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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
#21 新規事業参入の裏側をビジョン佐野社長が語る
#22 地域の特性を生かしたグランピング事業の極意
今回のゲストは、海外用Wi-Fiルーターレンタルサービスのブランドを主力事業とするかたわら、「温泉付きグランピング施設」も展開する、株式会社ビジョン取締役社長 兼 CEOの佐野健一さんです。一部上場企業を経営する中、突如スタートした温泉事業の意外なきっかけとはなんなのか。圧倒的な収益性を誇るビジネスモデルの秘密や、集客やコストカットの方法などの具体的な戦略にも踏み込みました。何手も先まで練り込まれた戦略や、その裏に潜む熱い想いについて深掘りしていきましょう。
第一回は佐野さんが温泉グランピング事業を始めるに至った経緯についてご紹介します。
この記事の目次
本業はグローバルWi-Fi、その傍ら、個人で始めた「温泉付きグランピング施設」
株式会社ビジョンは海外用レンタルWi-Fiルーターのブランドを中心に展開している会社ですが、「源泉かけ流し露天風呂付きグランピング施設」の事業も行っており、今回はそちらの「温泉付きグランピング施設」の事業についてお話したいと思います。
事業開始の経緯としては、ビジョンが2016年に一部上場したころ、故郷の鹿児島で父親と温泉旅館を買って僕個人で経営を始め、その後に温泉事業をビジョンの事業の一つとして買収したという形です。
家族と過ごす時間を増やすため、父親と事業を始めることに
突然、僕が温泉事業を始めたのは、帰省したあるとき、親父と会える回数も、もうあまり多くないのかもしれないなと感じたことがきっかけです。年3回帰省して、それぞれで2日間ほど一緒にいるなら、会えるのは1年を通じで6日間だけです。それで親父があと10年ほど生きるとすると、単純計算で60日間となります。
つまり2ヶ月ほどしか親父と一緒にいることはできないんだと思い、もっと長く共に過ごすにはどうしたらいいかと考えた結果、親父と事業を始めることを決意しました。
大好きだった温泉に、「グランピング」を掛け合わせる
早速、親父には家業だった工務店をやめてもらい、僕と親父の2人が大好きだった温泉の事業に乗り出しました。実は、地元である鹿児島は桜島をはじめとする活発な火山が多い地域であることもあり、全国有数の温泉地帯です(源泉総数は全国2位)。そこら中の銭湯がほとんど温泉となっているような地域で、温泉に関心が強い人が多いです。
そんな状況をうまく活かしつつ差別化するために、あるものに目をつけました。それが「グランピング」です。グランピングとは「グラマラス(優雅な)」と「キャンピング」を合わせた造語です。アウトドアな雰囲気を楽しみつつも、食材の用意やテントの設営などの手間をかけずに済む、まさに「優雅なキャンプ」です。ホテル並みのサービスを提供しているところもあり、近年注目のサービスです。
グランピングはヨーロッパですでに流行しており、日本にもその波が訪れる兆候がありました。そこで、このグランピングと温泉を掛け合わせることで「源泉かけ流し露天風呂付きグランピング施設」を作ろうと決めたのです。
グランピングと温泉の圧倒的な相性のよさとは?
この戦略には勝ち筋があると思いました。グランピングはバーベキューや焚き火をして自然を楽しむものですが、どうしてもお風呂がネックになります。大抵は遠いところまで行かないとシャワーが浴びられなかったりするのです。しかし、露天風呂があるとどうでしょう。アウトドアを楽しんだ後に、こだわりの温泉に浸かりながら、綺麗な星空を眺める…これに魅力を感じる人はたくさんいるはずです。
グランピングと温泉を同時に提供したのは僕たちが日本で初めてだったのですが、これが思いのほか相性抜群だったのです。温泉好きの鹿児島県民に、また新たな形で価値を提供できるのではないかと思いました。
アンケートからグランピングの潜在需要を確信
また、株式会社ビジョンは海外用レンタルWi-Fiルーターのブランドを展開する企業なので、お客さんは海外旅行を楽しんでいる人です。この人たちと、国内でも関係性を持つことができるような場を提供できれば、ビジョンが獲得できるマーケットを拡大することに貢献できるという考えもありました。
実際、ビジョンのお客様にアンケートを実施したところ「グランピングには興味があるけど、まだ行ったことはない」という人が多く、ビジネスとしての可能性を強く感じたことを覚えています。
買収する温泉旅館の決め手は「泉質」
グランピング事業に参入することを決めてからは、まずどの温泉旅館を買うか調査を始めました。地方ということもあり、M&A業者よりも不動産屋の方が情報を持っていたので、そこから数件紹介してもらい、一軒一軒回りました。先ほども言ったように、温泉に対して意識が高い人が多いので、泉質(温泉の性質)にはこだわりました。「ここの温泉に入りたい」と言ってくれる人がたくさんいることが何よりも重要だと思ったのです。
そして最終的に僕たちが選んだのは、「こしかの温泉」を提供する旅館でした。80歳のおばあちゃんが一人で営んでいて、かなり建物の老朽化も進んでいましたが、調査したところ泉質がすごくよかったのです。そこの温泉は美肌にすごく効果的で、肌に悩みを抱える人向けの湯治が盛んに行われていました。(湯治とは数週間を温泉地で過ごし、体調を整えたり、病気を治したりすること)
父親のノウハウを活かした大規模なリニューアル、総工費は億超え
この温泉旅館を買って、リニューアルすることにしました。親父が工務店をやっていたこともあり、建築関係のノウハウは豊富に持っていたので、かなり大規模な改修を行うことができました。全ての部屋に半露天、もしくは露天風呂をつけたり、湯量が足りるようにもう一本温泉を掘ったりもしました。
地元の電気屋さんや水道屋さんにも助けてもらいつつやりましたが、規模が規模のため、かなりお金がかかり、結果として総工費は億を超える形となりました。そして温泉旅館として一旦オープンして、お客さんが順調に集まってきたところでグランピング要素を足していきました。今は徐々に旅館からグランピングに移行してきているところです。
地元を盛り上げたいという想いと、地産地消のジレンマ
親父と一緒にいる時間を増やしたかった、ということ以外にもこの事業を始めた目的があります。それは大好きな地元である鹿児島を盛り上げることです。だから鹿児島の良さが出るようになるべく地元の食材を使うようにしています。鹿児島は、牛は日本一で、地鶏も圧倒的に有名、豚もたくさんいいものがありますし、魚も鹿児島湾・太平洋・東シナ海の三つがあるので安く美味しいものを仕入れることができます。これらの良さをアピールすることで、地元に貢献できたら嬉しいなと思います。
しかし、全てを地産地消というのは難しいです。例えば、海苔は鹿児島では厳しいので、佐賀から仕入れることにしています。地元にこだわりすぎてお客さんに提供するものの質が下がっては意味がありません。これでうちがお客さんを満足させられれば、結果的に人も集まり地元に貢献することにもなるので、そこはまた違う形で価値を提供するようにしています。