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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、農林水産省、外資系コンサルティング会社、そして、長野県白馬村で働くため白馬村でスキー場を運営する日本スキー場開発株式会社へ転職。「世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート」を目指した食やアクティビティなどにより、2万人程度であった夏の観光客を10倍まで増やした株式会社岩岳リゾート 代表取締役社長 和田寛さんです。
農林水産省へ入省後、外資系コンサルティング会社でビジネスを学び、白馬村へ。THE CITY BAKERY 白馬の誘致やドイツ発祥のアクティビティであるマウンテンカートの導入、地域の強みや資源を活かすことで、夏の白馬の価値を創造し「世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート」を目指す戦略について、3回にわたりお伝えします。
第1回は、白馬村への転職、地域の強みを活かしたの食の誘致、世界水準のリゾート戦略についてお送りしました。
第2回は、V字回復のきっかけとなったヤッホースイング、投資戦略、地域の隠れた資源の活用についてお送りします。
この記事の目次
世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート」の実現に向けての取り組み
我々は白馬を「世界水準のオールシーズンマウンテンリゾート」として、持続的な地域活性化を実現したいと考えています。そのためには、お客様にリピートしていただける魅力的なリゾートである必要があります。1度だけの訪問で終わるようなリゾートでは、地域にとって経済的な利益が得られません。
「オールシーズン」は、冬だけでなく、1年を通じた事業展開を意味します。白馬の多くの施設は、建設から30~40年が経過しており、老朽化が進行中です。これらの施設をアップデートしていくためには、オールシーズンで収益を安定化させ、設備投資に耐えられるキャッシュフローを生んでいく必要があります。
そういった取り組みの1つとして、小規模な民宿の再生に努めています。例えば、20室程度の家族経営の民宿を、所有者から部分的にリースし、国内外の訪問者が快適に滞在できるように改装しています。これまでに4件の施設の改装を行い、新たにレストランも開設しました。
食事に関しては、全てのレストランを一元化し、宿泊施設も含めて統一的なオーペレーションで管理しています。これにより、予約管理は効率的に行え、清掃もチームを組んで効率よく行うことができるようになっています。
V字回復と継続のための新しい取り組み「ヤッホースイング」
コロナ禍が明け、業績がV字で回復している事業と、回復していない事業があります。スキー場はホッケースティックのような急回復になっていて、私が入社した時、冬は12万人、夏は2万人の来場者でしたが、去年のシーズンでは冬が13万人、夏は20万人を超えました。
ちなみに、2018年にベーカリーを開設した翌年には、夏の来場者数が冬を超えました。
我々は夏の来場者を増やすため、他にもいくつか新しい取り組みを行いました。
その1つが、「ヤッホースイング」です。昔使っていたリフトの終点が平らになっていたのを利用して、大きなブランコを絶景の場所に設置することにしました。
私は、1回1,000円の料金を提案しましたが、反対意見が多く、最終的に500円でスタートすることになりました。しかし、絶景の中のブランコは1,000円以上の体験価値があると私は思っています。
こうした新しい取り組みを行っていく中で、SNSなどの口コミで一時的にお客さんが増えることもあります。
地元や長野の人々に来てもらい、良い評価をSNSで発信してもらうことで、初めのうちは来場者数が増えますが、リピーターを増やすためには、こういった新しい価値の創出に継続的に取り組んでいくことが大切であり、さらなる工夫が必要だと考えています。
私たちは、最初、派手な看板を店頭に掲げていました。派手な看板があれば店が注目を浴びます。我々の真似をして派手な看板を使って成功を収めている企業もあります。
しかし、看板に派手な絵を描くことに関して、最初は良いのですが、いつまでも同じアプローチを続けることは望ましくありません。成熟すれば新しいアプローチや戦略を考える必要があると思います。
私の友人が以前「中島さんのお店は見世物小屋のようだね」と言ったことがあります。
この一言には響くところがありました。成功したら、派手な見世物小屋のような集客をするのではなくて、良質な商品を生み出し、店をシンプルに保つことで成長していかなければならないと感じました。
お客さんも最初は興味を持って面白がって来てくれますが、時間がたつにつれてその新鮮さは薄れ、陳腐化していきます。同じことをいつまでもやっていると飽きられてしまうのです。
「ヤッホースイング」の成功〜共感できるものがお客さんを惹きつける〜
2020年の夏、コロナ禍で「ヤッホースイング」というブランコをスタートしましたが、驚くことに、初日から5時間待ちという状況となりました。
多くのお客さんが「ここまで来たのだから、ブランコに乗ってみたい」「ブランコを見てみたい」という気持ちで訪れてくれたのだと思います。そして、ブランコを目指して山に上がってくると、隣におしゃれできれいなカフェがあるのもお客さんにとっては嬉しい驚きなのではないかと思います。
我々の予想以上でしたが、シンプルな仕掛けにもかかわらず、ビジュアルとしてのインパクトが非常に強かったのだろうと思います。多くのお客さんが500円払ってでも体験する価値が十分にあると感じてくれたのだと思います。
ブランコを有料にしたことが良かったと思います。有料にしたことで、専属のスタッフを配置することができるようになりました。このブランコは以前のリフトの終点であり、前方には崖が広がっているため、無人では危険なのです。
もしも、無料・無人にした場合には、完全に柵で囲むことになり、写真を撮影したときに景色が楽しめなくなります。そのため、有料にして、専門のスタッフを配置し、お客さんにはハーネスを付けてもらうことで、安全にかつ美しい景色を楽しんでもらえるような工夫をしたのです。
そうすることによって、ブランコに乗るお客さんの没入感が増し、より白馬の美しい景色を楽しんでいただけるようになり、去年だけで年間3万人の方にご利用いただくことができました。
斬新なアイディアは一時的には魅力的に思えるかもしれませんが、お客さんに共感していただけるもの、イメージが湧くものを提供しないと、繰り返し足を運んでくれることはないと思います。
持続的な成長のために必要な再投資戦略
我々は、ブランコから得た収益を次の魅力的な施設の開発や改善に再投資できるようになりました。しかし、日本の観光地の多くは、サービスの低価格化、無料化が最大の魅力と捉えていることが多いように思います。
その場合、次の投資への資金確保が難しく、長期的な成長が期待できないばかりか、訪問者が次回に訪れる動機を失う可能性も考えられます。訪問者が次回も新しい体験が待っていることを期待できるよう、毎年新しいサービスやアトラクションを提供することが重要なのです。
私たちは、ディズニーランドやUSJといった大手テーマパークを参考にしています。これらの施設は季節ごとの新しいアトラクションやイベントを提供し、その価値を料金に反映させることで、収益の再投資が行われ、継続的な成長を支えています。
我々もこの戦略を採用して、観光地としての魅力を維持・向上させ、競争力を維持することを目指しています。
地域の隠れた資源(hidden asset)の活用
大学卒業後、私は農林水産省で働き、その後ベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社に転職しました。そこでは、コンサルタントとして、多くの企業のビジネスフレームワークの構築を支援してきました。
この仕事で学んだのは、”hidden asset”(隠れた資産)の発掘とその有効活用の重要性です。新ビジネスを開始する際に、ゼロから構築していくのではなく、既存の未活用の資産を効果的に利用することで、成功の可能性は大きく高まっていくのです。
この考え方は、企業のビジネスだけでなく、地域振興にも適用できると感じています。地域に眠る資産を整理し、モノ、ノウハウ、ヒトの3つのカテゴリで捉え直すことが重要です。特に、モノとして考えると、我々の地域には岩岳山頂という絶景ポイントがあり、これは未活用の大きな魅力となるアセットです。
さらに、ノウハウの側面では、40年以上のスキー場運営経験から得た、雪中でのレストラン運営技術や知識があります。これは、白馬に新規進出したいと考えている事業者にとって大きなメリットとなり、厳しい冬の中でもビジネスをスムーズに運営できる要因となっています。
第2回は、V字回復のきっかけとなったヤッホースイング、投資戦略、地域の隠れた資源の活用についてお送りしました
第3回は、「人」が資源、オリジナルの価値の創出、地域外との事業者との連携についてお送りします。