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お店ラジオ 2024/03/14 2024/03/14

『ハレ』のパンと『ケ』のパン

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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。

今回のゲストは、「仕事を通じて人間が成長し、売る商品も共に成長していくこと」を理念として、2012年に設立し、愛知県を中心に展開するイタリアンレストラン「ピッツェリアブル」、パン屋パンのトラ、ジェラート店「ジェラートラ」などのブランドを運営する、株式会社トラムスコープの代表取締役社長 加藤敦揮さんです。

愛知でイタリアンレストランを開業後、フォカッチャの成功をきっかけにパン屋事業へ進出。独自の立地選定戦略と大型パン屋開業、ギネス記録達成、顧客との強い絆を築き、パンの品質とサービス革新に注力して業界での成功を収めた株式会社トラムスコープの物語を3回に分けてお話しいただきます。

第1回は、トラムスコープの由来と巨大パン屋の出店戦略、巨大パン屋の成功の秘訣についてお送りしました。
第2回は、独自の立地戦略と顧客エンゲージメント、地域との絆とギネスへの挑戦についてお送りしました。
第3回は、ギネス挑戦のドタバタ、「ハレ」のパンと「ケ」のパン、独自の商品戦略についてお送りします。

 

この記事の目次

 

ギネス挑戦現場のドタバタ

新しいカテゴリー設立に伴うギネス社の調査対応は、非常に大変な作業でした。
例えば、「室温24度、湿度60%での小麦粉1gをどう証明するか?」という質問があり、小麦粉の1gが正確であることを第三者に証明してもらう必要がありました。気温や湿度による容積の変化も考慮し、客観的な証明が必要でした。この第三者は、私たちと無関係でなければならず、報酬を支払うこともできませんでした。

挑戦のための設備準備も大変で、調理場にはギネス社のスタッフが遠隔で監視するためのカメラを設置しました。カメラの位置や画角など、細かい条件を満たす必要があり、これに対応するのもとても苦労しました。

ただ、ギネス記録挑戦をマーケティングコストとして考えると、その費用効果は非常に高いです。ギネス記録というコンセプトは魅力的であり、記録を広告に使用する際には料金が発生しますが、お客様によるSNSでの発信は無料です。適切に活用すれば、強力な宣伝ツールとなります。Googleマップや食べログなどの口コミサイトでの、ギネス記録を使った積極的な宣伝は、私たちにとって非常に価値のあるものです。

 

「ハレ」のパンと「ケ」のパン

ギネス記録を保持していても、パンが美味しくなければ売れません。私たちはパンの味に絶対の自信を持っており、特に水分量にこだわっています。当店の食パンは、もちもちとした食感と外側の薄い耳が特徴です。

最近、高級パン専門店が増えており、一時的に売上への影響がありましたが、長期的には大きな影響はありませんでした。その主な理由は、製造本数を一貫して変えず、限定された量の生産にこだわり続けたからだと思っています。この戦略により、ブームが去った後も安定した販売を維持できています。私はこのアプローチは、より持続可能なビジネスモデルと考えています。

高級食パンが特別な日の「ハレ」の商品であるのに対し、私たちの提供するパンは日常の「ケ」の商品として位置づけています。同じパンであっても、その役割と位置づけは根本的に異なります。私たちのパンは、日々の生活に溶け込む身近な存在であり続けることを目指しています。

 

1軍から3軍までの商品構成戦略

当店では、ABC分析に基づいた独自の商品構成戦略を採用しています。商品群を1軍、2軍、3軍に分類し、それぞれの役割と重要性を区別しています。

1軍商品は店舗の主力商品で、カレーパンなどがこれに当たります。これらは店の代表的なアイテムであり、大量生産・販売が可能です。売上の大部分を占め、店舗運営の基盤となります。

2軍商品は、1軍をサポートする存在で、クリームパンやアンパンなど、1軍商品と一緒に購入されがちなアイテムです。これらは1軍商品の売上を支え、顧客の購買体験を豊かにします。

3軍商品は熱狂的なファンを持ち、製造に手間がかかるものの、高単価で売上に大きく貢献します。また、商品ラインナップの多様性を提供し、顧客に選択の楽しみを与えます。

さらに、店舗のイメージを象徴するアイコン商品として、食パンがその役割を担っています。食パンは店内の見栄えを良くし、パン屋らしい雰囲気を演出する上で不可欠です。食パン自体は製造数が限られ、高級品でなければ単価が低いため、大きな利益をもたらすわけではありませんが、その存在は店舗の雰囲気に大きな影響を与えます。

 

効率的な売れ残り対策と品質管理の戦略

パンの販売パターンは週を通して一貫性があり、開店初期の3カ月間で収集したデータに基づき、製造量の調整を行います。
この方法により、私たちは日々の売上に対するロスを3%以内に抑えることを目標としています。この3%という目標は、閉店間際でも適量のパンが残っていると感じさせるギリギリのラインです。

具体的には、100個程度のパンが売れ残りのギリギリのラインであると考えており、これ以下になると、お客様にパンが不足しているという印象を与えかねないです。

この売れ残り対策は、パンの種類の多さと製造の複雑さを考慮すると、非常に手間のかかる作業です。通常、各店舗には工程を管理するための専門スタッフが必要ですが、当店では品質を一貫して保つため、練り上げ温度決定のためのマニュアルを作成しています。

このマニュアルは、小麦粉の温度、水道水の温度、気温などを考慮し、最適な練り上げ温度を導出します。さらに、水の硬度に応じたレシピの微調整を通じて、地域の環境差を考慮した品質管理を実施しています。

 

季節性への対応と売上安定化戦略

お店には、主に家族連れや40代以上の女性客が多く訪れます。特に女性客は、家族のためにパンを選んで1人で来店することが多いです。これらのお客様が焼きたてのパンを好むため、午後3時を過ぎると来店数は減少傾向にあります。

また、夏季は売上が顕著に落ち込み、年間平均の70%から80%にまで下がることがあります。固定費が高い当店にとって、8月の売上減少は経営に重大な影響を及ぼします。食パンを看板商品としているものの、夏場の様々な販売促進企画も売上向上には結びついていないのが現状です。

8月の売上が伸び悩み、赤字に陥る店舗も珍しくないと思いますが、多くのパン屋は、この時期を乗り切り、年間を通じて売上、費用、利益のバランスを取っています。その中でも、お盆期間中は、帰省する家族の来店が増え、一部売上の回復が期待できます。しかし、季節性による売上の波は避けられず、特に夏はパン屋にとって試練の時期です。

 

革新への歩み:商品開発とテクノロジーの融合

当店では、季節に応じた新商品開発に注力しており、春夏秋冬それぞれの季節に合わせた新しいパンを発売しています。このプロセスにはパートタイムスタッフを含む全社員が参加し、Googleフォームを通じてアイデアを募集しています。
今後はお客様からのアイデアも積極的に取り入れる計画です。新商品の販売は店舗に新たな活力をもたらすと共に、顧客の関心を引きつける重要な要素です。

加えて、モバイルオーダーなどの新サービス導入にも力を入れています。パン製造の時間的制約を考慮し、焼き上がり予定時刻をクラウドにアップロードすることで、リアルタイムの在庫管理を可能にしています。これにより、顧客に常に新鮮なパンを提供できます。

店舗は朝7時に開店し、顧客は平均で約15分間滞在します。
この限られた時間内で効率的にサービスを提供するためには、データを活用した在庫管理と生産計画が不可欠です。将来的にはAIを利用して生産量や売上を予測し、運営をより効率化することを目指しています。

モバイルオーダーはこの目標に向けた一歩であり、顧客の注文データを収集・分析し、生産計画の最適化に役立てます。ただし、現在モバイルオーダーの利用は日にわずか30件程度に留まっており、主な理由は注文プロセスの複雑さにあると考えられます。お客様はパンをバーコードでスキャンし、数量を手入力する必要があります。このプロセスを簡略化することで利用者数を増やし、最終的にはAIによる精度の高い生産・販売予測の実現を目指しています。現在はその過渡期にあると考えています。

 

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