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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、有限会社ゑびや・株式会社EBILAB代表取締役社長 小田島春樹さんと、株式会社EBILAB 最高戦略責任者 常盤木龍治さんです。
三重県の伊勢で150年続く老舗飲食店を再建。徹底したデータ活用により事業拡大を成功に導いた店舗経営戦略について、3回に分けてお送りします。
第1回は、5代目として引き継いだ飲食店の再建から客単価の向上、データの活用方法にについてです。
この記事の目次
150年続く老舗飲食店の転換
三重県伊勢神宮周辺で飲食店を営む 有限会社ゑびやは、私で5代目となり、歴史は150年以上になります。当社は現在では珍しい、有限会社という法人形態で会社を運営しています。
平成6年頃に私の先々代が事業から退いた際に、先代が有限会社として新たにスタートさせました。私が先代から店舗を引き継いだ10年前までは、伊勢うどんや天ぷらそば、カレーライスなどを提供する、ごく普通の観光地の飲食店でした。
私が会社を引き継いだ当時、このような店舗型ビジネスは将来経営が厳しくなると考え、飲食店事業を縮小してテナントビジネスに転換しようかとも思いましたが、結局うまくいかず、店舗の再建をすることにしました。
そして、飲食店である「ゑびや」を再建するためには、会社の体制や社内文化、組織自体を大きく改革する必要があると考えました。
ある朝、朝礼で「私と一緒に仕事をするということは、変化を楽しむことです」と宣言し、改革を始めました。しかし、これにより多くの従業員が退職しました。現在、私たちの飲食事業の従業員は約50名ですが、その当時から在籍しているのはわずか2、3名だけとなりました。
データを活用した再建の始まり
ゑびやは客席が200席以上あり、30人ほどの従業員が働く、飲食店としては比較的大規模なお店でした。私はお店の再建にあたって、データ化と分析を行いました。
まず、通常の飲食店ではお客様の回転率が重要になりますが、ゑびやの場合は営業時間が11時から15時までの4時間と短いうえに、200席のうち約半分の100席が3回転していた一方で、残りの100席はほぼ1回転しかしていませんでした。
特に平日は席の利用が少なく土日で多く利用されており、さらに曜日ごとの回転率を数値化して年間の回転率などを計算してみると、必要のない席が多くあることも分かりました。
私はそれらのデータを元に客席を200席から160席に減らし、空いたスペースは小売やテイクアウト用のスペースに転換して活用することにしました。同時に、売上を上げるためにはひとりあたりの売上(客単価)を上げることが必要だと考え、客単価を上げる取り組みもはじめました。
客単価向上のための戦略
客単価を引き上げると、これまでの単価で食事をしていた層のお客様を引きつけることが難しくなります。客単価を上げつつ、これまでの単価のお客様にも引き続きご利用いただくためにテイクアウト事業を立ち上げ、客単価が500~800円の商品を開発し、店内のテイクアウトスペースで販売することにしました。
さらに、店内に設けた小売スペースでお土産の販売も始めました。
お土産の販売コーナーは、お客様が飲食を終えた後に帰り道で購入できるような動線となる位置に配置しました。そして、食事をされた後にお土産を購入するお客様の割合も追跡します。
例えば、飲食したお客様に対してクーポンを配布し、割引率が何%になると、お土産の購入率が何%になるか、また、クーポンの利用率を向上させるための最適な配布タイミングも追跡しました。
私たちは、このように個別のデータ分析を細かく行ったうえで全体的な収益性の改善に取り組んでいますが、データがあるだけでは意味がなく、そのデータを活かした具体的な対策が必要であると考えています。
客単価を上げるための3つの戦略
客単価を上げるための方法は主に3つあります。
1つ目の方法は、すでに1,000円で売れている商品からの派生商品を作ることで、全ての商品を松竹梅の形にするのです。
例えば、牛丼が好評であれば、上質な黒毛和牛を使用した牛丼やチーズをトッピングした黒毛和牛牛丼を作ります。さらに、キャビアが乗ったうどんなど、さまざまなバリエーションを作るのです。
これにより、単価を上げる商品の松竹梅が完成します。この手法を繰り返すことで単価を上げることが可能になります。
2つ目の方法は、人気の商品に対するニーズを満たすための新たな商品を提案することです。
例えば、伊勢では手こね寿司がよく注文されますが、お客様の注文を他の商品にも分散させるために、それらのメニューから一部の要素を取り出し、付加価値がつくような組み合わせの新たなメニューを作ってそちらに誘導します。
具体的には、ミニ手こね寿司に松坂牛の肉寿司やアワビの串を付け加えます。そうすれば、お客様は手こね寿司を楽しむだけでなく、高級な黒毛和牛も試すことができます。
そして、人気の商品が売れると、その商品をさらに進化させたものを松竹梅のパターンで展開します。商品ラインナップは多めに揃えておき、トップ10やトップ20の売れ筋が確立されれば、売れ行きが落ちている商品は削除します。
例を挙げると、月間で3,000食売れたメニューがあるとして、それに対して300食しか売れていないようなメニューを削除します。このように商品の10分の1を削除することで、売れる商品がさらに売れる、“パレートの法則”のような状態が形成されます。
3つ目の方法は、高価なメニューを注文してもらうことです。
お客様が店に入るか否かを決定する大きな要因は、店の前にある看板です。データを取っていくと、高いメニューと安いメニューの適切な組み合わせが大切であることが分かりました。
たくさんのデザイナーに協力してもらい、ABテストを繰り返し、その結果、勝ちメニューと呼べるデザインが生まれました。
データ分析による需要予測、来客予想、入店率の算出
価格設定は、多くの飲食店が頭を悩ませる問題だと思います。
私たちのアプローチでは、価格を最大まで引き上げたAメニュー、中間的な価格設定のBメニュー、そしてほとんど価格上昇がないCメニューを作成し、それぞれがどの程度入店率に影響するのかを見ています。
また、特に力を入れているのは、需要予測、来客予想、そして入店率の計算です。
町を歩いているお客様の人数を画像解析で全てカウントし、さらに店内で商品を購入されたお客様のデータをPOSレジから抽出します。町を歩くお客様の数を分母、店内で商品を購入されたお客様の数を分子として、割合を計算すればシェアが算出できます。
つまり、「通行するお客様の人数に対して、何%のお客様が商品を購入したのか」というデータを得ることができるのです。
このような考え方を元にして、例えばA、B、Cの異なるデザインの看板を作成したときに、それぞれがどれほどの効果があるかを計算することができます。
これらの取り組みを行った結果、850円ほどであった客単価が、現在では2,800円まで上がっています。