”の表記がありますが、それをそのままボックスロゴにしたら面白いと思ったんです。“Smoking kills”のTシャツを着ながらタバコを吸っている写真がSNSにアップされるのではないかと考えました。そして、それを見た人はそのギャップを面白がってくれるんじゃないかと思って、実際に出したところ、予想通りの結果になりました。
当時、インスタグラムが広がって行った時に、インフルエンサーマーケティングという言葉が使われ始め、広がりつつありました。インフルエンサーに宣伝してもらうということは、その子たちにお金を払って宣伝してもらうということだと思いますが、私たちはお金を払って誰かに来てもらうことはないんです。
面白いことをやり続けたら世界中のセレブが集まり始めて、それをきっかけに勝手に広がっていったという感じで、それが私たちのマーケティングだと思います。
現代のフォロワーの本当の価値とは
2011年頃のインスタグラムが始まった頃というのはフォロワーを増やすことが簡単でしたが、現在は増やすことが難しくなっています。例えば誰か有名な人とたまたまお会いして、何か書いてくれると一気に何千も増えることが普通にありました。
しかし、今はもうそういったことにもみんな慣れてしまっていますので、そんなに簡単には増えなくなっています。そのため、単純にフォロワー数を増やすことだけを目指すのではなく、本当に面白いことをやって、1人ずつファンを作っていく方が影響力は出てくると思います。
また、フォロワーについても、我々は数より質が大切だと思います。例えばフォロワーが100万人いるよりも、本当のファンが5,000人いた方が売上は上がります。
ですから私が今戦略としてやっていることは、「面白いこと」と「買えない」ことです。商品を買えない仕組みにしておくんです。最近私がゴルフを始めたので、FR2ゴルフという新しいラインを作りましたが、FR2ゴルフはまさに“買えない”戦略で展開しています。
第2回は、「ECで簡単に買えないから生まれる価値」についてお聞きしました。
次回は、「ブランドを消費させないブランド戦略」についてお伺いします。