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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
放送の音声はこちらから!
#125 移動販売からスタートした、不便な場所でも”わざわざ”足を運びたくなる店舗戦略とは!?
#126 “小売業”としての在り方から、次なる展開「わざマート」で目指す先とは!?
今回のゲストは、東京での挫折から長野へ移住し、将来の店舗展開のためのプロモーションとして移動販売でパン屋を創業、こだわりの商品ラインナップでこだわりのお店を展開し、独自のプロモーション戦略により地域を元気にするお店、わざわざを運営する、株式会社わざわざ 代表取締役 平田はる香さんです。
挫折から長野へ移住し、パン屋を創業、そして実店舗とECサイトを運営。わざわざ独自の値付けと商品ラインナップの戦略。こだわりの商品ラインナップからわざわざ独自の透明なブランディング戦略、大ヒット商品「残糸靴下」、地域へ貢献したいという思いなど、3回に分けてお話しいただきます。
第1回は、長野へ移住しパン屋を創業、丁寧な告知と、商品ラインナップ戦略についてお送りしました。
第2回は、健康志向への転換、県外プロモーション戦略、こだわりの商品ラインナップについてお送りします。
この記事の目次
健康志向の食事パンへの転換
商品ラインナップの転換は、単に商品数を減らすというだけではなく、お客様とのやり取りの中で健康を重視した商品に絞った方が良いという判断によるものでもありました。
具体的には、以前お店ではチョコレートパンを作っていて、それを好んで購入してくださるお客様がいらっしゃいました。毎週購入してくださっていたのですが、1年ほどたった頃にはかなりふくよかになられたのです。その時私は、もしかしてふくよかになられたのは私が売っているパンのせいだろうかと思い、「このパンはいつ食べていますか?」とお聞きしました。するとお客様は、「冷凍しておいて、ランチのお弁当の後にデザートとして食べている。」と言われたのです。
私は食事だと思ってパンを作っていたのですが、お客様はデザートとして購入されていました。私は健康を軸にしたお店をやろうとしていたのに、逆の結果が出てしまったことがショックで、お客様に「すみませんでした。もう、パンは焼きません。」と謝ったのです。そのお客様には焼いてくれと言われたのですが、「自分が辛くなるから」とお話ししてやめることにしました。
そしてそれ以降、チョコなど過剰に甘いものなどが入っている菓子パンを減らし、レーズンや胡桃が入っているパンに変え、最終的にはそれもやめて、2種類まで絞りました。その過程においても、お客様からはやめないでくれと仰っていただいたのですが、そのように改善していかないと私自身の労働状態も良くなりませんし、お客様の健康状態も良くならないと思いました。
商品リニューアルの影響
この転換より、一時的にお客様は減るだろうと予想はしていましたが、一方で、全国に私の作る健康を意識したパンを求めるお客様はいらっしゃり、洗練されたものだけでも成立するとも考えていました。
そしてパンの種類を2種類に絞り込んだ結果、お客様の層に大きな変化がありました。好みに合わない多くの方は来店されなった一方で、新しいお客様が遠方から食パンやカンパーニュを求めて来店されるようになりました。これにより、約8割のお客様が入れ替わったと思います。
薪窯で焼かれたカンパーニュは珍しく、そういったこだわりのパンを目指してご来店いただくというのが私たちの理想でしたので、積極的に告知を行いました。私は体を作る食事パンしか焼かないことを宣言し、それを何度も繰り返しながら、写真や動画でPRを続けました。
その結果、商品のリニューアルを実施した当初は多少の来店者数減少があったものの、新しいお客様も来店されるようになり、徐々にリニューアル前の状態に戻っていきました。
県外へのプロモーション戦略
新しくスタートした事業は、設備投資を最小限に抑え、固定費を少なくしてスタートすることができたことや一人で運営していたため、お客様の入れ替わりに伴う、一時的な売上の減少などの変動はあったものの、赤字になることはありませんでした。
そして、東京など県外からの来店を促すため、2009年のオープン当初は青山の国連大学前のマルシェに毎回出店するなど、様々なプロモーションを行いました。こうしたマルシェに出店した目的は、全国紙や雑誌など、大手のメディアに取り上げてもらうことにありました。
私は、以前雑誌の編集部でアルバイトをしたことがあり、多くの雑誌がマーケットリサーチを行っていることを知っていましたので、出店したお店をマルシェ内では一番オシャレで、一番可愛いお店にしました。お店をオープンして以来5回連続で出店しましたが、幸運にも全国紙に注目され、特集していただくことができ、県外の方からも注目を浴びることができました。
新たなマーケティングアプローチの取り組み
私は、マーケティングの概念を理解していませんし、経営の経験もありませんでしたが、人を惹きつける方法やニーズを満たす方法について、自分なりに徹底的に考えています。そして、私の個人的な欲求や興味ではなく、お客様のニーズを理解し、それに応えることに最大限努めています。
また、店舗が山にあるため、お客様の来店は天候などの不確定要因に左右されます。そこで不確定要因に対応するため、実店舗とEC(電子商取引)の両方を活用する戦略をとることにしました。
お客様が店舗に来ない日にはECサイトで商品を販売し、店舗にいらっしゃる日にはECサイトでの提供を減らすことで、商品の供給を調整しました。
この方法により、労働の効率化と商品のロスを最小限に抑えることができ、販売チャンネルを多角化することでリスクを分散し、比較的安定した経営を実現できたと考えています。
こだわりの商品ラインナップ
私がお店をスタートした頃、パンが売り切れてしまってお客様ががっかりして帰られてしまったことがありました。その経験から、お客様をがっかりさせないために、パン以外の商品を充実させることにしました。
例えば、キッチンクロスやブレッドナイフ、パンを盛り付ける器など、さまざまなアイテムを取り揃え、さらにパンに合うオリーブオイルやジャムなどを商品ラインナップに加えることで、お客様がパンと一緒にパン以外の商品も購入してくださるようになりました。
お店では私が愛用しているものを商品として販売していて、その中のヒット商品としては石鹸があります。石鹸やシャンプーは消耗品であり、他のお店では手に入りにくいものが多いため、お客様がリピートしてくださるアイテムです。そしてお客様はパンと一緒にそうした商品も購入してくださるようになっていき、石鹸以外にも、醤油や味噌も大ヒットしました。
初めはパンだけが好評だったのですが、私がお勧めする醤油やお皿を試してみると、美味しさや使いやすさを分かっていただき、他の商品も購入するようになっていきました。こうした取り組みにより、徐々にお客様の信頼を得て、売上を伸ばすことができました。
透明なブランディング戦略
私は「1番おいしいものも、最高なものも売っていない」とお客様にお伝えしています。しかし同時に、「きちんと正直に伝えます」とも伝えています。
例えば、私のお店では、IKEUCHI ORGANICさんの今治タオルなどの商品も取り扱っていますが、私自身が工場を訪れ、社長と直接対話し、その内容をレポートにまとめ、お客様に製品について正直に情報をお伝えしています。そうすることで、商品の透明性を保っています。
また、私たちが作っている1万円のオリジナルTシャツについて、「1万円のTシャツは高くないですか?」という質問が寄せられたことがあります。しかし、そうした場合であっても、原価や工程など、その値段がどのように決まったのかを詳細にレポートし、オープンにすることで、多くのお客様から多くの良い反響をいただきました。このような、わざわざの正直で透明な姿勢がブランディングに繋がっていったのだと思います。
私たちの役割は、商品について丁寧に説明し、透明性を維持することだと考えています。そして、この姿勢によって、地域や社会全体が向上すると信じていますし、誠実に説明することでわざわざのブランド価値も高め、消費者の納得感にも繋がっていくと信じています。
第2回は、健康志向への転換、県外プロモーション戦略、こだわりの商品ラインナップについてお送りしました。
第3回は、商品ラインナップ、わざわざのABC分析、残糸靴下、地域への貢献についてお送りします。