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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。
小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
今回のゲストは、厳選素材やトップシェフのメニュー、洗練された空間デザインにこだわった飲食店を展開し、食業界を夢のある業界へと変えていく飲食企業として、様々な業態の飲食店を経営する飲食事業やプロデュース、SNS・インフルエンサーマーケティングなどを行う、株式会社ZOT代表取締役 黒瀬 実寿希さんです。
学生時代から独立を希望し、負けないために飲食業界を選択、男性向け飲食店の激戦区への女性向けビストロの出店から、独自のマーケティング戦略と出店戦略、お客様とのコミュニケーションによるリピート率の向上、コスパと付加価値の魅力向上など、独自の経営戦略などについて、3回に分けてお送りします。
第1回は、ビストロ出店と負けない戦略、リピート率向上やコストについての考え方などについてお送りします。
この記事の目次
飲食業界を夢のある業界へ
株式会社ZOTは、飲食業界を夢のある業界へと変えていく飲食企業です。
私たちはマーケティングやブランディングに力を入れ、現在、都内に8店舗の飲食店を運営しています。
無駄なことは一切せず、社員や食材に投資することを心がけており、コロナ禍でも好調を維持することができました。
私は大学時代から独立を希望していたため、就職の際にはどの業種に進むかを慎重に考え、最終的に飲食業界を選びました。そして、5年間さまざまな飲食店で働きながら、成功するための方法を学びました。
私が大学生の時に飲食業を選んだ理由は、この業界は個人店が多く、負けないと考えたからです。当時、一般的な業界では8~9割が株式会社で、個人店は少数でした。
しかし、飲食業界では6~7割が個人店で、3~4割が株式会社でした。そのため、飲食業界であれば、個人店に勝てばやっていけると考え、飲食業界に入ることに決めました。
個人店に負けないため企業へ就職
私は、「会社を大きくしたい」というよりも、あまり苦労せずにそこそこの成功を収めたいと考えるタイプで、負けないことが大事だと思っていました。
そのため、まず個人店に負けないためのスキルを学ぶために、最初は飲食関係の会社に就職することにしました。
会社では、物流やブランディングなどの視点から飲食店を学びました。業態によって市場の規模が全く異なるため、戦う場所や方法も変わることを学び、「何の店をやるか」が最も重要であることを理解しました。
また、大手企業では、タイムカードがシステムと連動し、今日の仕入れが何パーセントかも見えるシステムが整っていますが、小規模なお店では日々の数字管理がされていないことが多いです。個人店ではその作業が大変で、ほとんどのお店が行っていませんでした。そのため、数字を管理すれば上手くいくと考えました。
こうして多くのことを学んだ後、私は独立を決意し、最初にビストロを開くことにしました。
男性向け飲食店の激戦区への出店
一店舗目のビストロは、東京日本橋の人形町でオープンを計画しました。
人形町はそれまで一度も行ったことがない場所でしたが、近くに証券会社などがあり、サラリーマンが多く、所得が高めの人々が多いエリアであることがわかりました。また、居住者も多いため、平日も土日も集客できると判断しました。
当時の人形町は男性向けの飲み屋やラーメン屋、そば屋が多く、競争が激しい地域でした。しかし、女性が気軽に行けるようなお店はほとんどありませんでした。
そのため、女性をターゲットにしたお店であれば、周囲の飲食店と単価勝負をしなくてもよいと考えました。
また、このエリアの飲食店の価格帯はランチが1コインの500円が主流でした。私は、1コインランチと戦うと疲弊してしまうと考え、高単価を狙う戦略を取りました。
最初の店舗を出店する際、本当に女性のニーズがあるのか不安はありましたが、主婦が行く店が少ないという声や、「おしゃれな店があったら良いのに」という声、女性の送別会で場所に困っているという話も聞いていました。
ランチの時間にお店のお客さんなどに普段どのような店に行くかを聞き込み、一ヶ月ほど生の情報を集めた結果、人形町には女性のニーズがあると確信しました。
リーズナブルで最大限の効果を得られる規模
店舗は裏通りにありましたが、駅から近く、家賃が安い物件があったため、その場所に決めました。お店の広さは20坪で30席ほどでした。
この広さは私にとってちょうど良い大きさで、これ以上小さいと売上が低くなります。一方で、高級店にするとお客さんが来ないかもしれません。リーズナブルで最大限の効果を得られる規模として、この広さが最適だと考えました。
初月はチラシやグルメサイトしか宣伝手段がなかったため、認知度は高くありませんでしたが、二ヶ月目からは黒字に転じ、経営に困ることはありませんでした。
工事中には警察の方から「立地が悪いからやめたほうがいい」と言われたこともありましたが、そのお店は現在もその場所でその家賃で経営を続けており、非常に利益を上げることができています。
リピート率の向上のためのサービス戦略
最初のお店は裏通りでしたので、ウォークインでの集客は期待できませんでした。
そのため、ビラ配りで認知度を上げ、集客に繋げる方法を取りましたが、効果が出るまでに1~2週間はかかりました。
その間、他の方法での集客も行いました。一軒一軒訪問し、「ビストロを開店しましたので、よろしくお願いします」と挨拶し、マンションには自分でポスティングを行いました。
また、オフィスにも訪問し、会社の幹部の方と仲良くなることで、その部下の方々が大勢来てくれるようになりました。特に、忘年会や送別会などで、社長が「ここにしよう」と決めると、一気に五席十席が埋まることもありました。
そして、その場で女性の送別会や歓迎会の際には「よろしくお願いします」と声をかけることで、次の女子会のお店として思い出してもらえるようにしました。
さらに、来店したお客さんと仲良くなり、友達を連れて来てくださった場合は必ずサービスを提供するなどして、リピート率の向上に努めました。
居酒屋と同じ価格帯での付加価値戦略
価格帯は居酒屋と同じに設定し、さらに料理を一人一皿にするなど、付加価値を付けることで、女性のお客様にも利用しやすいお店になったと思います。
一人一皿の料理にすると、全員の料理を出して回収し、次の料理を出すために時間がかかるため、大皿の方が手間もかからず原価も安いと思われるかもしれません。
しかし、大皿で出すと空腹時に一気に食べられてしまい、無駄が多くなります。最後には残さないために無理して食べる状況になりがちです。一人一皿にすることで、お店側は料理を出すタイミングを調整できますし、お客様はゆっくりと食事を楽しむことができます。
これにより、お客様一人ひとりの満足度が高くなり、良いお店に来たという印象も残ります。
居酒屋とほぼ同じ4,000円でコースを提供し、一人一皿の料理にさらに飲み放題を付けることで、より高い満足度を提供できるようになります。
物流とコスト削減の工夫
物流面でも工夫をしました。
まず、直接農家さんの畑を訪問しました。卸売りをしている農家さんで、配送センターから給食調理場にも配送していましたので、お子様用にカットした野菜の切れ端を提供してもらうことができました。
これらの切れ端は処理されるもののため、無料でいただくことができました。お店では、この無料の野菜をスムージーにして、ランチでおかわり自由にして提供しました。これにより、ランチの価格が1,500円と高くても、お客様に大変喜ばれました。
私たちのお店では、FLコストを55%以下に抑えるよう設計しました。FLコストとは、食材費(F)と人件費(L)の合計です。
その比率は業態によって異なります。例えば、うなぎのような高価な料理では、食材費が40%近くで人件費が15%ほどになります。
一方で、安い業態では食材費が28%で人件費が20%ちょっとということもあります。FLコスト55%は非常に低い数値であり、これを達成する業態を作り上げたことは大きな成果だと思います。
第1回は、ビストロ出店と負けない戦略、リピート率向上やコストについての考え方などについてお送りしました。
第2回は、リピーターを作る会話術や店舗の拡大、クラフトビール店のコスト戦略などについてお送りします。