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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、「紅虎餃子房」「韮菜万頭」「万豚記」などの飲食店の他、宿泊施設の経営や食料品、衣料品、日用品雑貨の卸、輸出入および小売店など全国で300店舗以上運営し、さらに飲食店に関する企画、商品開発ならびにコンサルタント業務など多岐にわたる業務を手がける際コーポレーション 代表取締役会長兼社長 中島 武さんです。
1990年、投資の世界から未経験の飲食業に参入し、「際コーポレーション」を設立、「ニラ餃子」や「黒酢の酢豚」など独創的なアイディアで次々とヒット商品を生み出した秘訣や、「食材に投資」「原価を追求しない」「出店に立地は関係ない」など中島社長の経営哲学について、3回にわたりお伝えします。
第1回は、会社設立の経緯と創業時の失敗、新しい商品の開発などについてお送りしました。
第2回は、棒餃子の誕生から商業施設への出店や、原価を追わない経営哲学などについてお送りします。
この記事の目次
餃子を焼く工程の改善から生まれた鉄板の棒餃子
ある日、餃子の注文が大量に入って困ったことがありました。餃子を焼く鉄板はかなり大きく、一人前の餃子の注文が入ると鉄板の上に餃子を5つ並べて焼きます。
ところが、個別に餃子の注文が入ると一人前が焼けるまで待たなければなりませんから、注文数が増えると効率が悪くなってしまいます。
多くの注文が集中してどう対応すべきかを考えていた時に、九州出身だった私は、地元の喫茶店で提供されていた鉄鍋で焼かれる焼きそばを思い出しました。
焼きそばを焼くのと同じように鉄鍋の上に餃子を配置して焼いてみてはどうかと考え、実践してみました。鉄鍋を使えば、小さな火床を複数並べることで、一つひとつの注文に対応することが可能になります。
さらに、九州には一口餃子という小さな餃子がありますが、小さな餃子を複数焼くのは非効率です。しかし、当社は餃子を手作りしていますので、長い形の餃子を作り、鉄鍋に並べて焼くことで調理効率を改善するアイデアが生まれました。こうして、鉄鍋で焼く棒餃子が誕生したのです。
店づくりに大切なのは独自の特性、オリジナリティ
商品がヒットすると真似する人々が現れます。我々は餃子のオリジナル店ではありませんし、我々のお店以外にも、餃子を提供する店が多くあります。しかし、餃子のブームに火を付けたのは私たちであると自負しています。
現在、日本中に餃子の店があります。真似をしても多少の成功は収めるのですが、真似だけの人々は創造力に欠けるため、いつか終わりがくると考えています。
真似をすること自体は良いと思うのですが、店づくりにおいて重要なのは、そのアイデアを更に進化させたり、新たな商品を生み出したりすることであり、真似をしただけの飲食店は長続きせず、成功しても短期間で姿を消すことが多いです。ですから、店舗の構築にはその店独自の特性、オリジナリティが大切だと考えています。
私たちは、最初、派手な看板を店頭に掲げていました。派手な看板があれば店が注目を浴びます。我々の真似をして派手な看板を使って成功を収めている企業もあります。
しかし、看板に派手な絵を描くことに関して、最初は良いのですが、いつまでも同じアプローチを続けることは望ましくありません。成熟すれば新しいアプローチや戦略を考える必要があると思います。
私の友人が以前「中島さんのお店は見世物小屋のようだね」と言ったことがあります。
この一言には響くところがありました。成功したら、派手な見世物小屋のような集客をするのではなくて、良質な商品を生み出し、店をシンプルに保つことで成長していかなければならないと感じました。
お客さんも最初は興味を持って面白がって来てくれますが、時間がたつにつれてその新鮮さは薄れ、陳腐化していきます。同じことをいつまでもやっていると飽きられてしまうのです。
会社の成長のための商業施設への出店
利益が出ると、ますます多くの店舗を運営したくなってしまいます。収益が上がると、資金も増えるため、より大きなプロジェクトに挑戦したいとも考えるでしょう。
しかし、その結果、初めに作ったお店に手が回らなくなり、劣化してしまうのです。店内が汚れ、スタッフのモチベーションが低下してしまいます。私自身も同じ経験をしたことがありました。そのため、これではいけないと考えてからは、派手なことを控えるようにしました。
その後に私が取った方法は、商業施設に出店することでした。商業施設の素晴らしい点は、管理体制が非常に細かく厳格であることです。何が許可され、何が許可されないのかのルールが多く存在するため、だらしないことは許されません。
商業施設に出店することで衛生管理や顧客クレーム対応について店長やスタッフの教育を行うことができ、コンプライアンスの重要性も理解することができました。
このように、商業施設で営業する際には、規則を守り、きちんと管理する必要がありますから、結果として、まだまだではありますが、まともな企業としての道を進めるようになったと思います。
また、こうして業態が増えるとリソースが分散してしまう懸念もありますが、我々のような他業種を展開する企業とっては利点もあります。
例えば、我々はステーキ屋を経営していて、毎月15頭ぐらいの牛肉を市場で競り落としているのですが、そうするといろんな部位が出てくるため、ステーキ屋だけだと無駄が出ます。一方で多くの業態を抱える我々には、それらの余った部位を洋食や中華などで無駄なく使うことができるというメリットが生まれるのです。
何十年もやってきて初めて気がついた「原価を追いかけない」ということ
現在、私たちの会社から独立した元社員が、ラーメン屋などで広く名を馳せています。その成功を見て「頑張っているな」と感じる一方で、「なぜ私が同じことをしても有名にならないのだ」と、少し嫉妬してしまうこともあります。
その理由は、私たちが企業であるからです。企業がラーメン屋などを経営しても、愛好家の人たちは相手にはしてくれません。そういう意味では企業はすごく不利だと思いました。なぜなら、企業は1円単位で原価を考えます。「1玉60円は高いから55円にしてくれないか」などと交渉するわけです。その時、企業が通常考慮する原価といったことよりも、料理に対する考え方を重視すべきだと気付いたのです。
我々はマクドナルドには戦いを挑まないということを決めていますから、「他のお店よりも良いものを出そう、良いものを作って、申し訳ないけれども他のお店よりもお金もいただこう」という考え方のもと、原価を追いかける前にお客さんに来てもらう方が先だと考えています。
上手くいかないと思えば環境を変える
お店を経営している方々で、どうも上手くいかないとおっしゃる方々もいらっしゃり、私たちもそのような相談を受けることがあります。
短期的な改善を求める場合には、私たちが介入して具体的なアドバイスを行うこともありますが、それよりも最も基本的なことは、生活様式や趣味、嗜好を変えることだと考えています。上手くいかない理由は、趣味や考え方に問題があることが多いのです。
当然、それらの考え方などは、経営者が課題に対して取り組んでいるアプローチ方法にも影響を及ぼします。発想の仕方が変わることで、有効なアプローチにたどり着くこともあります。
また、成功するための基本は環境にあると思います。したがって現状が上手くいかない場合には、その環境自体を変えることも必要だと考えます。経営者なのだから休みたいと思わず、日曜日でも店に行く、そして気になっていることがあれば全てやるという気持ちが大切だと思います。
何かしていても居ても立っても居られなくなって、お店に行きたくなる。やはり、そういった「お店が大好きだ」という人が店舗経営に成功します。お店に行けばその店の改善点が見えてくるのです。
第2回は、棒餃子の誕生から商業施設への出店や、原価を追わない経営哲学などについてお送りしました。
第3回は、成長のための考え方、立地戦略や「食材に投資する」という考え方などについてお送りします。