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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、東京都羽村市のよろず屋「福島屋」を引き継ぎ、こだわりのお店づくりと徹底したお客様ファーストで小売店やお菓子屋など11店舗を経営する、株式会社 福島屋会長の福島 徹さんです。
2代目として事業を引き継ぎ、仕入れから仕事を覚え、「福島屋」ブランドを確立するまでの徹底したお店づくり戦略について3回に分けてお送りします。
第1回は、よろず屋を引き継いだ苦労から福島屋オリジナルのスタイルを確立するまでをお送りします。
この記事の目次
東京・羽村から始まったよろず屋
福島屋は、私の両親が東京都羽村市でよろず屋を開業したのが始まりで、徐々に業態を変えながら、今の形に至ります。私がまだ学校に通っていた頃、福島屋は酒販売の許可を得てそこから酒屋を始め、八百屋や食料品店、さらにはスーパーマーケットへと事業範囲を広げていきました。
会社としては、1971年に酒や雑貨などを扱う有限会社 福島屋を創業し、現在は物販店が5店舗、花屋やレストランなどの飲食店、そしてお菓子やケーキの専門店まで含めると、全て小さなお店ですが全体で11店舗になっています。
私が経営を引き継いだ時は、1日の売り上げが5,000円に満たない日もあるような、小さな八百屋でした。その当時は思うように売上も上がらず、本当に厳しい時期でした。
単価の低い野菜を取り扱う八百屋でしたので、5,000円分の商品が売れたとしても、何が売れて在庫が減ったのかを把握することは難しかったのを覚えています。
謙虚すぎる商売人
私が商売を始めた当初は、市場の競りで商品を仕入れていました。
しかし、私には商品知識もノウハウもありませんでしたので、100円で落札した野菜を130円で売ることができるというのが、信じられませんでした。また、価格を見極める必要があるにも関わらず、若輩者の私がそれを担当するという事実にも驚いていました。
そうした経験を通じて私自身も少しずつ成長していきましたが、私から商品を購入してくださるお客様に対しては、常に驚きと共に感謝の念を抱いていました。それどころか、その売上が生活費になるという現実が、商売を始めた頃の私には理解できなかったほどでした。
最初の頃、私は常に「100円で仕入れた商品が、本当に100円の価値があるのだろうか?」「30円の上乗せは果たして許されるのだろうか?」という疑問に悩まされていました。おそらく、私は商売人としては過度に謙虚だったのかもしれません。
何より、お客様が私の商品を購入してくださることに対し、感謝以上に申し訳ないという感情を持っていました。
しかし、売らなければ生計を立てていくことはできず、商品も余ってしまいます。商品が余ってしまったらどうしようという不安や、どうにかしてその日を乗り切らなければならないという状況に何度も直面しました。
そういった経験が私を鍛え、商品の仕入れを真剣に行わせ、売り場を整えさせ、そしてお客様との会話の大切さを実感させてくれました。
お客さまに伝える大切な「売りの言葉」
私が初めて店頭に立った時、学生であった私は非常にシャイで、謙虚すぎる性格も手伝い「いらっしゃいませ」とお客様に挨拶することすらできませんでした。しかし、時間をかけて徐々に慣れていき、お客様との会話が自然にできるようになっていきました。
その過程で、お客様に対しての言葉のかけ方が商品の売れ行きに大きく影響することを実感しました。
例えば、仕入れた椎茸について「香りが良い」、「旨味がある」、「料理がしやすい」などの言葉でお客様に声を掛けると、ある言葉に反応してくださいます。
そして、お客様が「鮮度が良い」という言葉に反応されたのであれば、その日は「鮮度」という言葉で商品を売り出していきます。同様に、「肉厚で旨味が出る」という表現にお客様が反応した場合は、その方向性で売り出すのです。
しかし、お客様が反応される「売りの言葉」を探すのは、10分で決まることもありますし、場合によっては2時間かかることもあります。売上げが振るわない日は、しっくりくる「売りの言葉」を見つけるのに時間がかかる日だと感じています。
そうした体験が、次の日の商品仕入れや売り場づくりに活かされていきました。そして、そのような経験を通じて、私自身も徐々に自信を得ることができたのです。
値付けの重要性と難しさ
野菜の販売においては、値付けが非常に重要であると同時に難しいのです。
例えば、ほうれん草の価格であれば、お客様は「ほうれん草は大体この価格が適正だろう」という感覚を持っています。その基準価格が150円前後であるとすれば、これより安いと「少し安いな」と感じ、200円近くになると「少し高い」と感じます。そして、200円を超えると売れ行きは急速に落ちてしまいます。
ですから、テレビやラジオで「今、野菜が不作でほうれん草が高い」といった情報が出ると、お客様の価格感覚が変動し、価格許容度が上昇します。逆の場合もあります。
仕入れ価格、売り上げ、お客様の価格感覚、商品の数量など様々な要素のバランスを見極めて、例えば「今日は100円で仕入れたので138円で売ろう」という形で価格を決定します。時には200円で仕入れた商品を198円で売らなければならないこともあります。
また、私たちは値付けをする際に「初期値入れ」というものがあります。
例えば、100円で20個仕入れた商品を138円で売り、また、150円で40個仕入れた商品を200円で売るとします。
この20個仕入れた商品と30個仕入れた商品では粗利が異なるため、それらのトータルで1日分の仕入れ分が全て売れた時にいくらになるのかを計算します。その日の仕入れ総数と売価総数に基づき、粗利を15%や20%に設定し、商品ごとの価格を調整します。
特売を行う場合であっても、どれくらい粗利が得られるかという見込みが必要です。このように、非常に多くの変数が関わってくるため、売価設定は難しいのです。
“福島屋”ブランドを目指すための丁寧なお店づくり
私たちのお店では、今ではほぼ一律の価格設定になってきています。これは、過去の経験やイメージがテンプレート化されているからです。
以前は他社スーパーを意識した価格競争などもありました。
他社が「キャベツをいくらで売っているのか」「お醤油はいくらで売っているのか」などを調べて価格競争をしていましたが、それを繰り返すうちに馬鹿馬鹿しく感じてしまいました。
そして価格競争をやめ、特売品は醤油や卵、油などに絞ることにしました。さらに、特売を重ねるうちにそれにも飽きてしまい、特売すらやめることにしました。その代わりに、私たちは自らが見極め、独自の目利きで仕入れた商品を自分たちで、一定の価格で販売する方針に変更しました。
そんな中で、自店のブランドを信頼して買ってもらうことが重要だと考えるようになり、自店で商品を選び、価格をつけ、陳列することで、“福島屋”ブランドをつくり上げるという方向に転換したのです。
そして、今ではお客様に「美味しかったね」と言っていただけるブランドを目指して、独自の商品づくりに取り組んでいます。
価格競争から“福島屋”ブランドの確立へと方向転換した時も、お客様層はそれほど変わりませんでした。私たちの店は羽村で既に40年以上続いており、地域にしっかりと根付いて信頼を得ているからだろうと思います。
それだけに、仕入れる商品の品質や味については常に気をつけています。
特に調理に関しては、同じ人が作り続けるわけではありませんので、一貫した味をどう保つかが重要です。私たちの業態では機械に頼る製造方法が難しい商品が多いですから、その点については常に気を配ってきました。