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お店ラジオ 2023/10/03 2024/03/14

食材に投資するという考え方で事業を展開する

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、「紅虎餃子房」「韮菜万頭」「万豚記」などの飲食店の他、宿泊施設の経営や食料品、衣料品、日用品雑貨の卸、輸出入および小売店など全国で300店舗以上運営し、さらに飲食店に関する企画、商品開発ならびにコンサルタント業務など多岐にわたる業務を手がける際コーポレーション 代表取締役会長兼社長 中島 武さんです。

1990年、投資の世界から未経験の飲食業に参入し、「際コーポレーション」を設立、「ニラ餃子」や「黒酢の酢豚」など独創的なアイディアで次々とヒット商品を生み出した秘訣や、「食材に投資」「原価を追求しない」「出店に立地は関係ない」など中島社長の経営哲学について、3回にわたりお伝えします。

第1回は、会社設立の経緯と創業時の失敗、新しい商品の開発などについてお送りします。

第2回は、棒餃子の誕生から商業施設への出店や、原価を追わない経営哲学などについてお送りします。

第3回は、成長のための考え方「立地戦略」や「食材に投資するという考え方」などについてお送りします。

 

この記事の目次

 

改善のためには普通以上の努力が必要

私は、お店を改善したいのであれば、他のお店を数多く見て、現在流行しているお店のどこが優れているのかを理解することが必要だと考えています。

具体的には、最低でも100軒のお店を訪れるよう指導してします。もちろん、実際に100軒回るのは大変かもしれませんが、10軒も回れば、流行しているお店の魅力がだんだんと見えてくるようになると思います。

そして、さらに多くの情報を収集して、そのお店以上の改善や工夫をすれば良いのです。平凡な方法では変化を生むのは難しいと思います。普通にやっていれば、普通の結果しか得られません。たとえ10軒でもお店を回って、その中で、サービスや商品、レシピ、価格、内装など、自分の店との違いを少しずつ探っていくことが必要です。

その中で、何よりも重要なのは商品です。どの業態であっても、1つの目玉商品があればお客様は訪れます。お客様に欲しいと思っていただける商品を限界まで突き詰めて作り上げ、提供するのです。何を試してもうまくいかない場合には、これが最も効果的なアプローチだと思います。

 

お客さんの目線に合わせ「黒毛和牛」から「大衆焼肉ホルモン」へ

私は以前、焼肉屋で失敗したことがありました。私たちの店は、高品質な黒毛和牛を提供して、それをPRするために、外側の看板に「黒毛和牛」と書いたのです。しかし、お客様が来ないのです。そこでお客様が来ない理由を深く考えたところ、一般のお客様には「黒毛和牛=高価」というイメージがあることに気がつきました。

そして、看板の表示を「黒毛和牛」から「大衆焼肉ホルモン」に変更したのです。その結果、お客様の来店が増え始めました。また、何も期待せずに入った「大衆焼肉ホルモン」のお客様に「こんなに良い肉を提供しているのか」と驚いていただけるようになりました。

店内で安価な黒毛和牛を提供していても、看板に「黒毛和牛」と書いてしまうと、ホルモンを楽しむ客層が入店することはないのです。逆に、ハードルを下げることで、一度入店していただければ、お店の魅力を知ってもらい再度来店していただけるようになるのです。

私はこの経験を通じて、自店の品質への自負心よりも、お客さんの目線や期待を理解することの大切さを痛感しました。

 

お店に立地は関係ない:立地に合った魅力のあるお店づくり

お店の経営が上手くいかない時や新規出店を検討する際には、多くの方が「立地」の重要性を強調されます。しかし、私自身は、実際には立地にこだわらない方が良いと思っています。
例えば、駅前でこだわった料理店を出しても、お客さんは来ないと思います。なぜなら、駅前は安価なチェーン店の需要が高い地域だからです。

駅前のマクドナルドや吉野家が並んでいる通りに、個人経営のお店があっても、続けていくことは非常に難しいと思います。こだわりのある個人店は、一等地よりも少し離れた場所、お客様がわざわざ足を運ぶ価値を感じるような立地の方が良いと思います。

そういった意味では、立地自体にこだわるよりも、お客様が特別な体験や価値を得るために来店する意欲を引き出すことが重要です。山の中にあるレストランであっても、その場所ならではの価値や体験を提供すれば、多くの客が集まることが実証されています。

今は地方で人気のレストランにわざわざ遠方から足を運ぶこと自体が「達成感」をもたらす時代です。人々は「遠くまで足を運んでここに来た」ということに達成感や満足感を感じるのです。ですから、遠方であっても魅力的な要素を持つ店舗であれば成功することは可能です。

 

立地を逆手に取る、日々の努力が成功の鍵

駅前の一等地に、個人店に適した立地や物件はほとんどありません。家賃は高いですし、そもそも物件の情報が個人店には回ってこないと思います。

では、駅から離れた場所はどうか。立地の悪さを逆手に取ることが求められます。立地が悪い分、家賃が安くなる可能性があります。低家賃の利点を生かして価格を抑えたり、サービスを向上させたりといったアプローチが考えられます。立地に対するアイデアや工夫次第で成功の道は開けるのです。

私には、親交の深いある女将さんがいますが、彼女はメディア露出や取材は受けず、名前も出しません。それでも、彼女の経営するお店は非常に人気があります。

そのお店は地下にあり、価格帯は2万円ほどですが、料理においては気前が良く、また女将さんの人柄や料理の質が評価されています。

しかし、最初から順風満帆であったわけではなく、過去には家賃の支払いに苦労し、アルバイトまで掛け持ちしながらお店を切り盛りしたと言います。現在でも、日曜日にはお店のことを見に行く姿勢を崩さないそうです。こうした姿勢が成功を築く大切な要因です。

 

食材に投資するという考え方

これまでのお話からも分かる通り、私たちは「食材に投資する」という考え方で事業を展開しています。食材に投資し、そこからお客様を呼び込み、ボリュームディスカウントで利益を回収するのです。

多くの場合、設備や内装への投資が重視されており、食材へ投資するという考え方はあまり一般的ではないかもしれません。飲食店のオーナーには、お店の造りにお金をかけて、見栄を張りたくなる傾向があるのかもしれません。「自分の店はこういうお店だ」と自慢したいのだろうと思います。

しかし、私たちは食材に最初に投資することで、後々の経営がスムーズになると考えています。私自身も過去に300店舗、400店舗と経営してきましたが、今では見栄を張ることよりも、それらが飲食店経営に大切な要素だと気づきました。

内装については、そういった考え方の下、「見栄を張る」のではなく「センスのいいもの」を作れるように工夫しています。

例えば、最近私も新しいお店をオープンしましたが、その内装はすべてグレーに統一しています。このグレーの内装には2つの意味が込められていて、一つ目は、国境を超えて異なる色を排除するためのものです。アメリカなら派手な色、赤であれば中国といった国のイメージを排除するためにグレーに統一しています。これはボーダレスな雰囲気を醸し出すためです。

もう一つの意味は、昔のニューヨークのSOHOをイメージしています。かつてSOHOはアメリカの不良たちが集まった場所で、そのエリアはレンガで作られていました。しかし、60年から70年代以降、SOHOエリアはコンクリートで固められた都市の一角となっていきました。その変遷をお店の内装に取り入れ、昔のSOHOの雰囲気を再現しています。

 

お店は居場所、色はアート

私にとってお店とは「居場所」です。お店は私が最も愛する場所であり、キッチンやリビング、寝室のように私の生活の一部なのです。お店を自分の居場所とし、そこでさまざまな人々とのつながりを築いていきます。お店にいることで、商品開発のアイデアも生まれてきますし、そこで思いついたアイデアをそのまま行動に移すスピード感も得ることができます。

 

さらに、私は食をアートと捉えています。そのような視点で取り組むことで素敵なお店をつくることができると考えています。

この考え方はお店にお金をかけることとは異なり、センスの問題です。居抜きの物件であったとしても、アーティストに絵を描いてもらって飾るだけで、お店の雰囲気が良くなります。

独自のエスプリや特別な雰囲気を持ち、美味しい料理を提供することで、流行するお店が作れると考えています。

 

執筆 横山 聡

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