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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、“体験を売るお店” ブルーボトルコーヒーのストラテジック・ブランド・アドバイザーの井川さんです。
「コーヒーを食べ物として楽しみ、お客様に体験を売る」店づくりについてお送りします。前回は井川さんとブルーボトルコーヒーとの出会いから、日本第1号店オープンまでのお話でした。
2回目の今回は、出店場所の選び方や飲食店PRのコツについてです。
この記事の目次
日本第1号店を清澄白河にした理由とは?
1号店を出店した清澄白河は、東京の東部エリアにあります。山手線からみると少し外れていて、皆さんの生活圏としてあまり通らないような場所になります。
計画では、1号店にカフェと焙煎所を併設させる予定にしていました。ですから、条件としてカフェと焙煎所を併設させるための100坪ほどの広いスペースが必要であること、焙煎作業で煙も出ますので周辺の環境に配慮することなどがありました。
そうした条件を考慮すると、候補地も限られてしまいます。そんな中、 “清澄白河”というエリアが候補地として挙がってきました。清澄白河は先ほどの条件を満たしていましたし、もともと港町であるためエリア周辺に工場が多く、大きなファクトリーっぽい建物も残っていましたので、街並みや雰囲気がオークランドに似ていたのです。オークランドでの第1号店もファクトリーをリノベーションして作っていましたので、ここであれば似た雰囲気のお店ができるのではないかと思いました。
その他にも、周囲に美術館があるし、面白い飲食店もある、地域の文化にも馴染めそうだと感じ、ハード面とソフト面の両方の条件がうまく合致したことで、あの街へ日本第1号店の出店を決めました。
店舗は2階建ての建物で、2階がオフィス、1階にカフェと焙煎所がありました。客席も7席ほどの店舗で、実は売上を目的としていた店舗ではありませんでした。近所の方に散歩がてら飲みに来ていただくお店をイメージしていて、どちらかというと、セントラルキッチンの機能を持たせたベース拠点としての役割の店舗でした。
アメリカの会社だと出店戦略として人口や商圏を分析し、売上や客単価などを明確に数値化した事業計画がベースにあって事業を展開するイメージですが、ブルーボトルコーヒーの場合は全く違います。少なくとも私がいた時にはそうでした。
表参道店と前橋店は飲食店経営の常識の逆を行く!?
2店舗目は表参道に出店しました。こちらは2階にある店舗で、お店にはテラスがあり、外に緑が見えるお店です。一般的に2階にある飲食店の経営は難しいと言われていますが、我々はその景色に惚れ込んでしまい、2回ほどしか足を運んでいませんが、そこでやると決めました。
結果として、1号店、2号店共に飲食店の通常概念の逆を行く形になりました。そういうところからも、ブルーボトルコーヒー=ミステリアスというイメージが広がり、少し火がついたということはあったのかもしれません。
それ以降の日本での出店ついては、出店したいと考えている街はありますが、順番やタイミングに関しては計画によるものではなく、ご縁やタイミングだったのかなと思います。
ブルーボトルコーヒーは関東に多くの店舗を展開しており、そのほとんどが東京都と神奈川県です。しかし、群馬県前橋市に1店舗のみ出店しています。実は、前橋市に出店したのはご縁があったからなのです。
前橋市に、JINS眼鏡の田中さんという方がいらっしゃって、私財を投じて街づくりを進めておられます。私は以前、前橋市で田中さんとお会いし、街づくりについての熱い思いを聞かせていただきました。その時、偶然にもブルーボトルコーヒートーキョーの設計担当者が同席しており、話が弾んだ結果、出店が実現することになりました。
私は、田中さんのように命をかけて街づくりに取り組む方がいらっしゃることに驚きました。同時に、こうした方々と出会うことで、新たな出店の機会が生まれることもあることに感銘を受けました。
このように、ブルーボトルコーヒーは関東と関西に店舗を展開していますが、地方にも進出することを考えています。そのため、福岡や名古屋、金沢などのエリアにおいて、フードトラックのようなコーヒートラックを作って各地をまわり、地元の方々やお客様とお話しながら現地のマーケットをリサーチしています。その中で、可能性があれば、次の出店の話を進めていく予定です。ブルーボトルコーヒーは、このような方法でブランド認知を高めながら、新しい出店場所をリサーチしています。
焙煎所は1拠点のままですが、国内の店舗が増えましたので清澄白河では難しくなり、現在は北砂というところへ移転して、そこで焙煎したものを全ての店舗へ配送しています。ブルーボトルコーヒーは、鮮度を重視しており、焙煎から使用期限までを厳密に管理しています。そのため、毎日こまめに配送する必要がありますが、個別で配送するとコストがかかってしまうので、ある程度集中してドミナントで配送するようにしています。
お客様や地域と協力してお店を育てていくために大切なこと
私は現在、ブルーボトルコーヒーのストラテジック・ブランド・アドバイザーとして活動しています。
以前は同社のチーフ・ブランド・オフィサーとして、アメリカ本国でブランド全般を統括する仕事をしていましたが、2021年末に退職し、現在はコンサルタントとして外部から同社に関わっています。私の役割としては、ブランドに関するアドバイス業務や商品開発、店舗デザイン、コラボレーションやパートナーシップの支援、イベント企画などを担当しています。
飲食店を経営する方にとって広報やプロモーションの方法は難しいことがあるかもしれませんが、私がお話ししたいのは「少しの工夫で使える方法があるかもしれない」ということです。
飲食店のPRにおけるコツやポイントをお伝えします。お店の業態やスタイルによって異なるかもしれませんが、基本的にはコミュニティに愛されるお店でなければ、長く続けることはできないと思います。
ブルーボトルコーヒーも同様で、地域の外から多くのお客様に訪れていただいても、地元の人々が毎日通ってくれるお店でなければ継続的な成功は望めないと考えています。ですから、テレビなどのメディア露出は重要ですが、継続的な成功を目指すのであれば、“地元の人々に愛されるお店であるかどうか”が最も重要だと私は思っています。
地元の人々のニーズに合わせてビジネスを進めることが最も大切であると考えていますので、私が関わっているお店は常に地元に求められているのか、愛されているのかを自問自答しています。
お客様や地域と協力してお店を育てていくことは、最も理想的な方法だと考えています。ただ、そのためには、しっかりとした業態が必要不可欠です。
飲食店を経営されている方であれば、お店なりの思いやストーリーがあると思います。しかし、そのストーリーをPRすることができなければ、お客様に伝わらないことがあります。そこで、お店のシナリオ作りの中で、PRを意識して売りや魅力を伝えることが重要です。
自分のお店の売りを考えることは、非常に重要です。思い入れがあるからこそプロセスにこだわってしまいがちですが、実際にお客様に刺さっているのはシンプルなことかもしれません。
例えば、「美味しいお肉が自慢」とか「こだわりのコーヒーが自慢」とか、シンプルな売りでもお客様に訴求することができます。また、地元の特産品を使ったメニューを提供したり、地域のイベントに協力するなど、地元の人々に愛されるお店づくりをすることも大切です。
今回のお話はここまでです。次回は、お客様にとって本当に魅力的なお店作りについて詳しくお聞きしていきます。