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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を未公開放送分も含めて再編集したものです。
今回のゲストは、予約の取れない焼き肉専門店「肉山」の創業者、光山英明さんです。飲食店の経験はゼロで、「ただ飲食店をやりたい」と東京に出てきた光山さんが、どうやって店を開業、運営し、全国に名前の轟く人気店を作り上げることができたのか。そこには、光山さんならではに見えながら、お店オーナーにはとても参考になるやり方がありました。
第一回は、SNSなき時代に、すでにSNSによる集客と似たことをして集客に成功したというような、光山の創業秘話についてのお話でした。
光山さんのお話を紹介する2回目は、いよいよ、光山さんが「肉山」を立ち上げたときのお話です。
この記事の目次
原価率を高くしても利益が残るお店
最初の店、牛ホルモン居酒屋「わ」(お店「わ」の創業秘話については#1に)には、オープンから9年間現場に入り続けましたが、現場以外にも目を向けてみようと、現場をはなれ銀座のクラブに初めて行ったり、人に会ったり、遊んだりしてみました。1年間、お金を一生懸命使ったのですが、それほど得るものはなく、「全然おもんないな」と思いました。「もういっぺん、自分が現場に入る店をやろう。店から離れていったお客さんがもう一度来てくれる店を作ろう」と考えたのです。
そして、たまたま近所で見つけた物件で始めたのが、焼き肉専門店の「肉山」です。物件を見つけたときはコンセプトも何もなく、どんな店になるかわかりませんでした。わかっていたのは、僕が現場に入れば外でお金を使わなくなるので、もしお客さんがゼロでも利益になるなということです。家賃も10万円でしたから、原価を気にせず好きにやろうと考えました。
結果的に、肉山は、店の広さとしては23席ありながらも、僕1人でお客さんとコミュニケーションをするため、使うのは6席に絞り、料理も1種類のコースのみというオペレーションになりました。出すお肉は原価率を度外視した良いものばかりで、それを木箱に入れて出すなどの工夫をしました。肉を木箱に入れるアイデアは、よく行くお寿司屋さんがやっていたことで、そのお寿司屋さんに「その木箱、どこで買ったんですか」と教えてもらって、真似をしました。
肉山の原価率は非常に高いですが、自分が現場に入ることで人件費を節約し、お客さんとのコミュニケーションを大切にしようと席数を減らして家賃を削減。その分「とにかくええもん出したい」という気持ちで、食材の原価をどんどん上げていきました。もちろん、原価率を上げてもトータルでしっかり利益が残ります。今でも「とにかくええもん出したい」という気持ちは変わっていません。
光山流プロデュースとは
いま、肉山は全国で16店舗くらいになり、ホルモン屋さんも増えました。店をプロデュースしてほしいというオファーも来るようになり、僕がプロデュースしたり、アイデアを出したりする店も増えました。それら全部を含め、僕が関わっている店は、全国で60店舗くらいになりました。
プロデュースとはいえ、僕自身はシェフではないので、とくに何かを教えるというわけではありません。「肉山の光山」という名前を使いたいということでしょうが、僕自身は、きっかけ作りが役割だと思っています。お店のオーナーさんが、この方向で行こうと思えたり、お客さんが行きたいと思うようなきっかけを、僕がアドバイスするということです。
どんな店を作るかというとき、多いのが、中途半端にいろんなものを置き過ぎることです。「なんでもあるけど、なんにもない」ところが多いので、僕が、どこにポイントを絞るべきかの提案をしてあげます。
たとえば最近では、コロナ禍でオープンして鳴かず飛ばずで困っていたステーキ屋さんに、野菜を使ったアイデアを伝授しました。そこのオーナーさんはもともと、東京野菜のファーマーズマーケットをやっていたので、その野菜をもっと押し出そうというアイデアです。肉山ならぬ、野菜の山=「ベジ山」で、「ベジ山&ステーキ」というコンセプトです。
具体的には、もともとの目玉のステーキに加え、野菜も目玉にして、野菜は食べ放題、スープとご飯がついて、帰りには好きな野菜を2つ持ち帰れて5000円というものです。この店は来月リニューアルオープンします。
僕はミシュランの星をもらうような、1回の食事に3万円も5万円もかかるような店はやりたくありません。1回の食事でお酒もついて1万円以内というのが自分のルールです。
すべてのお客さんを平等にするとリピート客が増えるわけ
経営目標としては、売上よりも来店客数を重視しています。たとえば都下のある店では、来店客数の目標を、平日25人、週末35人に設定しています。その数をクリアしているかが大事で、35人をクリアしたのに、飲める量や食べる量が少なくて売上が低くなったとしても、それは気にしないでいいといっています。目標人数をクリアしていれば、結果的に売上は上がるからです。
どういうことかというと、お客さんがずっと来てくれることが大事なのです。売上を気にし出すと、お客さんに「もう一杯どうですか」と押し付けるようなことをしてしまいますし、満席の場合、食べ終わったお客さんに対し、「早く帰ってくれないかな」と思ってしまうものです。スタッフのそういう雰囲気は、店の雰囲気を悪くします。注文を無理強いされたり、ゆったり食事ができない店と思われたりしたら、お客さんは、次も来てくれるでしょうか。
目標を来店客数にしておけば、大金を使うお客さんにも、1500円のお客さんにも、同じように接することができます。売上を意識せず、来てくれたお客さんひとりひとりに平等なサービスをすれば、リピーターは必ず増えます。それが結果的に、売上アップにつながるということです。
「お客さんは来ない」と思って店の準備をしよう
お店をやっている人に伝えたいことは、「『お客さんは来ない』と思って、仕込みなどの準備をしよう」ということです。
仕込みはするわけですから、お客さんには来てほしいと思っています。でも「お客さんは来ない」と思い込んでいる。そうすると、店を開いてお客さんが来たら、それは奇跡的なことに思えます。「来ないはずのお客さんが来てくれた、ありがとうございます、どうぞどうぞ」という感じになります。
そういう感じで、あなたは毎日、お客さんを迎えていますか。
お客さんが来ることが当たり前になれば、お客さんに対する気持ちはどうしても弱くなります。そういう店やオーナーさんは長続きしないと思います。
お客さんが来てくれることは奇跡だと、変わらずに思い続けることができれば、お客さんに対する態度を新鮮に保つことができます。その態度は、常連さんに対しても同じにするべきです。
どんな人に対しても、決して慣れることなく、新鮮に「ありがとうございます」と思えることが、お店にとっては大事なのです。
今回のお話はここまでです。次回の最終回は、光山流スタッフの育て方のお話のほか、光山さんにとってお店とは何か、といったお話をお聞きしています。