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特集 2024/01/19 2024/01/26

【イベントレポート】地方×老舗レストランがデータを使い倒す!?挑戦し続ける飲食店の経営奮闘記

2023年12月4日、東京恵比寿のSTUDIO VIZZ EBISUで、株式会社スマレジの主催イベント「飲食業界はブルーオーシャン!? 常識を超える飲食店経営のいま」が開催されました。

第一部では、データを駆使してアナログな飲食店経営や組織を立て直した2つの老舗飲食店さんをゲストにお招きして、トークセッションが行われました。

株式会社マルブンの代表取締役である眞鍋一成氏と、株式会社EBILABの取締役である常盤木龍治氏にご登壇いただき、参画時の状況から、改革を進める上での課題、将来の展望まで、当事者の視点からお話いただきました。
 

出演者プロフィール
株式会社マルブン 代表取締役

真鍋 一成
1986年愛媛県生まれ。大学を卒業後、東京でイタリア料理の修行を経て、2012年に愛媛へ戻りマルブンへ入社。マルブンで店舗経営、マネジメントを学び2023年創業100年の節目に代表取締役社長に就任。2021年よりフードテック、需要予測を導入し、現場改善。「地産地食」をテーマに、地元の生産者と共に歩み、地域に根差した経営を行っている。2016年に「日本でいちばん大切にしたい会社」審査員特別賞受賞。2023年に内閣府主催「全国クラウド実践大賞」審査員特別賞、勘定奉行賞受賞。経営ビジョン「EATGOOD COMPANY」を掲げ、食を通して世の中に貢献できる企業として、次の時代を見据えた変革を行っている。
株式会社EBILAB 取締役ファウンダー/CTO/CSO

常盤木 龍治
1976年東京都生まれ。2001年よりプロダクトビジネス一筋19年、 国内外の数多くのNo.1シェアプロダクトに携わる。2018年6月、株式会社EBILABを創設し、取締役ファウンダー/CTO/CSOに就任。パラレルキャリアエバンジェリスト/ プロダクトデザイナー/事業戦略担当として複数のイノベーション要素を持つテクノロジー企業で活動。
X:@ryuji_tokiwagi

 

この記事の目次

 

マルブンの5代目の挑戦と未来への第一歩

株式会社マルブンは大正12年に創業した企業で、愛媛県西条市に本社があります。大衆食堂として創業し、3代目の時に洋食文化を取り入れ、4代目でイタリアンへ業態を転換しました。そして、2023年6月に先代から経営を引き継ぎ、私眞鍋が5代目となりました。現在、愛媛県内で5店舗とFC1店舗を展開しています。

店舗で提供している「五代目鯛めし」は、めざましテレビが主催する「FNSご当地うま撮グランプリ」の、近畿・中国・四国ブロックの投票で1位に選ばれ、2024年3月にエリア代表として全国大会に出場予定です。

弊社では2020年からIT導入・DX化を進め、今年2023年に内閣府主催「クラウド実践大賞」で中国・四国大会の最優秀賞を受賞しました。また2016年に「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」で、外食企業で初めて審査員特別賞も受賞しております。

入社した2012年の当時は、時代背景も違い業績も好調でした。しかし、2016年頃に大きな転機が訪れました。「働き方改革」の提言と、大手外食チェーンの労災事件による外食企業のイメージ悪化が重なり、求人状況が極端に悪化しました。

新しい社員たちも厳しい条件を求めるようになり、ベテラン社員の退職も続き、現場はどんどん疲弊していきました。さらに同時期に受賞した「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞のイメージとのギャップもあり、とても苦しい時期でした。

 

DX導入でスタッフが自発的になり、現場の雰囲気が変わった

コロナ禍に入ったタイミングで、古いマネジメント体質や、無駄な作業など、解決すべき課題を改めて整理しました。その結果、改めて生産性の向上と、固定費の削減の重要性を認識し、ITを活用した解決策を検討していきました。

そんな中、EBILABさんや、スマレジさんに出会い、DX化を進めていくことになります。導入から3年で、人時売上高が4,017円から4,814円まで上昇し、743円も増加しました。また、今期は5,000円に達する見込みです。

導入時はまだ私自身のITリテラシーが低く、エクセルが少し使える程度で、CSVやマスターデータなどの言葉も知らない状態でした。勉強を重ね、データと経営数字の関連性や、アクションがどう反応するかを学びながら、徐々に理解を深めていきました。

当初はEBILABさんの、未来の売上を予測するシステム「TOUCH POINT BI」、スマレジさんの「POSレジ」、イグレックさんの「モバイルオーダー」と連携して、本店の1店舗からスモールスタートしました。その後、若手スタッフから「本店で使われているシステムを自分たちの店舗でも導入したい」という声があり、1年後には全店舗に拡大しました。

社内では徐々にシステムの理解度が高まり、スタッフが自発的に動き出すようになり、現場の雰囲気が変わりました。社内から変化に対する反発もありましたが、同時にDX化に興味を持って入社してくれる人も増え、組織全体の新陳代謝が進み、組織力が向上しました。

 

予測精度90%超の数字がもたらした業務改革

導入したシステム「TOUCH POINT BI」の『売上予測』機能を使って、月間の来客数を予測できるようになり、これを活用して効率的なシフト組みが可能になりました。さらに、『当日の客数の予測』機能を利用することでピークの予測時間も把握できる為、あらかじめ準備しておくことで、スタッフも焦ることなく対応できるようになりました。

また、『品目別の仕込み予測』機能で、5日後の仕込み状況が把握できる為、事前準備で業務量を大幅に削減できました。この機能のおかげで、属人性の高い仕入れ業務も若手スタッフでも対応可能になりました。

当初はDXにあまり興味を持っていない層が多かったのですが、的中率90%以上の予測数字の正確さや、スマホオーダーによる業務軽減など、データに基づく作業が広がるにつれ、DXの意義が理解されるようになりました。

現場メンバーが追う数字に関しては、理解を深めるために、あえて見る数字を限定し、段階を踏んでいきました。フェーズ1は来客予測、需要予測でFLをコントロールできるようになることを目指しました。次の段階では、どんなアクションをしたらどの指標の比率が何%変わってくるのか、データ分析をしながらアクションに繋げてもらっています。

 

次の100年を生き抜くための土台を築いていきたい

当社は100年間愛媛で外食事業に取り組んできましたが、将来的に人口減少が予測されています。今後は愛媛の生産者さんとの関係を活かしながら、食に関連した昼型の業態開発も進めたいと考えています。

例えば、需要が低迷している米や魚などの食材には、コストメリットがあるかもしれません。このような新しい試みが、スタッフの視野を広げることにも繋がればと期待しています。次の100年を生き抜くためにも変化を続け、次世代の土台を築いていきたいと考えています。

 

 

創業150年のゑびやのデータ経営への挑戦

ゑびやは創業150年の老舗店で、年間800万人が訪れる伊勢のおはらい町に立地しています。

この店舗に独自に開発した「TOUCH POINT BI」というシステムを導入し、来客数・販売数量の予測を行うことで、食材ロスを80%削減し、従業員がきちんと休暇を取れる体制を実現しました。

様々なメディアにも取り上げていただき、マイクロソフト米国本社が開催するイベントで、『最高のDXとAIの実現における世界的な先進事例』としても表彰していただきました。

弊社代表の小田島は、東日本大震災の翌年で客数が最も低迷していた2012年に、ゑびやに参画しました。当時の食べログ評価は2.76、平均顧客単価は約850円という厳しい状況で、売上も番台のおばちゃんが、紙の台帳で管理している状態でした。

また、伊勢は保守的な場所なので、当時は変化を受け入れにくい雰囲気が社内にもありました。当初代表の小田島が社員に「私と仕事をするということは、変化を楽しむことです」と言い続けていたところ、当時の60歳以上の社員の8割が辞めてしまったほどです。

そんな状況を打破する為に、人通りが多い参道に屋台を設置し、今では年間1億円売り上げる、名物のアワビ串の販売を開始。その売上で中古のレジを購入し、売上管理をエクセルに切り替え、データ経営の基盤を築いていきました。

多くの飲食店では、原価や売上の分析が不十分だと感じています。データを軸に経営することで、現状を把握でき、適切な量での仕入れや欠品の予防など、収益性の高い店舗になることができます。このデータ経営が、人気の老舗店が軒を連ねる、おはらい町の中で、ゑびやの活路となりました。

 

DX導入は従業員に利益をもたらすことが重要

データ経営を推進する際の当時の課題は、データを出力できるレジシステムが不足していたことでした。その中で、唯一データ出力が可能だったのがPOSレジの「スマレジでした。スマレジは、レジの売上や商品情報などのPOSデータを出力でき、それを二次利用することもできます。

このPOSデータを活用し、独自のロジックを組み込んだ「TOUCH POINT BI」を開発しました。このシステムにより、45日先の来客数を予測できるようになり、必要なスタッフ数を計算して、適正な有給休暇取得を可能にしたり、販売予測も行えるようになりました。

データ経営で役に立ったのが、コミュニケーションツールでした。現場からの声やGoogleの口コミなどを、SlackやTeamsを通じて全員に共有することで、特定の個人が顧客情報を独占せず、まずは全体で共有するフラットなマネジメントを実現しました。これにより、現場のストレスを軽減し、顧客の不満や改善点を徹底的に調査することが可能になりました。

また、スタッフが着用するウェアラブルデバイス「Fitbit」を利用して、オーダーの呼び出しや売上情報の共有を行っています。さらに、売上目標を超えるとインセンティブがもらえる通知を導入した結果、スタッフのモチベーションが驚くほど高まり、期待以上に少ない人数で、業務を回すことができるようになりました。

DXを導入する際に重要なのは、まず従業員に直接的な利益をもたらすことです。

データを活用して業務効率化し、有給休暇の取得を促進したり、席数を減らしたり、繁忙期のメニューを絞ったりして、スタッフの負担を減らすことが重要です。これによりDXの重要性が徐々に浸透していくと思います。

 

客単価を合理的に上げていくことが重要なポイント

2017年、ゑびやの店舗にお土産スペースを併設し、伊勢を象徴する形へリニューアルしました。最初の売上目標は月間1,000万円でしたが、実際は500万円ほどでした。

そこでAIカメラを活用し、入店しても購入しなかった人のデータを収集しました。性別や年代などのデータをレジの購買データと突合させ、男女比や実際の購買率を調査しました。結果は、来店者の男女比が男性4割・女性6割で、実際の購買率は男性2割・女性8割でした。

調査の結果、男性はお小遣いを使う際に慎重な傾向があるため、高価なお土産を避けることが、購買率の低さに繋がっているという結論に至りました。その結果を受け、男性向けに1000円以内の魅力的な商品を用意しました。同時に、女性向け商品には伊勢海老の出汁など高単価な商品も用意しました。

また、お店の前のディスプレイ効果も複数のパターンを用意し、検証していきました。サイダーのタワーディスプレイを設置した際、入店率や購買率は上昇しましたが、サイダーは350円と単価が低く、レジが混雑したため、売上への寄与は大きくありませんでした。そこで、サイダーを伊勢海老の出汁に変更したところ単価が1,500円上がりました。今ではお土産スペースだけで月商1,000万円を売り上げています。

このように、客数よりも、客単価を合理的に上げていくことが、従業員の給料を増やす上でも重要なポイントです。例えば、当店の手こね寿司は1,400円のものより、特製の2,900円の方が売れます。これは「伊勢に来たから普段とは違うものを食べたい」という心理があるからだと考えます。

さらに、最近はインバウンドの増加で、ランチメニューを5,000円〜10,000円で提供できる可能性もあると考えています。値上げに抵抗がある方が多いと思いますが、自信を持って価格を引き上げることで、多くのお客様がそれに応じてくださるのではないかと、私は感じています。

 

失敗を積極的に受ける社内風土

弊社では、新しいことに果敢に取り組み、失敗も積極的に受け入れています。朝令暮改という、意見が瞬時に変わることも許容しています。また、経営者自身も率先してチャレンジすることで、失敗を許容する風土を社内に根付かせてきました。

変化が続く中、メンバーの入れ替わりもありましたが、その度に新たな意欲的な人材が加わりました。優秀な人材が退職しても、依存していた状況から抜け出すことで、新たな人材が活性化し、しっかりとした組織へと成長しました。

全社で変化を楽しみ、同時にしっかりと利益を上げることを根付かせた結果、変化に耐えられるメンバーのみが残るような状況が生まれました。また、最近では退職した人々からも、セミナー登壇や仕事のお話を頂く機会も増えてきました。

 

データ活用のイノベーターであり続けたい

当店は2011年には年商が1億円でしたが、このような取り組みを通して現在は8億円に成長し、従業員数も42人から50人に増加しました。従業員1人当たりの売上も390万円から1,600万円に上がり、売上面積当たりの平均売上は500万円を超えています。また、リピーターも3割に到達しそうな状況で、価格を引き上げても、お客様がそれを許容いただける文化が育まれています。

このような状態に、半年や1年でたどり着けるように、その道筋を示すために開発したシステムが「TOUCH POINT BI」です。このシステムを開発した理由は、日本中の儲かっていないが、地域に愛されているお店が、潰れない世界を作りたかったからです。

特に飲食業界は平均給与が300万円程度で、儲からないとの認識がありますが、それを変えたいという使命感があります。

データ経営を通じて、自分たちの街を変え、次の100年を作っていきたいという会社が、50社の中で1社くらいの割合で育っていけば、日本の未来は明るいと考えています。私達もその気概を持ち、データを活用し続けるイノベーターであり続けたいです。

執筆 横山 聡

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