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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、東京都羽村市のよろず屋「福島屋」を引き継ぎ、こだわりのお店づくりと徹底したお客様ファーストで小売店やお菓子屋など11店舗を経営する、株式会社 福島屋会長の福島 徹さんです。
2代目として事業を引き継ぎ、仕入れから仕事を覚え、「福島屋」ブランドを確立するまでの徹底したお店づくり戦略について3回に分けてお送りします。
第1回は、よろず屋を引き継いだ苦労から福島屋オリジナルのスタイルを確立するまでをお送りしました。
第2回は、福島屋独自の仕入、販売方法からオリジナル商品の製造のきっかけまでをお送りします。
この記事の目次
大量仕入れ大量販売ではない“福島屋”のスタイル
私たち“福島屋”の知名度は高くありませんので、まだ私たちのブランドが浸透していない地域で店を出す際には、定着するまで時間がかかります。
例えば、六本木店では地域に定着するまでに約1年半かかりましたし、品川店では2年かかりました。
早期に黒字化するためにはマーケティングが必要ですが、私たちはマーケティングを得意としていません。黒字化を目指すために特売イベントで大量販売などをすると、ナショナルブランドの商品が中心になり、かつ大量の在庫を抱えるリスクが高まります。
また、大手メーカーの商品を特売にせず、私たち自身の“福島屋ブランド”の醤油を広告で宣伝したとしても、オリジナルブランドであり比較対象がありませんから、その価格が高いのか安いのかはお客様で判断がつかず、宣伝量相応の販売効果があるわけではありません。
そのためマーケティング効果は限定的になりますので、私たちは派手なマーケティングなどではなく、独自のスタイルで地域にブランドを根付かせていきたいと思っています。
「テイスティングマーケット」:お客様を巻き込む無駄のない商品づくり
私たちは、醤油や野菜、肉などの商品を展開する際、「テイスティングマーケット」を行っています。デリカを提供し、それがお客様に美味しいと感じていただけたら、そのデリカに使用されている醤油や野菜などを購入していただくという形です。
そのため、鮮度の高い野菜をその日のうちに売り切ることを目指し、余った場合には新鮮なうちにお新香にしたり、煮物に使ったりとデリカの商品に変えて野菜を回転させます。また、お弁当に使用される調味料も店内で販売し、お客様が商品に対して一体感を感じていただけるお店づくりを大切にしています。
ただし、美味しい料理を提供するだけですぐに顧客が集まるわけではありませんので、料理教室を開催するなどして商品の魅力を直接伝える企画も行い、お客様が商品に対する深い理解と興味を持っていただけるような取り組みを行っています。
生産者と消費者を繋ぐ、ダイレクト仕入れの取り組み
一般的に、仕入れは市場からが主流です。私たちも、魚については大部分を豊洲市場から仕入れています。
市場以外のルートとしては、生産者からの直接仕入れです。肉などはほぼ全てを牧場から直接仕入れています。これにより、私たちのお店では新鮮で高品質な商品を提供することが可能となっています。
生産者の方々は自分たちが作った肉や野菜がどのように利用され、どのように食べられているかを知りたがっています。
しかし、通常の流通経路では、生産者は自分たちが作ったものがどこに行き、誰が食べているのかを知ることはできません。
そこで私たちはオリジナルブランドを通じて、生産者と消費者を直接つなぐ取り組みを進めてきました。小規模なお店ではありますが、この取り組みを地道に続け、取扱量を徐々に増やしてきました。
生産者ファーストで協力体制を構築
生産者との信頼関係を築くには時間と努力が必要です。職人気質の人は簡単には取引に応じてくれませんので、私たちからこちらの考え方を丁寧に説明し理解していただいたうえで、協力してくださいとお願いするしかありません。
仕入れ値も生産者の言うとおりにしますし、前払いにも応じますといった提案をしながら交渉を進めました。
生産者とコミュニケーションを積極的に取ることで、信頼関係が徐々に築かれてきました。同じ志を持つ方々とは、製造方法や消費者の情報などを共有することでより深い結びつきが生まれ、同時に私たちの大きなやりがいとなっています。
私たちと生産者には信頼関係ができていますので、「生産過剰で売れ残ってしまった」と生産者が困っている時には、私たちが店舗を持っているという強みを活かし、可能な限り支援しています。
私たちは努力次第では商品を売り切る自信もあり、その力を使って生産者を販売面からもサポートすることができていると思います。
果物本来の美味しさを消費者に伝える努力
生産者との関係性を表す一例として、りんご農家との取り組みがあります。
私たちは、葉摘みを行わない自然農法で育てられたりんごを取り扱っていますが、この方法ではりんごが日光に十分に当たらず、果実の一部が赤くならないという問題があります。
一般的には、りんごは均一に赤くならなければ品質が低いと見なされますから、一部が赤くないりんごを見ると消費者は品質が劣ると誤解し、購入を躊躇することがあります。
この課題を解決するため、私たちは消費者にこの自然農法で育てられたりんごの美味しさを伝える営業努力をしています。実際にりんごを食べ、その良さを自分たちで確認したうえで、消費者に試食を提供し、その美味しさを伝えます。
さらに、これらがサラダに合うりんごであることや、ジュースとして楽しめることなど、具体的なアドバイスも加えて、お客様にお勧めしています。
私たちが感じた感覚、皮をむいたときの感触、切ったときのシャリシャリ感、味の柔らかさなどをお客様に細かくお伝えし、さらにその感想を書いた人の名前を明記します。そうすることで、お客様との信頼関係を築き、共感を得られるようにも努めています。
欲しいものがないから作るというシンプルな発想
私たちがさまざまな商品を扱っていく中で、より良い商品をお客様に提供したいという思いが次第に強くなっていきました。しかし、市場には私たちのコンセプトに合う商品がなかなか見つかりませんでした。
そして、「あの素材を使ってこんな商品を作りたい」と考えるようになり、私たちが作れる商品は自分たちで作ることに決めました。
最初に取り組んだ商品はパックご飯でした。パックご飯はメインの食事ではなく、足りないときに補うためのものです。高品質なお米を使用すると価格が高くなり売れなくなる恐れがあります。ですから、その当時、美味しいパックご飯を提供しているメーカーはほとんど存在しなかったと思います。
私たちは価格だけでなく、美味しさにこだわったパックご飯の製造を始め、消費者にまずはその美味しさを体感してもらうことを最優先しました。
さらに、マヨネーズも作りました。私たちのマヨネーズは大手企業のものと比べても、品質、味、そしてコストパフォーマンスの全てで勝るものだと自負しています。単に価格だけでなく、価格と品質のバランスを重視した商品で、これまでのマヨネーズとは一線を画すものです。
価格は大手メーカーの物と比べて倍程度ではありますが、提供を始めたらすぐに売れるようになりました。一定量が売れるようになってからは外注に切り替えましたが、最初の段階では私たちが店内で手づくりしていました。