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お店ラジオ 2024/06/13 2024/06/28

デジタル化とファブレスモデルで挑むオーダースーツ事業

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。

今回のゲストは、2012年に株式会社FABRIC TOKYOの前進となる株式会社ライフスタイルデザインを創業し、2018年現在の株式会社FABRIC TOKYOへ社名変更。都市圏に採寸だけお行うリアル店舗を運営し、PCやスマートフォンなどから注文するというビジネスモデルを構築。洋服をもっと便利で楽しくかっこいい存在にしたいという想いの元、最先端のテクノロジーを駆使した新しい洋服のD2Cブランドを運営する株式会社FABRIC TOKYO 代表取締役 CEO森 雄一郎さんです。

デジタルを活用した新しいカスタムオーダースーツの出発点や潜在ニーズを掘り起こし顕在化する方法、安心感が生まれる購買体験の提供、独自のPR戦略、工場と連携したIT化とファブレスビジネスモデルの展望、顧客ニーズに応じた柔軟な対応と今後のスーツ業界の展望など3回に分けてお送りします。

第1回は、新しいスタイルオーダースーツのスタートや潜在ニーズの掘り起こし方、リアル店舗の必要性などについてお送りしました。

第2回は、リアル店舗の役割や安心感を生む購買体験、プレスリリースとマーケティング戦略、工場との連携などについてお送りしました。

第3回は、ファックスからスタートしたIT化とファブレスモデルの挑戦、効率的な店舗出店戦略などについてお送りします。

 

この記事の目次

 

ファックス業務の効率化からのスタート

創業当時、私たちはファックスを使用していましたが、ファックス業務をデジタル化するためにRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の考え方を取り入れました。まず、従来のファックスをデジタルファックスに切り替え、大量のファックスをすべてPDF化し、先方にメールで送信することから始めました。また、紙で保管していた資料もPDFにして電子ファイルとして整理しました。

ファックスには手書きの部分が多く、手書きデータのデジタル化には時間がかかり、ヒューマンエラーも発生しやすいです。そこで、これらの手書き部分をコンピューターが自動で処理できる仕組みを構築しました。
当時、私たちは10の工場と取引しており、それぞれの工場で受注フォーマットが異なっていましたので、各工場の仕様に合わせた変換が必要で、それぞれに対応したフォーマットを作成しました。

私たちが構築したシステムは、各工場に対して統一のシステムを導入するのではなく、各工場にはそれぞれ異なるシステムを導入しました。システムの基本部分は共通ですが、工場側の最終部分はすべてカスタマイズしました。現在ではこの仕組みは使っておらず、基本的にはすべてのデータをCADデータとして直接工場へ送信し、完全にデジタル化することができています。

私たちは基本的に、自社で工場を持たず協力工場に依頼するファブレスの形で事業を進めています。これは、私たちが工場や縫製業の方々を非常に尊敬しており、ITやマーケティング、ブランド業に特化した私たちが手を出すべきではない領域だと考えているからです。洋服作りが非常に奥深く難しい仕事であると実感しており、専門分野はプロに任せるのが最善であると考えています。

 

ファブレスビジネスモデルの展望と挑戦

このビジネスモデルには広義での競合は存在しますが、基本的にイーコマースを通じてお客様にオーダースーツを提供するという点では、競合はほとんどいません。

このビジネスモデルには多額の初期投資が必要です。ECサイトの開発も通常のサービスを使うことが難しく、独自に開発しなければなりません。
私たちは自社で一から開発を行っており、これまで億単位の投資を行ってきました。また、工場とシステムを連携させるための開発にも多額の費用が必要でした。スーツ量販店や百貨店系の店舗も参入を試みますが、こうした初期費用などのため、多くの企業が挫折しているようです。

また、私たちのビジネスモデルは、マーケティングコストもかなりかかるため、「損益分岐点に到達するまでに数年かかる」という議論もありました。客観的に見ればその通りなのですが、十年間愚直に続けてきたことで、私たちのシステムの優位性が明らかになってきましたし、初期投資のROI(投資利益率)も高まっています。時間はかかるものの、最初は損をして後から得をするというモデルで、利益率は後から上がってきます。

また、赤字事業を継続する意思決定ができたのは、私たちが未上場企業で、ベンチャーキャピタルや事業会社からの資金調達、あるいは銀行からの支援を受けながら、柔軟に動くことができたからだと考えています。

 

多様なニーズに応える店舗運営とスタッフ教育

現在、私たちの店舗は10店舗あり、基本的には採寸だけを行うお店として運営しています。お客様もその認識でご来店されています。しかし、お客様のニーズは様々で、採寸だけして帰られる方もいれば、生地やスタイリングの相談をされる方もいます。
そうした多様なニーズに対しては、来店予約の際にお客様の要望を事前に伺うことで、それぞれに応じたサービスを提供しています。

店舗での接客に関して、私たちはカリスマ店員を作らないよう心がけています。基本的にはスタッフの平準化を目指しており、カリスマ店員には教育を担当させるなど、スタッフ全体のレベル向上を図っています。

一般的なアパレル店舗では、店舗での売上が一つのKPIとなります。しかし、私たちの場合は採寸に特化しているため、そうしたKPIは設定していません。お客様とブランドとの最初の接点は店舗での採寸になるので、来店の体験は重要だと考えています。店舗での良い経験や正確なデータがリピートや顧客単価に大きく影響します。そのため、私たちはリピート率やLTV(顧客生涯価値)をKPIとして設定しています。

興味深いことに、LTVは接客時間が短い方が高くなる傾向にあります。私たちのお客様は、じっくりと買い物をするよりも、短時間で効率的な店舗体験を求めていると考えています。

 

顧客ニーズに応じた柔軟な対応と未来の展望

私たちの店舗では、ご来店されるお客様のニーズが明確であるため、生地やデザインの提案など、プラスアルファの提案は原則として行っていません。

私たちは、店員との会話を楽しむ「セッション」を重視しており、オーダースーツを作る過程での「セッション」は、お客様にとって楽しい体験となります。この「セッション」を重視するお客様は、現在の私たちの店舗にとっては主力層ではないかもしれませんが、将来的にはリテラシーが高く、こだわりのあるお客様向けに「セッション」が必要な業態を準備していくことも考えています。

一方で、より手軽なサービスを求める顧客層も存在します。例えば、人による採寸が不要な顧客層に対しては、テクノロジーを活用したサービスの開発も進めています。現在、R&D(研究開発)部門で様々なテクノロジーを試験中です。

 

効率的な店舗出店戦略

私たちの店舗出店戦略の一つは、お客様の通勤・通学路に沿った場所に店舗を設けることです。さらに、Google Analyticsを活用して位置情報を分析し、お客様の移動状況やGPSデータを基に最適な店舗出店場所を決定しています。

実際に購入していただいたお客様の移動パターンを分析し、その結果に基づいて最適な出店場所を決めています。これにより、既存のお客様にとって利便性が高く、新規のお客様も取り込みやすい場所に店舗を設置することが可能になります。

ただし、この方法で新規顧客を獲得することは現時点では問題ないと考えていますが、将来的に大きな会社になると、既存顧客のエリアへの出店によりカニバリゼーション(自社競合)が発生する可能性があります。

また、既存のお客様の背後には多くの新規顧客が潜在していると考えています。お客様の来店理由を深掘りし、その理由を基にして店舗の出店場所、内装や外装などを決定することが成功率を高めると考えています。

 

スーツ文化の推進と業界の取り組み

現在、スーツを着る人が減っているという問題があります。これまで各社とスーツ業界で文化を作り上げようと何度も話し合いが行われています。例えば、仕立てたオーダースーツで街を歩く「スーツウォーク」というイベントがあります。これは台湾発のイベントですが、東京でも開催されています。

私たちも3月2日を「スーツの日」としてキャンペーンを打ち、その際に他社をゲストに招くなど、業界全体でスーツ文化を盛り上げる取り組みをしています。

スーツは嫌々着るのではなく、自分の意思で着ることでその人の魅力が引き立ちます。私たちはスーツ文化をもっと広めたいという思いを強く持っていますので、そうした文化をもっと広げていきたいと考えています。

 

執筆

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