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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、「本流の逆をいく独自の戦略」で海外展開を目指す、株式会社せーの 代表取締役の石川さんです。
「面白いことで世界を惹きつけるブランド経営」についてお送りします。
第1回は、自社ブランド「ヴァンキッシュ」の立ち上げ背景と、“かっこいいより面白い”を追求するマーケティング戦略についてお伺いします。
この記事の目次
自社ブランド「ヴァンキッシュ」の立ち上げ背景
株式会社せーの 代表取締役社長 石川涼です。
当社は2000年から営業しており、元々はビームスさんなどの企業向けにオリジナル商品の生産を請け負う、OEMという下請け業態でした。
言い方は悪いですが、当時は下請け業でお客様に振り回されることがとても苦痛でした。そこで、自分たちの柱を作るべきだと考え、自社のブランドである「ヴァンキッシュ」を立ち上げました。
2000年初頭の当時は裏原宿のブームが90年代から続いていたため、多くの人が原宿を真似たブランドを作っていました。しかし、それには違和感を抱いていて、結局彼らの真似をしても彼らに追いつくことができないと考えていました。
そこで「何か違う階段で同じステージに上りたい」とマーケットを調査していたところ、渋谷のギャルやギャル男たちのマーケットが盛り上がっていることに気付きました。レディースの“109”は存在していましたが、男性向けの市場が未だ開拓されていなかったため、そこに目をつけ、「ヴァンキッシュ」を立ち上げました。
渋谷109の熱狂と新しいマーケットの創出
マーケットに手応えを感じたのは、“109”のレディース向けショップを見に行ったときです。当時、平日であっても多くのお客さんで賑わっていました。毎日そんな状況で、お店を見ていると、商品が棚に並べられる前にダンボールから売れるほどの盛況でした。この光景を見たときに、マーケットが盛り上がっていると感じました。
当時、そのマーケットはファッション業界からは軽視されていたのですが、それでも私はその熱狂を目にし、パワーを感じたのです。そして“109”は、様々なセレブリティが日本を訪れた際に買い物に来るようになり、ファッションのメッカとしての観光地となりました。
セレブリティが訪れるようになると、ファッション業界も態度を一変させ、 “109“がファッションの中心地へと変わっていったのです。その変化に憤りを感じつつも、ファッション業界の本流とは別のパワーを感じ、これは成功するのではないかと思いました。
しかし、女性向けファッションが“109”で大変な売れ行きを見せていた一方で、男性向けファッションは全く違っていました。そもそも、女性がファッションに支払うコストと男性が支払うコストに大きな違いがあるため、女性向けマーケットと比べると男性向けマーケットはかなり小さく、男性向けブランドは世の中にあまり存在していませんでした。
では、彼らがどのようなものを購入していたかというと、レディースブランドの大きいサイズを着たり古着を着たり、あるいはアルマーニの20万円のスーツのような高級品を着ていたのです。彼ら向けのブランドが存在していないのであれば作れば面白いと考え、実際に販売を開始しました。
商品を販売するうえでは、露出を増やし、認知度を上げることが必要です。当時、原宿には聖地と呼ばれるセレクトショップがあり、そこに商品を置かせてもらうことからスタートしました。2000年初頭はインターネットが徐々に普及していた頃で、まだ雑誌の影響力が残っていた時代だったので、メンズエッグという雑誌とインターネットをうまく活用し、知名度を上げていきました。
しかし、ブランドが急速に拡大するとあっという間に縮小してしまうこともあります。そのため、ギャル男向けの商品から一般の大学生が着られるような商品にしていく必要があると考えていました。ところが私たちが“109”で目にしたのは、最初はギャルだけが購入していた商品が徐々に一般的な大学生、OL、主婦にも購入されるようになっていく様子でした。
東京コレクションではバッシングの中でも成功。世界進出への第一歩となる。
2000年代後半、ファストファッションブランドのForever 21やH&Mが日本市場に進出し始めました。このため、私たちが展開していた手頃な価格でありながら高いブランド価値を持つメンズマーケットと、ファストファッションのマーケットが競合することになりました。その時、私は「このままでは外国のブランドには勝てないだろう」と感じました。
そこで、日本市場だけではなく世界に進出するために東京コレクションに参加し、ランウェイを行うことにしました。これが2010年のことです。東京コレクションへの参加を発表した瞬間、SNSで批判が相次ぎました。「ギャルのブランドが東京コレクションに出るなんて、東京コレクションは終わったんじゃないか」、「品質の悪いものがランウェイをやるなんて許せない」といった誹謗中傷が飛び交いましたが、私はTwitterで具体的な反論を行い、立ち向かいました。
恵比寿ガーデンプレイスでランウェイショーを開催したところ、私たちのランウェイを見たいという人たちだけで、なんと建物を2周半するほどの行列ができ、多くのお客さんにご来場いただきました。さらに、私たちが最大動員数を達成し、翌週のある新聞の表紙を飾ることができました。
そこから世界に向けた展開の取り組みが始まりました。東京コレクションの経験を通じて、自分たちでショーを開催する方がお客様を呼べるし、業界人の評価を気にする必要がないと感じました。もちろん、ショーに出演したことで海外のバイヤーから注目され、オーダーを受けることで本格的な海外進出が始まったという面もありました。
しかし、決められたフォーマットに縛られるよりも、インターネットや自分たちのSNSを利用してイベント開催や宣伝活動を行う方がより効果的だと感じました。
現在も、自己発信を中心に、ほとんどメディアを使わずに活動を続けています。
かっこいいより面白いを追求。世界中のカメラマンが広めてくれるから。
私は毎日様々な企画を考えていて、社内でも「“かっこいい”か“かっこ悪い”か」よりも「“面白い”か“面白くないか”」で決めるように指示しています。面白い企画であれば、ユーザーが自然に宣伝してくれるため、自動的に広がっていくようなアイデアをスタッフに提案しています。
最近では、アート活動家がモナリザにケーキをぶつけた事件がありましたが、その事件が起きてわずか1時間後にTシャツを販売しました。ケーキを投げたシーンの写真をスクリーンショットで撮り、フロントにプリントして「Piece of Cake」と皮肉を込めたTシャツを作成しました。これが瞬く間に世界のニュースで取り上げられ、4~5,000枚のオーダーが世界中から寄せられました。
#FR2は「カメラマンのブランド」というコンセプトがあります。世界中の人々がカメラマンだと考えており、もちろん、スマホで撮影するだけの人たちもカメラマンだと思っています。そして、既に世界中の多くの人がカメラやスマホで撮影した写真を楽しんでおり、写真でコミュニケーションを取ることが現代の世界では一般的になっています。ですが、それに気づいていない人がまだまだたくさんいると思います。私たちが面白いものを提供し、ユーザーがそれをスクリーンショットや転載などで広める行為もカメラマンであり、全員がクリエイターだと思っています。
一般的にはファッションでは素材やシルエット、かっこよさが本流だと思いますが、私たちのコンセプトは「面白さ」であり、遊び心やクリエイティビティが重視されます。普通のファッションブランドはそういったアプローチはあまり採用しないかもしれませんが、私たちは独自のスタイルで新しい価値を提供したいと考えています。
第1回は、自社ブランド「ヴァンキッシュ」の立ち上げ背景と、“かっこいいより面白い”を追求するマーケティング戦略についてお聞きしました。
次回は、「ECで簡単に買えないから生まれる価値」についてお聞きします。