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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、1937年に米国で創業し、2006年に日本へ進出したクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社に2012年に入社。2014年には副社長に就任し、日本進出以降、店舗が拡大を続ける一方で厳しい経営状況が続いていた中で、丁寧なお客様目線の改革を実施。経営をV字回復に導いた、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン株式会社の代表取締役社長 若月貴子さんです。
クリスピー・クリーム・ドーナツは、1937年に米国で創業し、2006年の日本進出時には一時64店舗まで拡大するも、その後厳しい経営状況が続いていた、若月さんが2012年に入社して以降、コンセプトの見直し、お客様の「JOY」を追求する姿勢、サービススタンダードの徹底、そして強みを活かした商品開発など、丁寧なお客様目線と従業員目線での改革が続けられ、経営はV字回復。この独自の戦略について、3回に分けてお話しいただきます。
第1回は、日本進出と経営危機、そしてコンセプトやサービスの改善など再生戦略についてお送りしました。
第2回は、再生のためのアンケートやキードライバー分析、ブリュレグレイズドの成功についてお送りします。
この記事の目次
小さな成功の積み重ねが改革への道
経営が危機的な状況においては、チーム全体を結束させ、共通の目標に向かわせることが必要不可欠です。そのために、共通の信念や価値観を持ち、一歩一歩、小さな成功を積み上げていくことが大切です。
これにより、スタッフのモチベーションが向上し、本社と店舗間のコミュニケーションも円滑になります。私自身、会社全体の改革をどのように進めるか考えた際、現場の力を強化することが鍵だと感じ、各店舗のサービス向上を最優先に取り組みました。
しかし、本社から「再建の取り組みを進めよう」と指示があり、「正しい挨拶を心がけよう」と指示されても、「今さら挨拶にこだわるの?」という声もありました。そうした声に応える形で、私たちはデジタルツールの導入も同時に進めました。
改革を内部から推進するため、店舗の業務効率化と、きめ細かなコミュニケーションを両輪とする方針を採りました。業務の効率化のため、新しいデジタル技術を取り入れ、さらに、スタッフ教育の質を向上させる動画コンテンツも作成しました。
アンケートにより顧客意見をリアルタイムに収集
トレーニングについては、新しいトレーニングサービスを導入しました。
通常、動画トレーニングは受動的な学びのスタイルであり、模範を示す動画を視聴するだけですが、私たちが選択した新しいサービスでは、動画を視聴した後、スタッフ自身がその内容を模倣し、その動画をアップロードすると、トレーニング担当や店舗のマネージャーから具体的なフィードバックがもらえる仕組みでした。
さらに、お客様の意見やフィードバックを直接収集するための新しい方法として、アンケートツールを導入しました。100%の完成度を目指すのは難しいため、まずは、80%の完成度を目標とするツールを選びました。過去には、ミステリーショッパーという方法で顧客サービスや店舗の雰囲気を評価していましたが、それをレシートアンケートに更新しました。
この新しいアンケートは、顧客が直接スマートフォンで回答する形式です。ミステリーショッパーのアプローチも良い仕組みではあるのですが、評価結果が1ヶ月以上後に返されるものでしたので、迅速に結果を受け取り、直ちに改善に取り組める仕組みが望ましいと考え、リアルタイムで回答が確認できるレシートアンケートを採用しました。
キードライバーを明らかにし、顧客満足度を向上させる
顧客の評価やフィードバックは、事業の成長にとって非常に重要な要素です。
当社の分析結果から、「店員の親しみやすさ」は顧客の満足度を大きく左右するキーとなる要素、すなわちキードライバーであることが明らかになりました。それは接客サービスのスタンダード、例えば「笑顔での接客」や「心からの歓迎」などの基本的なサービス要素を徹底的に分析することによって明らかとなりました。
この評価が高い店舗では、顧客が再来店する確率が高まり、結果的に売上向上にもつながることが確認されています。顧客が、ただ単に商品を購入し店を出るだけでなく、スタッフと良好なコミュニケーションを持つことが、再来店の決め手となることが多いのです。
スタッフからの積極的なコミュニケーション、例えば「おすすめ商品の紹介」や「新しいサービスを試してみませんか?」といったアプローチが、顧客との関係性を強化する鍵となります。これにより、顧客は個人として認識され、特別に扱われていると感じることができるのです。
レシートアンケートを通じた具体的な顧客のフィードバック、例えば「店員の挨拶がなかった」といった声などを真摯に受け止め、それを基にサービス改善の方向性を設定することで、顧客との関係をさらに深化させることができます。
強みや特徴を活かした独自性の追求
競合他社との差別化を図るためには、自社の強みや特徴を明確にし、それを最大限に生かす商品開発とブランディングが必要です。例えば、「食べログ」などのサービスで満足度が5の評価を付けた人が、最も高く評価しているところを分析し、強化します。この方法で、5の評価を受けやすくなります。
一方で、評価が低い部分の改善は必要ですが、どれだけ改善しても満足度は意外に上がらないのです。例えば、「食べログ」というサービスで、5の評価を付けた人のコメントを参考にして、評価の理由となったポイントを磨いていった方が、総合満足度の平均スコアが上がる可能性が高いのです。
2015年に多くの店舗を閉店させた頃、コンビニエンスストアでドーナツが販売され始めました。そして、ある調査会社が私たち商品と他のドーナツ、そしてコンビニのドーナツの甘さと生地の軽さなどを基準に分布図を作成しました。結果、大手ドーナツチェーンが中心に位置し、コンビニのドーナツがその周りに配置され、当社のドーナツは「甘くて軽い」という評価で、極端な位置に配置されました。
この結果を見た瞬間、私たちが「大手ドーナツチェーンなどがマッピングされている中央に寄っていったらダメだ」と思いました。中心は一般的な消費者の嗜好を示しており、そこをターゲットとして同じアプローチをすると、競合他社との競争に勝てないと感じたのです。
だとしたら、この「甘くて軽い」という評価を、当社の商品が持っている特徴や強みであると考えないと、マスで戦っても勝てないと考えました。
「ブリュレグレイズド」の成功例
私たちは、当社の商品の特長をどのように伝えればよいのかを考え、2016年に「ブリュレグレイズド」という商品を日本で開発、販売しましたが、「ブリュレグレイズド」の成功は、当社の独自性を最大限に活かした商品開発の結果であると言えます。
消費者の求める新しい食感や甘さのバランス、そして伝統的な「オリジナルグレーズド」の良さを保ちつつも新しい要素を加えることで、独自の商品価値を築くことができました。
また、ハロウィンやクリスマス、干支をテーマにした商品の強化は、季節感や文化を取り入れることで、消費者とのつながりを強化する戦略として非常に効果的でした。これにより、特定の時期やイベントに合わせて消費者が当社の商品を求めるようになり、定期的な売上の機会を創出することができました。
最終的に、これらの商品開発やブランディング活動を通じて、当社は他のドーナツ店との差別化を図るとともに、消費者のニーズに応える商品ラインナップを築き上げることができました。そして、それが売上回復の大きな要因となりました。
この成功例から学べることは、単に市場のトレンドを追うだけでなく、自社の強みや独自性を最大限に活かす商品開発やブランディング戦略が、長期的な成功に繋がるということです。これを基に、今後も当社は独自の価値を提供する商品やサービスを開発し続けることで、持続的な成長を目指していきたいと考えています。
第2回は、再生のためのアンケートやキードライバー分析、ブリュレグレイズドの成功についてお送りしました。
第3回は、店舗の縮小戦略、販売チャネル、筋肉質な組織づくりについてお送りします。