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「お店ラジオ」は、店舗経営にまつわるトークラジオ番組です。小売店や飲食店など各業界で活躍するゲストをお招きし、インタビュー形式でお届けしています。この記事は、InterFMで毎週日曜日にお送りしている「お店ラジオ」で放送された内容を再編集したものです。
今回のゲストは、株式会社カチアリ 代表取締役の有村壮央さんです。一人焼肉を広めた「焼肉ライク」の元代表として活躍し、現在は飲食業界向けのコンサルティング事業を展開。独自の視点と実績をもとに、新たな価値創造に挑んでいます。
一人焼肉という新しい業態を開発し、「焼肉ライク」を最大93店舗に拡大させた経緯、その中で直面した設備コストや来店頻度の課題を克服するための取り組み、さらに海外展開における成功と国内市場での課題、そして業態の進化に向けた柔軟なマーケティング戦略について、3回に分けてお届けします。
第1回は、「焼肉ライク」の成長秘話や、西山塾で得た学び、新しい挑戦への背景などについてお送りします。
この記事の目次
一人焼肉から新たな挑戦へ
私は、2023年まで「株式会社焼肉ライク」の代表取締役社長を務めていましたが、現在は「株式会社カチアリ」で外食業界向けのコンサルティングを行っています。
以前、私は約13年間にわたり13店舗の居酒屋を経営していました。その後、焼肉ライクの親会社であるダイニングイノベーションの創業者、西山知義さんが主宰する「西山塾」に一期生として参加しました。この塾は、若手飲食起業家を対象にボランティアで飲食店経営を教える場でした。当時、私は居酒屋を13店舗運営してはいたものの、事業拡大の壁に直面し、約5年間停滞していました。そのような状況で西山さんと出会い、「西山塾」を通じて、事業拡大のヒントと刺激を得ることができました。
西山さんはこれまでに累計1,000店舗以上を出店され、豊富なノウハウをお持ちでした。このような実績を持つ方のもとで学びたいと思い、そのタイミングで西山さんから「焼肉のファーストフードという新しいコンセプトが受けるはずだ。一緒に挑戦しないか」と声をかけていただきました。私は自身の成長を求めてこのプロジェクトに参加し、約5年をかけて「焼肉ライク」を軌道に乗せることができました。そして、事業を安定させた後、当初からの計画どおり代表取締役を交代し、新たなステージに進むことを決意したのです。
一人焼肉の挑戦と課題
「焼肉ライク」は1店舗からスタートし、最大93店舗まで拡大しましたが、現在は82店舗まで縮小しています。私は現在、直接的な運営には関与していませんが、この業態が新たなフォーマットへと進化することで、再び成長を遂げることが期待できると思います。
店舗数が大きく伸びた要因の一つは、コロナ禍において「一人焼肉」というスタイルがソーシャルディスタンスの観点から注目され、大きな需要を生んだことです。しかしながら、焼肉は定食などと比べると来店頻度が低い傾向があります。「焼肉ライク」は焼肉を日常の食事に変えることを目指していますが、そのスピードがまだ十分ではないと感じています。
たとえば、朝焼肉を楽しむ文化を作るために、鍋メニューなどを取り入れなるなど、新しい食文化の醸成を試みていますが、定着していないのが現状です。この文化が根付けば、より高頻度での来店が期待できると思います。繁華街などの立地では、こうした工夫が効果を上げることが多いですが、住宅街などの限られたパイの中では来店頻度の低さが課題となります。特に、2か月に1度の来店頻度では、家賃や人件費を考慮すると経営が厳しくなる可能性があります。
また、焼肉は平均客単価が1350円と高い一方、コンロやダクトなどの設備は一般的な飲食店の2倍程度のコストがかかるため、設備投資も一般的な飲食店の約2倍となり、減価償却費が課題となっています。
一人焼肉の次のステージへの戦略
一人焼肉という業態は、吉野家のような牛丼チェーンと似た要素を持っています。たとえば、一人でカウンター席に座り、気軽に肉を楽しむという点では共通しています。
しかし、吉野家の強みは、短時間で手軽に食事を済ませられる点であり、その点が「焼肉ライク」とは異なっています。吉野家は牛丼を中心に「牛すき鍋」や「唐揚げ」など幅広いメニューを展開し、多様な来店動機を生み出していて、月1回は訪れるイメージがあります。「焼肉ライク」にもこの要素が求められると思いますが、まだ十分に備わってはいません。同様に、多様なメニューで定食化を進めた「すき家」も現在では約2000店舗を展開しています。「焼肉ライク」も次のステージでは、このような戦略を取り入れる必要があるのではないかと思います。
こうした進化には時間がかかるかもしれませんが、安くお腹いっぱい食べたいというお客様のニーズに応えるために、鶏肉や豚肉のメニューを拡充して価格を抑えたり、逆に高品質の肉でプレミアム路線を目指す選択肢もあると思います。
外国人に好まれる一人焼肉のグローバル展開
焼肉という文化は、インバウンド需要に非常に強く、多くの外国人に好まれる食体験です。特にインバウンド需要が高いエリアでは、焼肉は寿司や天ぷらと並ぶ人気の料理で、多くの観光客が訪れます。この点で、「焼肉ライク」はラーメンチェーンである「一蘭」と似た特性を持つと考えていて、一人で焼肉を楽しむというスタイルは、観光客にとっても体験になります。
「焼肉ライク」は、海外展開が急速に進んでおり、現時点では海外の店舗数が日本国内の店舗数を上回っています。これは、「一人焼肉」というコンセプトを超えて、焼肉が「大衆化」しつつあることを示しているのだと思います。「焼肉をファーストフード感覚で楽しむ」というブランド戦略が功を奏し、急成長を遂げています。この勢いにより、「焼肉」というカテゴリーで世界一の規模を目指すポテンシャルがあると確信しています。
第1回は、「焼肉ライク」の成長秘話や、西山塾で得た学び、新しい挑戦への背景などについてお送りしました。
第2回は、一人焼肉の課題として挙げられる来店頻度や設備投資の問題、さらには吉野家に学ぶ業態進化のヒントなどについてお送りします。