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お店ラジオ 2023/05/09 2024/03/14

一杯のスープでお客様の“心の体温をあげる”

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お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。

今回のゲストは、“世の中の体温をあげる”をコンセプトにスープ専門店を展開する株式会社スープストックトーキョー代表取締役の松尾さんです。物語のある思いのこもった商品づくり・お店づくりを行い、多くの女性に親しまれる店舗経営についてお送ります。

この記事の目次

  1. 一杯のスープでお客様の“心の体温をあげる”
  2. 他のファストフード店にない”Soup Stock Tokyo”のスタイル
  3. “Soup Stock Tokyo”の店舗に留まらない展開
  4. “Soup Stock Tokyo”との出会い

 

一杯のスープでお客様の“心の体温をあげる”

“Soup Stock Tokyo”は、創業当時はかなり手間暇かけた仕事をしていました。今は時代的に少し変わってはいますが、当時は鶏肉をフライパンで焼いたり、スパイスを火であぶって香りを出してからスープを作ったりしていました。

現在は、スープのベースになる一番大事なところはセントラルキッチンで作っていますが、最終的に仕立てていく工程はお店でやりますので、各店舗には必ずキッチンを設けています。

セントラルキッチンである程度調理していて、店舗ではスープをカップに注いでさっと出すような、手間も人件費も抑えて利益を出していくビジネスモデルだと思われがちですが、キッチンではかなり手間のかかった作業をしていますし、その作業の中でスピード感を求められますので、それなりにスタッフの数も必要になりますから正直に言うとあまり儲かってはいないです。

 

では何故、スープに手間をかけるのかということですが、我々の経営理念は“世の中の体温をあげる”なんです。忙しく過ぎていく日々の中でも、自分を大切に、優しい気持ちで一日をすごしてほしい、一杯のスープに願いを込めて、あなたと、あなたの先に広がる人々の心の体温をあげていきたいと願っています。

ですから我々はお店のスタッフにも、できる限り対面でお客様の“心の体温をあげる”ように努めてください、と話しています。「企業やブランドに対してどれくらいの愛着や信頼があるか」の顧客ロイヤルティを測るNPSという指標があります。

これは、回答者のうち「推奨したいと言う回答者の割合から否定的な回答者の割合を引いた数値で表していて、美味しい早いから自分だったら行くだろうけれども、他の人に薦めるまでではないとか、そう言った指標を測るんです。

ファストフード店だとこの指標がマイナスのお店もあるんですが、我々の“お客様の体温をあげる”という経営理念に共感していただいているからか、ありがたいことに“Soup Stock Tokyo”の場合は非常に指標が高くて、来店の頻度も推奨意向も上がってきています。

 

新しい出店戦略

現在、“Soup Stock Tokyo”は全国で60店舗ほどを展開していますが、これまで忙しい生活を送ってらっしゃる方や、都会や大都市というところにマッチすると考えていて、忙しい中でも美味しいものが食べられる、ファストフードではありますがスローフードのように食べられるというコンセプトでお店を展開していましたので、出店立地としては大都市の駅周辺に限られていました。

しかし、将来的には郊外のロードサイドや駅から少し離れたエリアへの出店も考えていて、最近では中野の駅から少し離れたエリアにお店を出しました。これまででしたら、中野に出店する場合、駅ビルの中か駅から歩いて30秒程で行けるエリアを選んで出店していたんですが、中野では徒歩で5分以上離れている場所にお店を出させていただいています。

最近ではスープを冷凍にして、お客様のご自宅でも楽しんでいただいたり、ギフトや贈答に使っていただいたりしていて、“Soup Stock Tokyo”中野店では周辺にあるスーパーで買い物のついでにお店で冷凍スープを購入していただくお客様も増えており、駅に出店しているお店とは少し違った形で、ご利用いただいています。

 

“Soup Stock Tokyo”の店舗に留まらない展開

我々の商品は自社で開発していて、冷凍スープの他にもカレーや離乳食なども販売しています。

店舗やオンラインショップなどでご購入いただけますので、ご自宅用にご購入していただく方も増えていますし、最近では遠方にお住まいの方へお届けする贈答品としてご購入いただく方も増えています。中でも、出産のお祝いとして選んでいただけるケースが特に増えています。ご自宅用や贈答用としてのご利用は、今後も増加していくと思います。

ですから、他の飲食店と比べて原価率が高いため、店舗ではそれほど儲かるわけではないんですけれども、冷凍スープなどプラスアルファで、ブランドビジネストータルで収益を上げるという構造になっています。また、お店に来られないお客様には冷凍スープなどを購入していただくことで、これまでご家庭では体験できなかったクオリティの高いスープをクイックにご家庭で食べる、というブランド体験をしていただきたいと考えています。

しかし、冷凍スープの販売というと競合も多いですし、勝つのは難しいと思われるのですが、 “Soup Stock Tokyo”では百貨店を中心に戦略的に販売を行っています。最初は百貨店のカタログ商品からスタートしたのですが、最近では百貨店の中に冷凍スープの専門店を10店舗作っていて、専門店ではお店で食べられない幅広いバリエーションの冷凍スープを揃えています。

さらにデパ地下での専門店には、一般のお客様への商品の販売の他にも大きなメリットがあるんです。それは、食にこだわっている全国各地域のバイヤーさんとの商談の場としての役割を果たすということです。デパ地下などの専門店には一般のお客様の他に、全国から多くのバイヤーさんがいらっしゃいますので、それをキッカケとして取引が始まり、現在では全国に我々の商品を卸させていただいております。

しかし、冷凍食品は一般的に3割引4割引で販売すると言う時代もあったんですが、我々の商品は安売りをしません。

そのための戦略として、我々が用意した什器をお店に持ち込んだり、コーナーの一角を全て我々自身で、 “Soup Stock Tokyo”のスープしか置けないような装飾をした棚を作ったりしています。

 

“Soup Stock Tokyo”との出会い

“Soup Stock Tokyo”を創業したのは、三菱商事に勤めていた遠山だということはお話ししましたが、私自身も大学を卒業して最初は総合商社に入社しました。商社に入った理由としては、何か自分で手触り感のある事業をやってみたいという漠然とした思いはあるけれども、何がやりたいかわからないから商社を選んだという感じでした。

しかし、当時勤めていた会社は経営破綻まではいかないまでも、非常に厳しい経営状況でしたので、最初に配属された財務の部署は大変忙しかったんです。そして、2年ぐらい経った頃に財務のプロフェッショナルにならなければいけないという道が見えてきてしまい、会社を飛び出そうと決めたんです。

それから、日本で一番元気な会社に転職しようと考え、ユニクロで働くことに決めました。2001〜2年頃だったと思いますが、ユニクロが高品質な野菜をブランディングし、野菜の業界をユニクロ流で改革する、というベンチャービジネスを興すというタイミングでした。

そのチームに加わってクオリティの高い野菜や果物などに触れながら、2年間頑張ったんですけれども、残念ながら20億の赤字になってしまいました。そこでブランディングの難しさを感じていた時に、二子玉川の高島屋さんの中にあった“Soup Stock Tokyo”に出会ったんです。スープは200グラム程のものが500数十円くらいだったと思います。

食べ進めるにつれて、私はお菓子を食べていた子供の頃に戻った感じになりました。もう無くなってしまう、という気持ちになったんです。でも、他のファストフードと比べておそらく倍以上するような値段で、しかもスープなのに堂々とその値段で販売していることに驚いたことを覚えています。

その時に食べたスープが記憶に残り、ずっと気になっていましたので、当時やっていたユニクロの野菜事業が終わることになった時に、“Soup Stock Tokyo”の創業者の門を叩くことを決心しました。

 

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執筆 松下 匠

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