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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。
小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
今回のゲストは、ふらっと入りたくなるような田舎町のレストランをコンセプトとして始まった「Hiracon’chez(平子ん家という造語)」からスタートし、福岡発祥のベーカリー「AMAM DACOTAN」やドーナツ専門店「I’m donut?」などを展開している株式会社peace put 代表取締役 平子 良太さんです。
創業者がどのようにして料理の道へ進み、福岡にて小さなパスタ食堂をオープンするに至った経緯、成功を収めたパスタ食堂から派生し、パン屋やドーナツ専門店「I’m donut?」の開業に至るまでの挑戦と革新、国内外での店舗展開や、品質に対するこだわりについて、3回に分けてお送りします。
第1回は、創業者がどのようにして料理の道へ進んだか、パスタ食堂のオープンなどについてお送りしました。
第2回は、パスタ食堂から、パン屋やドーナツ専門店「I’m donut?」の開業に至るまでの挑戦と革新などについてお送りします。
この記事の目次
成功の要因はストーリー
パン屋も順調に成功しました。しかし、それぞれのお店が最初からうまくいったように見えても、その規模やレベルは異なります。
最初の小さなパスタ屋は、私一人で運営しており、アルバイトに月に5、6万円支払えば十分で、家賃も3万円という小規模なものでした。
当時の「うまくいく」というのは、その程度の規模の話です。しかし、そこからスタートし、徐々にお客様が増え、最終的にパン屋の開業に至りました。
成功の要因の一つに、背後に大きなストーリーがあったことが挙げられます。
お客様から見て、私がどんな人物か分からない状態でパン屋をオープンしても、うまくいかなかっただろうと思いますが、これまでの「ヒラコンシェ」に来てくれたファンたちが少なからず育ち、その人たちがパン屋「AMAM DACOTAN(アダム ダコタン)」のオープン時に一気に来店してくれたことで、口コミが広がりました。
また、商品にも工夫を凝らしました。
当時、私は自ら料理をしていたため、惣菜系やソーセージを毎日自分で作っていました。特に腸詰めしたてのソーセージを焼いて提供するソーセージドッグが一番人気でした。
満足できないから自分で作ってみる
当時のパン屋は、今では想像もつかないほど種類が少なかったと思います。
多くのパン屋が小麦の味を重視して、惣菜パンはハムとチーズだけのようなシンプルなものが主流でした。そのため、どのパン屋に行っても満足感に欠け、もっと多くの選択肢を求めていました。
この状況から、私はパン屋を開く際に、お客様にがっかりさせないよう、期待に応えることを強く心掛けました。単に種類の豊富さだけでなく、食べたときに驚きを感じるような製品を提供することを目指し、商品のバリエーションを広げました。
当初はたった4種類のパンしかありませんでしたが、それを50種類に増やすことが私の使命でした。
しかし、それぞれの生地には異なる仕込みが必要で、作業は非常に大変でした。
惣菜系や甘い系のパン、あんこやカスタードなどを含む幅広い品揃えを実現し、無駄にならないよう工夫しました。たとえば、失敗したパンが出ても、それを再利用して新しい商品を生み出すのも私の役割でした。
壁にぶつかりながら考える
開店当時から現在に至るまで、パンのロスはほとんどありません。
基本的にはオープンしてからお客様が途切れることはほとんどありませんでしたが、それとは別に、失敗したパンをそのまま無駄にしたくないという思いがありました。
失敗したパンとは、焼き上がりに失敗したものや、工程の途中で塩を入れ忘れたパンなどです。こうしたパンは、そのまま廃棄するのではなく、後から液につけて焼き直したり、パン粉にして再利用するなど、様々な方法で工夫し、無駄を減らしてきました。
私が次の業態に挑戦する際には、「何かをやりたい」というよりも、壁にぶつかりながら考えることが多いかもしれません。
あるいは、「何かが生まれたから始める」という感覚が近いです。例えば、「I’m donut?(アイムドーナツ)」は後者の例で、そういった発想からお店を始めたという感じです。
私はブリオッシュ生地が大好きで、通常のパン屋では焼くことが一般的ですが、「揚げたらもっと美味しくなるのではないか」という考えがきっかけでした。もともとの食感や旨味を活かし、そこから進化させて新たな商品を生み出しました。
誰かに任せるのではなく、自分自身で作り上げたい
パスタの食堂からスタートし、その後ベーカリーを出店しました。
私自身は、当初から他店舗展開を考えていたわけではありませんが、結果的に2店舗目のベーカリーを博多駅に出店することになりました。
そのお店は「DACOMECCA(ダコメッカ)」という名前で、パンの聖地をイメージして作りました。このお店は福岡に一店舗だけに絞って出店しました。
私が好きなのは、お店をプロデュースすることです。
パン屋が成功したからといって、何店舗も拡大していこうとは考えていません。
ひとつのパッケージができたからそれを広げようとは思わないのです。むしろ、各店舗のデザインやシステムは毎回しっかりと考えたいと思っています。誰かに任せるのではなく、内装なども自分自身で丁寧に確認しながら作り上げたいと思っています。
そのため、それぞれのお店がスタンドアロンで存在しているのだと思います。そして、その流れの中で「I’m donut?(アイム ドーナッツ)」が誕生しました。
使命感を感じるほどの美味しさ
私は以前からブリオッシュの可能性を模索し、さまざまな試作を重ねていました。
次の試作では、揚げてみたいと考えていた時期のことです。ちょうどその頃、助っ人として来てくれていた仲間の一人が「これを揚げてみたい」と言い出したのです。
私も同じことを考えていましたので、同じアイデアを持っている人がいるなら、これは挑戦するしかないと決意し、試作に取り掛かりました。
実際に揚げてみると、独特なモチモチ感、歯応え、旨み、そして食べた後に一瞬で溶けるような食感が合わさり、総合的に完璧なものが出来上がりました。
私たち自身もここまでの商品ができるとは予想しておらず、専門店を作らなければならないと感じるほどの使命感を覚えました。
私は「AMAN DACOTAN(アマン ダコタン)」で美味しいドーナツができたというストーリーでスタートさせたいと考えました。発売後、ドーナツはすぐに売り切れるほどの人気となり、全く生産が追いつかないほどでした。
そんな中、蔦屋書店中目黒からパン屋出店のお話が舞い込みました。私たちもぜひ進めたいと考えましたが、施設内にはすでにパン屋が一店舗あり、同業種ということで出店が難しいとのことでした。
しかし、担当者から「平子さんに何かやってもらいたい」と言っていただき、そこで閃いたのです。私は、「では、ドーナツ屋をやります」とお答えしました。
白いおもちゃ箱のお店
中目黒のドーナツ店は、蔦屋書店の外観を見てデザインを決めました。
まず内装を決めていくのですが、おもちゃ箱のような雰囲気にしたいと考えました。
スペースは四角く、その中心部が空いており、作業の様子がよく見えるため、ポップで楽しいイメージでデザインしようと思いました。シンプルに、白いおもちゃ箱の中にいるような内装をイメージしました。
また、スタッフが働いている姿が見えるため、内装だけでなく制服も非常に重要だと考えました。お店全体をおもちゃの兵隊をイメージしてデザインしたため、制服はドラクエの僧侶の衣装のようなイメージにしました。
内装や制服を決めた後、最後にロゴを作りました。
ロゴは「I’m donut?」という、真っ白でシンプルなデザインになりました。
最初はさまざまな要素を追加していきましたが、「何か違う」と感じ、逆に要素を削ぎ落としていくことで、今のデザインにたどり着きました。
これまでのお店はアンティーク系が多かったため、ドーナツ屋のロゴはそれまでとは異なる印象を持つかもしれません。
このデザインは、内装のコンセプトに大きく影響を受けていて、一店舗目が蔦屋書店であったからこそ、生まれたデザインであったと思います。
第2回は、パスタ食堂から、パン屋やドーナツ専門店「I’m donut?」の開業に至るまでの挑戦と革新などについてお送りしました。
第3回は、国内外での店舗展開や、品質に対するこだわりをどのように貫いているのかなどについてお送りします。