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お店ラジオ 2024/05/30 2024/05/30

愛され、可愛がられ、リスペクトされる店づくり

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。

今回のゲストは、1997年岐阜県に最初の飲食店を出店。さらに居酒屋やうどんやタイ料理を中心としたエスクニックカフェレストランと次々に出店。関東では、川崎市のカレー屋を機に都内にも店舗拡大。そして、八重洲地下街に南インド料理専門店をオープン。自身も自称する食マニアとして、マニア向けメニューと一般向けメニューの両方を提供するなど、マニアによるマニアの為の店づくりを行う、南インド料理専門店 エリックサウス 総料理長 稲田俊輔さんです。

岐阜県での最初の出店から店舗拡大。その後、食通のお客さまと一般客を両立させるためのメニュー戦略とリピーターを獲得するゾンビ理論。美味しい料理を言語化し訴求する為のロマンの必要性、さらには、マニアによるマニアの為の愛され、リスペクトされるお店の作り方、味を広める熱狂的なマニアとの付き合い方など、3回に分けてお話しいただきます。

第1回は、岐阜県での出店、独自のマニア・一般向けメニュー、マニアを増やすゾンビ戦略などについてお送りしました。
第2回は、飲食店経営に必要な“ロマン”と魅力を伝えるための魅力の言語化、リスペクトされるお店づくりなどについてお送りします。

 

この記事の目次

 

必要なものは美味しい料理と“ロマン”

実は、私は食に対してあまり興味がありません。それにもかかわらずこの仕事をしているのは、マニアが増えお客さんがゾンビ化することが嬉しいからです。しかし、お店で美味しいものを食べるだけでは、ゾンビ化することはありません。美味しい料理に加えて必要なもの、それは「ロマン」です。簡単に言えば「うんちく」です。

例えば、豚肉料理についての歴史的背景や文化など、先人たちが紡いできた物語こそがロマンだと思います。

味だけでなく、そうした情報を提供することで、お客さんは料理に対してより興味を持つようになります。飲食店を経営されている方は、メニューやプレゼンテーションにロマンを取り入れることで、お客さんの反応や料理やお店に対する印象は大きく変わるはずです。

職人肌の方は「味がすべてだ。美味いに決まっているのだから、おいしく食べろ」という考えになりがちですが、本当は職人肌の方こそ、うんちくを語るべきだと私は思います。
南インド料理についても、「南インド料理とは何か?」という基本的なことから始め、「インドの中のインド」という話を聞けば、次にカレー屋の前を通った時に、きっと気になってしまうはずです。そして、機会があれば、試してみようという気持ちになってもらえると思います。

 

料理の魅力を言語化する

私は、南インド料理店「エリックサウス」を展開するうえでライバルとなるのは、インドの人たちだと考えています。本場の美味しい南インド料理は、もちろんインドの人なら誰でも作れます。しかし、それが「なぜ」美味しいのか、「どう」食べたらよいのか、「どんな」価値があるのかを、言語化し日本語で丁寧に説明しなければ、「とりあえず食べてみて」だけでは、伝わらないのです。

私たち日本人が、自分たちの言葉で南インド料理の魅力を言語化し説明できたのは、私たちがインドの人にとって外国人だったからです。

例えば、私たちにとって、だし巻き卵が美味しいのは当たり前です。しかし、だし巻き卵を知らない人に説明するとなると、分析し、言語化する必要があります。お店を成功させるには、そうしたプレゼン力が必要です。日本人である私が、南インド料理という世界に飛び込んで、一定の成果を得ることができたのは、コミュニケーション能力のおかげだと思っています。

 

食べ歩きで見つけたもの

私は以前から、様々なお店を巡って食べ歩きをしていましたが、最近は、「ここが一番自分に合う」と思えるお店に何度も足を運ぶようになりました。エリックサウスのスタイル、私自身のカレー作りのスタイルがある程度確立された事が大きいのだろうと思います。

開業前は、どのようなお店にすべきか明確になっておらず、試行錯誤を繰り返していた時期でした。そして、様々なお店を巡りながら、それぞれのお店の良いところを見つけ、魅力や個性を吸収し、良いと思ったものを自分のものにしようとしていました。

今でもそうですが、私はそれぞれのお店には必ず素晴らしい魅力と個性があると考えていて、どんなお店に行っても、「このお店の良いところは何か」という視点で見ることにしています。

欠点を探すのではなく、良いところに目を向け、徹底的に分析して自分のアイデアに昇華させていきます。「こんな素晴らしいメニューがあるのか」という発見を積み重ね、膨大なアイデアの蓄積から良いものを選び出し、組み合わせることで、自分だけのオリジナルメニューを作り上げていくのです。

 

カレー激戦区東京で味わった挫折

「エリックサウス」をオープンする以前、私は川崎市でテイクアウト専門の小さなカレー屋を引き継いで、経営していました。そのお店は、昼休み時間帯に1日のほとんどのお客さんが押し寄せ行列ができ、行列が無くなればその日の営業はほぼ終了という、非常にシンプルで、効率が良いお店でした。

この好調な滑り出しから、「2号店、3号店を出しませんか?」というお誘いをたくさんいただくようになりました。そして、都内にも出店を果たしたのですが、結果は期待したほどの売上には至らず、赤字経営に陥ってしまったのです。

今になって思えば、川崎の1号店は家賃も安く、効率的な店舗運営が可能な環境であり、条件が良すぎただけだったのです。しかし、東京はレベルの高いカレー屋も多く、カレーの激戦区です。もちろん、私たちのカレーも美味しいと自負していましたが、他店との差別化が難しかったのです。結果、川崎での成功は、良い条件が重なっただけであり、東京に出店すると埋もれてしまったのです。

 

愛され、可愛がられ、リスペクトされる店へ

都内のお店は、カレー屋のニーズがありそうな新橋に出店していましたが、新橋はライバル店の密度が非常に高く、経営は順調ではありませんでした。そして、現在の八重洲のお店は、新橋のカレー屋が思うようにいっていなかった時期に、出店のお誘いがあったのです。しかし、ライバル店の多い八重洲に出店したとしても、新橋のお店と同じことを繰り返すだけだと考えていました。

そこで、愛され、可愛がられるだけではダメだ、それだけでは、数あるお店の中で埋もれてしまう。愛され、可愛がられるだけでなく、“リスペクトされるお店”でなければならない、そう思ったのです。

では、リスペクトされるお店とはどんなお店か? 私が考えたリスペスクとされるお店とは、多少遠くても、値段が高くても足を運びたくなるお店、そして食事を終えた後に心から「ありがとう」と思っていただけるお店でした。
私自身、インド料理を食べ歩くのが好きで、距離や値段を厭わず色々なお店に足を運びますが、心から「ありがとう」と思えるお店に出会うことがあります。そんなお店を目指さなければ、愛され、可愛がられる喜びだけでは、いずれ私たちが疲弊してしまうだけだと思いました。

 

南インド料理の真髄へ – 未知なる世界への挑戦 –

リスペクトされるお店を作りたい。そう思った時、私に何ができるかを考えました。そこで閃いたのが、本格的な南インド料理店を作ることでした。当時、フレンチ、イタリアン、日本料理の世界では著名なシェフが名を連ねていましたが、南インド料理の世界では、その真髄を理解し、伝えようとする料理人はほとんどいませんでした。

もちろん、インドの方が経営する南インド料理店は少数ながら存在していましたが、日本人、インド料理マニア以外の一般の人にとって、その敷居は非常に高く、とても入りづらいものでした。メニューを見ても、カタカナで書かれていて意味が分からず、注文した料理が目の前に運ばれてきても、何が美味しいのか、どうやって食べればいいのか分からない、といった状況でした。

一方、マニアにとっては、インドの方が日本人向けに良かれと思って提供する料理が、本場の味とは微妙に異なっており、歯痒い思いをすることがあったのです。そこで私は、本格的な南インド料理を提供することで、多くの人に尊敬されるお店になれるのではないかと考えました。

 

第2回は、飲食店経営に必要な“ロマン”と魅力を伝えるための魅力の言語化、リスペクトされるお店づくりなどについてお送りしました。

第3回は、マニアによるマニアの為のお店、味を広げる熱狂的マニア、楽しむ経営哲学などについてお送りします。

 

執筆

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