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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、業界注目の専門居酒屋「肉汁餃子のダダンダン」を運営する株式会社NATTY SWANKY(ナッティースワンキー)の代表取締役、井石裕二さんです。開店初日から行列を作ってメディアにも取り上げられた、そのアイデアのルーツとはなんなのか。また、100店舗以上に拡大する過程でどのようなことを考えていたのか、これからどうしていくつもりなのか、その緻密な戦略を余すことなくお聞きしました。
井石さんのお話を紹介する最終回は、井石さんが構想する経営戦略と、目指す未来についてご紹介します。
この記事の目次
「1年にで100店舗」のような目標は掲げない。短期的な利益を求めず、コツコツと地道に
ダンダダンがここまでくることができたのは、一時的な利益を追い求めず、コツコツと積み重ねてきたからだと思っています。うまくいっているようでも、どんどん出店しているうちに途端に崩れてしまうお店はたくさんあります。
だから「1年で100店舗増やすぞ!」というようなことはせず、月に1,2店舗だけしか出店しないことにしています。投資家の方ともきちんと話し合いをして、地道に積み上げていくという方針には納得してもらっています。(2019年に上場)
クーポンは根本的な解決にならない
他にも、クーポンなどは簡単に配らないことにしています。クーポンを配って一時的な利益を追うよりも、いかによい営業をするかの方がはるかに重要だと考えています。1日に何百人単位でお客さんが来ているわけなので、そのうちの何割かがリピーターになってくれれば、理論的にはお客さんは増え続けるはずです。
つまり売り上げが落ちているのは、お客さんが満足していないからで、自分達の営業が悪いからに他なりません。自分達の営業が悪い時にクーポンでお客さんを集めても、また落ちるだけです。クーポンや割引が必要なタイミングはありますが、そこに頼ることはしたくないです。
同じ理由で広告を使ってお客さんを集めることもしません。そもそも、きちんとした場所を選んでデザイン等でお店を目立たせることができれば、お客さんは自然に流入してきます。そういう意味では、お店が一番の広告になっているのかもしれません。
「Googleマップでは決して分からない」ダンダダン独自の立地戦略
場所の選定は、ものすごく重要です。1店舗目で場所選びに失敗してからは、すごく場所に気を遣うようになりました。おしゃれな店なら脇道などでも逆に雰囲気が出たりするかもしれませんが、ダンダダンに関してはやはり人通りが多いところを狙っていかなくてはいけないので、ほとんど駅から徒歩5分以内の場所に出店しています。
まず、最寄駅の乗降客数、周辺人口などを調べたり、携帯電話会社から人通りのデータをもらうことで売り上げ予測を立てるようにしています。賃料とのバランスも重要です。このような数字での判断材料も重要ですが、最後は現地に赴いて感覚で決めます。やはり自分の目で見ると、Googleマップでは分からないことがたくさん見えてきます。
空気感や、どのような雰囲気の人が多いのか、などを観察するのです。私は当然ダンダダンにどのような層のお客さんが来ているのかを知っています。なのでなんとなく「ここの人にはダンダダンはハマりそうだな」ということが分かるのです。その情報の方がはるかに重要で、乗降客数などは目安の一つにすぎないです。
今や出店数100店舗超。ダンダダンの出店戦略とは?
今はそうでもないのですが、最初はドミナント(特定地域に集中して出店する戦略)をかなり意識していました。一店舗目を調布駅(京王線)に出して、そこから京王線だけに20店舗ほど出店していきました。JRや小田急線にも出していったのはその後です。
ドミナントにすると、人のやりとりや管理が便利になります。たとえば、「バイトが休んだからヘルプが欲しい」というときや「ちょっとあの店舗の様子を見に行こう」というときに遠すぎると大変です。
また、店舗が近いことによってお客さんが巡りやすくなっています。ダンダダンは「壁画」が一つの特徴になっているのですが、それが全ての店舗で違うので、お客さんが色々な店舗を巡ってその違いを楽しむことができるのです。
回転率を上げて売上を伸ばす
餃子では客単価を上げることが難しいのですが、ダンダダンは回転率が高いので、売上を大きくすることができています。はじめに「餃子何枚焼きますか?」と訪ねて餃子を頼んでもらえれば、大体1人2皿くらい食べることになるのですが、これだけでなかなかボリュームがあります。
他のメニューもボリュームがあるので、いくつか頼んだらすぐにテーブルがいっぱいになるんです。これで満腹になって2、3杯飲んでもう帰る、となると90分ほどで終わることになります。これは居酒屋としてはかなり短いです。
また、お店にもよるのですが坪あたり2.5席と、かなりぎゅうぎゅう感があるように席を配置しています。こうすることで隣の人と触れ合ったりと、活気のある雰囲気を作ることができます。楽しい反面、こういうお店ではゆったりはできないので、パッと食べてパッと帰る、という空気になりやすいです。これも回転率を上げることに貢献していると思います。
ライバルは全ての「食」を提供するお店
餃子の王将などの中華料理屋は「美味しい餃子をつまみにビールを飲みたい」というニーズとは微妙にズレていることから直接的な競合ではない、と考えています。しかし、あえてライバルを挙げると、全ての食を提供するお店です。
居酒屋などに限らず、コンビニ弁当や冷凍食品などもすごくクオリティが上がってきているので、常に気にしています。その中でも、ダンダダンと同じように、単一業態の専門居酒屋として伸びていった鳥貴族や串カツ田中には色々教えてもらったりしています。
「ブームにはしたくない」街に永く愛される店づくりを目指す
肉汁餃子がこの10年間でどんどん認知されているという感覚はあるのですが、ブームにはしたくないと思っています。経営理念にも「街に永く愛される、粋で鯔背な店づくり」とある通り、長く続けたいんです。飲食店で二、三年流行って無くなってしまうお店は多いのですが、お店は街の風景の一部であるという側面もあるので、コロコロ変わってしまうと住んでいる方もあまり気分がよくないと思うんです。
一瞬のブームになるよりも、コツコツと自分達のやっていることを磨き続けることによって、街の人に受け入れられる、細くてもいいから長くやっていけるようなお店にしたいです。私にとって、自分のお店は本当に大事なものです。「お店とは人生だ」と誇りを持って言えます。
そんなお店が街の人に永く愛されるのであれば、これほど嬉しいことはないと思っています。